魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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3章

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天帝の代替わり事件から1週間。

当然の如く元天帝は魔王城に住み着き、魔王様の隣に居座った。

広間にいる時は隣に立ち、食事をする時は隣に座り、寝る時も……隣か上かは知らないが、リタはこんな状況が一生続くのかもしれないと思うと辟易した。

それでも、魔王様は気にする様子がない為、自分が我慢するしかないと眉を寄せていた。

そんなリタを魔王様が気に留めないわけがなかった。

「リタが困っているので、ランシュエはもう少し人目を気にしてください」

魔王城の広間で、魔王様が今日は何をしようかと考えている所、元天帝は魔王様の髪を梳いていた。
その姿を見たリタが眉を寄せたのだった。

「なぜ親離れできない者のために私が遠慮しなくてはならないの?」

「私は陛下の僕です。陛下はお気になさらず」

元天帝は魔王様に目を向けて、リタはその2人から目を背けて、それぞれ言った。

魔王様はこの2人が仲を取り持つ事を早々に諦めた。

そこへ「ドンドン」と、魔王城の扉をノックする音が響いた。魔王様は、最近の来客を思い返すとまともな挑戦者がいなかったため、今日こそは楽しい戦いが舞い降りたかと胸を躍らせた。

「失礼致します!」

だが入ってきたのは白い衣を纏った神官2人で、彼らのことは魔王様もしっかりと覚えていた。
彼らは魔王様の前まで早足で歩いてくると、元天帝に向かって跪いた。

四神官のジークサイスと、ジオレライだった。

「主がこちらにいらっしゃると聞いて、一目見ようと参上いたしました」

この堅苦しい言葉遣いに、相変わらず魔王様は息が詰まりそうだった。

「スウジオが言った?」

元天帝がジオレライのことを愛称で呼んで、魔王様は少なからず驚いた。だが、元天帝はこの神官2人の方を一目もせずに魔王様だけを見ていた。

そしてどうやらジークサイスも、呼ばれた本人ですら驚きを隠せていなかった。
そんな周りの様子に元天帝はおかしくなって笑った。

「私が名前を覚えていた事がそんなに不思議?」

「ねぇ、ロージ?」ともう1人、ジークサイスに向けて言った。

「い、いえ!そんなことはございません!」

ジークサイスは頬を赤らめて喜んでいるようで、彼はどうやら元天帝の信奉者なのかと魔王様は推測した。

「それに、私は既に追放された身だから、膝が付いたままでは困る。そんなに誰かに頭を下げたいなら、ここがどこだか忘れていない?」

元天帝は魔王様の顔を覗き込んで微笑む。リタは、元天帝が魔王様しか見えていない事は十分承知していたが、まさか神官相手にここまでとは思っていなかった。

とうの魔王様は、ただ元天帝に微笑み返しているだけだった。が、やはりそれだけではなかった。

「ランシュエ、あなた側近にすら何も話していないのですか?」

魔王様は居心地が悪く、元天帝を睨んだ。
自分の失態を思い返すと、早く説明してほしかった。

「そこの神官は把握しているよ。好きに説明しておいてくれ」

そうジオレライに一瞬視線を向けた。
その言葉に今度はジークサイスがジオレライに目線を向ける。ジオレライは、自分が把握していると元天帝が知っているとは思わなかったようだった。

「主が天帝の座を降りたがっていたことは存じ上げておりました。同時にナンタラードが思惑を巡らせ、主を降ろしたがっていたことも。私は主の希望に添えるよう尽力したまでです」

「それでは、ナンタラードの思惑通りということか?」

ジオレライの発言にジークサイスは声を荒げてしまい、「失礼致しました」と元天帝に一言謝罪した。

「結果的にはそうだね、問題ある?」

元天帝は右手を振りながら肩をすくめた。ジオレライは頭を左右に振りながら言った。

「彼は、宝珠を独占し天界を自身の物にする心積もりでしょう」

「それで上手く回るなら問題はないし、私の知ったことではない」

元天帝は本当に興味がなさそうだった。

「今後、ナンタラードが何か仕組もうとしたら教えてください。対処します」

魔王様はため息をついて、元天帝の腕を引っ張って一歩前に出した。元天帝にそんなつもりはないが、魔王様が言うなら従わないわけにもいかない。

「仕方がないね」

魔王様の方を見て、笑いながら元天帝は言った。
神官2人はこんなにも表情豊かに話す元天帝を初めて見た。

ジオレライは魔王様の方に頭を下げて謝辞を述べた。

「感謝致します」

ジオレライとジークサイスは声を合わせて「失礼致しました」と言って、魔王城から去っていった。





魔王様はナンタラードに興味があったが、それ以上に宝珠の方に関心が向いてしまった。何か考えるように元天帝に訊いた。

「あの宝珠はランシュエの力ですか?」

「1割も使わずに作った似非宝珠だよ」

魔王様がナンタラードと戦った時、もしその力が10割であったなら、魔王様どころか力が暴走してその場の人たち全員がどうなっていたか、わからないだろう。

「その力に縋るなんて本当に滑稽だ」

笑う元天帝に、魔王様とリタは固まった。本当に性格が悪いと魔王様はため息をついた。

「あなたの性格が最悪なのに、まだ世界が続いていることに感謝しなければなりませんね」

「本当に良かったよ。私がレイリンにしか興味がなくて」

魔王様は頭を抱えてため息をついた。

「それであの雷が降ったのですから、何も良くありません」

一体これまでどれほどの人達を巻き込んだのかわからない。だが、まだ問題は山積みだと魔王様は認識した。

「陛下、宝珠とは?」

魔王様は、元天帝がリタと組んでいたのだから説明を受けていると思っていた。

「天帝の証のようなものだそうです。私よりも詳しい人がここにいますけど」

魔王様の前では、リタと元天帝が直接話すことは殆どなかった。何故か魔王様が中間に立たされている。

「宝珠の力は神力よりも出力が大きいだけだよ。神力を使う時は青白く光るけれど、宝珠の力は金色だ。根本は魔力と呼ばれているものと変わらないと思うよ」

そう言うと、元天帝の両手にそれぞれの色をした光の玉が浮かんだ。

「ね、違いなんてそうあるもんじゃないよ」

「そんなわけがありますか」

魔王様は深いため息をついた。





「スウジオ、何故言ってくれなかった!」

「ロージに言ってしまったら、主がその座を降りることに賛成したのか?」

「くっ……」

このジークサイスは魔王様が推測したように、元天帝の信奉者だ。崇拝している。

ジオレライの方は、元天帝の思惑を知っていた為に手を出さず、評決の時には解任賛成の方に手を挙げたようだった。

「まさかスウジオが主に歯向かうとは思わなかったから、おかしいとは思っていたんだ」

「私の事をよく分かっているロージなら、察してくれると思ったのに。私の見込み違いだったなんて」

ジオレライは嘆息し、それを気まずそうにジークサイスは見つめた。

これからの天界について考えなければならない2人は、それ以降何も言わずに空へと戻っていった。
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