魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

文字の大きさ
38 / 64
3章

31

しおりを挟む
それから2日後、魔王様の魔力も徐々に回復の兆しを見せ、頭痛も治りつつあった。

「陛下、本日の朝食はトーストとポタージュスープです」

舌は庶民派の魔王様は、ベーコンとチーズを包んで焼いたパンが好きだった。
そして体調の事もあり気分も上々だった。

「ありがとうございます」

「頂きます」と手を合わせてから、パンに手を伸ばす。
元天帝も食事を必要とはしないが、魔王様に合わせて一緒に食べている。隣で美味しそうに頬張る魔王様を見て、それと同じ感覚を共有したいらしい。

そんな朝から和やかな時間を過ごしていたが「リンリン」とベルの音がが食卓に響いた。

このベルは魔王城の扉が開けられた時に鳴る仕様となっており、誰かの来訪を告げている。

リタは魔王様に一度目線を向けると、部屋から出ていった。

「朝から熱心な人がいるんだね」

「そろそろ静かな日々を過ごしたいです」

「昨日のような熱心な人ではないと良い」

「貴方の熱心な信者は手に負えません」

昨日は元天帝狂信者集団が魔王様のところへ相変わらず殴り込みに来た。
元が掛かるのは「天帝」の部分だ。

彼らは魔王城に張り込みをして、元天帝の居場所を突き止た。

そして誑かすな等と叫んでドアを叩いたのだ。
当然門前払いをした。

「そういえば、リタが情報を集めてきましたが、反天界軍は天帝の交代と、天界の不干渉を条件に解散したそうですよ」

元はと言えば、元天帝の天雷のせいであるため、それには納得だった。

「そう。適当に処理してくれて助かるね」

「貴方の部下に、もう少し感謝してください」

魔王様は慌てる事もなく、自分のペースでパンを頬張る。元天帝はそんな魔王様から少しも目を逸らさず「どうでもいい」と言いたげだった。

「私はレイリンと2人きりで過ごしたい」

「花嫁修行から出直してください」

と魔王様は言って、リタの用意したパンを一欠片摘み上げて元天帝の口へ詰め込んだ。

2人は食事が終わると、廊下を歩いて広間へ向かった。その時、リタが広間から出てきた。

「人間が来ています。シュエイシカ様は控えた方がよろしいかと」

この言い方で誰が来たのか凡そ察知した。

「サイですか?」

「はい」

元天帝を捜しに来たのだろう。魔王様は隣の元天帝を睨み上げた。これにはどう答えていいか分からない。
元天帝はそれでも他人事のように、肩をすくめて「好きに言っていいよ」と言った。

「全部本当のことを言うのですか?」

「全て私のせいにしても良いし、黙っていても良いよ」

魔王様は少し間を置いたが、考えるよりもとりあえず彼の話を聞こうと広間へ入った。元天帝は続いて入らなかった。

「お待たせしました」

入った途端に叫び声が広間に響いた。

「魔王様!私のシュエイシカ様が天界の奴らに取られたんだ!力を貸して欲しい!」

「彼らは私を騙した!」などと騒ぎ散らすサイを、魔王様は呆然と見てしまった。

サイは衣服も髪も全て乱れ、完全に自分を見失っているようだ。

「どうしてこうなったのですか……?」

と小声でリタに訊いた。リタは特に悪びれる事もなく淡々と答えた。

「魔王様は嘘がつけないと思い、適当に天界の話をしたら自滅しました」

これでは完全に傀儡だ。血など必要もない。
そして、サイは訊いてもいないのに話し始めた。

「元々は天界の奴、あのナンタラードとかいう神官が数年前に私に近づいてきたんだ!彼が力を貸してくれると言ったんだ!その力を使ってシュエイシカ様に近づきたかった!それなのにシュエイシカ様は行方不明になって……やっと見つけて、やっと手に入れたのに!あのナンタラードは私を騙した!」

泣き喚いて崩れ落ちるサイに、魔王様は何と言えば良いのか分からなかった。

魔王としては彼に同情するが、個人の感情としては彼に同情する権利なんて無かった。

魔王様は冷静になって、コツコツと靴音を鳴らしながらサイに近づく。

「数日前にここで神官を見たと聞いた!魔王様が神官と繋がっているのならば、私を天界に連れて行ってくれ!ナンタラードに話を聞きたい!」

あの2人は隠蔽術を使っていなかったのか?ナンタラードを警戒していたはずなのに?魔王様は眉を寄せた。

天界付近では使っていただろうが、まさか人間に見られるとは思っていなかったのだろうと、魔王様は溜息をついた。

魔王様はサイの目の前まで行き、彼の姿を見て、ある時の元天帝の姿と重なった。自分が死んだと思い、呆然と泣いている時の彼だ。

魔王様はこのサイのため一肌脱ぐことにした。

彼がそう言うのならば、天界に連れて行く事はできる。ナンタラードが今回のことを仕組んだことにも間違いはないはずだ。

「分かりました。ただ、貴方の思い通りには行かないかもしれません。それでも行きますか?」

「ありがとう!」

魔王様はまた頭痛の種が増えてしまったと頭を抱えた。




魔王様は魔術で一時的に、サイの身体を浮かせ、付いてくるように言うと、サイはすぐにその状態に慣れて魔王様に続いた。

天界の結界のところまで行き手をかざせば、そこにはしっかりとした結界が張られている。

魔王様は特に隠れる必要もないかと、右手に魔力を込めて結界に向かって力一杯拳を振った。

パリンッと割れるような音がすると、そこには天界の広大な姿が見え、大きな鐘の音が鳴り響いた。

「着きましたよ」

サイは2度目のこともあって、特に驚く様子はなく、すぐさま天帝の宮殿へ向かって行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...