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【13話】

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「一先ず仲間として歓迎しよう。俺はクオンだ。殿下の近衛兵をしている。改めてよろしく頼むサイヒ」

「あぁ此方こそ宜しく頼む。ルークの味方が王宮にいて安心した」

 サイヒとクオンが握手をする。
 その光景をつまらなそうにルークは見ている。

「殿下、これぐらいで嫉妬しないでくれますか?」

「別に嫉妬などしていない…」

 いや明らかに嫉妬している。
 誰の目から見てもそうだろう。

「何だ、嫉妬してくれないのか?」

 クスリ、とサイヒが微笑む。
 その微笑みに頬を赤く染めて。

「……余り私以外に触れないで欲しい」

 ルークが不満げに言った。
 サイヒがクスクスと笑う。

「可愛いなルーク。心配しなくても私はそれ程他人に触れる事はしないぞ?」

「なら私は?」

「ちゃんと私の特別だ。出なければ抱きしめたりはしない」

「そうか…私は特別か……ふふ」

 ルークが蕩ける様な表情を浮かべる。

(殿下…いくら何でもチョロ過ぎます……しかしナチュラルにイチャつくなこの2人……)

 クオンは”あえて突っ込まない”を習得した。
 暇があればイチャイチャしだすのだ。
 一々突っ込んでいればキリがない。

(まぁサイヒは細身で小柄だし整った顔はしているな。殿下と並んでもそう霞むと言うことは無いか?)

 サイヒには今も【認識阻害・弱】かかっているのでクオンにはその美貌もしっかりと認識出来ないのだ。

「そう言えば【認識阻害】はどのように使用しているのだ?殿下には影響ないように見えるが?」

「あぁ、好意を抱いてくれている相手には【認識阻害】は影響のないようにしている」

「では俺には本来の存在感が見えていないと言う事か。できれば俺相手にも解いて貰いたいのだが。味方の印象が残らないのはチームを組むにあたって不便だからな」

「それもそうだな」

【解】

 サイヒの【認識阻害】の術が消える。
 そして現れたのは。

 夜の闇を溶かし込んだような漆黒の髪
 光を受けた水面のような青銀の瞳。
 瞳を縁取る睫毛は長く濃い。
 すっ、と通った綺麗な鼻筋に形の良い鼻。
 その下の唇は形よくバラの花びらの様に色づいている。

 綺麗なパーツが絶妙な位置で配置されている。
 性別を感じさせない中性的な美貌は、神が手を込めて作ったのかと言うほど麗しい。

「な………」

 クオンが言葉を失った。

(これは殿下が落ちる訳だ)

 そう思わせるほどに【認識阻害】がかかっていないサイヒは魅力的だった。

 呆けるクオンの視線から隠すように、ルークがサイヒを抱え込む。
 顔を見せないように腕の中に閉じ込めるが如く。

「どうしたルーク?」

「クオンが悪い」

「うむ、何かよく分からないがルークが嫌なら【認識阻害】をかけ直そうか?」

「それではクオンがサイヒを認識できない。仕方ないから、我慢する」

「そうか、ルークは良い子だな」

 サイヒは腕を伸ばしルークの頭を撫でる。
 それでルークの機嫌は多少解消したらしい。
 サイヒを抱きしめる腕の力が緩くなった。

「いや、不躾に見てすまない。しかしコレなら確かに殿下を回復させた方法に、見ていた者から苦情が出ない理由が分かった」

「クオン、何だそれは?」

「殿下は意識がなかったから知らないのですね。サイヒは殿下を水の中から引き上げた後、どのような治療かは理解していませんが何度も殿下に口付けたそうです」

「…くち、づ、け?」

「あぁそう言えばしたな。正確には口付けでなく人工呼吸だ。肺に息を吹き込み自発呼吸を促す救命救急だな」

 動じずにサイヒが答える。

「人工呼吸とは初めて聞いたな」

「私の国ではポピュラーな技術だぞ?」

「何度か経験があるのか?」

「いや、ルークが初めてだ。しかし後になって気づいたのだが【空間魔術】で肺から水を抜き、風魔法で空気を送れば良かったんだ。どうやら私も相当焦っていたらしい…て、ルークどうした?顔どころか全身真っ赤だぞ?」

 サイヒの言う通りルークは体を真っ赤にして瞳を潤ませている。
 若干プルプル震えていた。
 形の良い手は唇を抑えている。

「ファース…ト、キス……」

「あぁルークはファーストキスだったのか。今回は人命救助だからノーカウントで良いと思うぞ?ついでに言うと私もファーストキスのなので帳消しにしてくれると有難い」

「サイヒも初めて?」

「あぁ私も初めてだ」

「……サイヒのファーストキスが、私」

 今にも煙を出しそうなほどルークは真っ赤だ。
 見ている方が居た堪れなくなりそうである。

「殿下!気をお確かに持って下さい!!」

 今にも体の弱いご令嬢のように、ふらりと倒れそうである。
 見る者に庇護欲を抱かせるその様に、流石にクオンも呆れかえる。

(何処の乙女ですかアンタは!!)

「不愉快な思いをさせてすまなかったな」

「嫌じゃない!むしろ、その…嬉しい……」

 消え入りそうな声を、何とかルークは絞り出せた。
 内容はどうかと思うが。

「それは良かった。私も初めての相手がルークで良かったと思っているぞ?愛らしいルークが初めてとは役得だな」

 クスクスとサイヒは笑う。
 その笑顔につられてルークも蕩ける様な笑顔を浮かべた。

(このやり取り、最早付き合いたての恋人同士だろ…)

 クオンはどっと疲れた。
 もうコレはそう言う存在なのだと、クオンは何か色々な感情を捨てる事にした。
 決断が速い。
 クオンは様々な事に置いて優秀であった。

(俺はこれからコレにずっと付き合わされる訳だな……)

 クオンははっきりと、未来の自分が苦労に追われるだろう事を死んだ目で悟っていた。
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