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【32話】

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 ポーン!
 ポポ―――――ンッ!!!

 青空に色とりどりの煙幕弾が上がる。
 王都は何時もの倍以上の人が居る。
 隣国や属国の者も居るのだろう。

 何せ今日は待ちに待った《建国祭》だ。

 通りにズラリと並んだ屋台が美味しそうな匂いをさせている。
 その匂いに惹かれサイヒは先程からフラフラと屋台を覗きに行く。

 「サイヒ、まだ食べるのか?試合に差し支えないか?」

 心配そうにルークがサイヒの翡翠色の瞳を覗き込む。
 そう、今のサイヒは何時もの色合いで無い。
 長い黒髪は空色になり、三つ編みにされ背中で跳ねている。
 瞳は翡翠色。
 いつもとは違う色合いなのに、何故か随分とサイヒの容貌に似合っていた。

「食い足りんくらいだ。試合が終わったら屋台の商品を喰らいつくすとするか」

「屋台のモノを食べずとも優勝したら王宮の晩餐会に招待される。そこでご馳走ならたんまり出るぞ?」

「本当か!?うむ、だが…王宮の晩餐会か。あの2人も居るのだよな……会いたいが今の暮らしが無くなるのも勿体ない…悩むな、途中で適当に負けるか?」

「サイヒが会いたくない人物がいるのか?それなら呼ばないよう陛下にお伝えして排除させて貰えるが」

「いや、会いたいと言えば会いたいのだが、はたから見るだけで充分なんだ。だが間違いなく見つかる。そうすると実家に連れ戻されかねん……」

「サイヒが実家に?それはダメだ!?サイヒは私の半身だろう?私を置いて行かないでくれ……」

 ルークのエメラルドの瞳が潤む。

「あぁ私はルークの半身だ。決して置いて行ったりはしない。約束しよう」

 ギュウ、とルークはサイヒに抱き着いた。
 ここが裏道で良かった。
 この2人をゲイに間違えるのはクオンだけで充分である。

「では途中でわざと負けるのか?私はサイヒの負けるところは見たくないのだが…」

「そうだな、勝利をルークに捧げると言ったしな。あの2人に関しては何か対策を考えよう。どうせ捧げるなら優勝がルークも嬉しいだろ?」

「あぁサイヒの優勝を信じている。マロンには悪いがサイヒの勝利は私が捧げて貰う。代わりにクオンをコーンとして出場させたから、クオンがマロンに勝利を捧げればよい。その方がマロンも喜ぶだろう。まぁ優勝はサイヒのモノだがな」

「ふふ、楽しみにしておけ。ではこれからは私はサイヒでなくリリー・オブ・ザ・ヴァリーだ。言い間違えてはいかんぞ」

 サイヒが人差し指をルークの唇に当てる。
 その仕種にルークは頬を上気させる。
 唇を抑える手を取って、ルークはサイヒの甲に口付けた。

「応援してる、リリー・オブ・ザ・ヴァリー」

「ルークからのご褒美も期待しているよ」

 ルークの耳元で甘いアルトの声で囁いて、サイヒは控室へと向かって行った。

「どうしよう、ご褒美?やっぱりこう言う時は”私をプレゼント”と言うヤツが良いのだろうか!?クオンに止められているから拡張はまだしてないし!今からでも間に合うか!?でもクオンが”初めての初々しさが男心を擽る”とも言っていたし!?」

 顔を真っ赤にしたルークは、大会開始の銅鑼が鳴るまで1人で路地裏でパニックに陥るのだった。
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