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監禁八日目
監禁八日目② 絞首
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朝食を持ってきた雨宮を観察する。相変わらず隙のないスーツ姿、撫で付けた白髪も整っている。そのスーツの下には細身ながらその立ち姿からして、隙を一切見せない。背中に目があるのでは
まるで一瞬の隙で命を落とす修羅場を生きてきた男のようだ。喰うか喰われるか、常人には理解し難い世界。
しかし、雨宮にも付け入る余地はあるはずだ。たとえば肝心の部分は避けられても、要望は耳を傾けてくれる。そこで隙を作ることができれば。
───昼食を持ってきたタイミングで決行しよう。
鼓動が早まる。これまで、二度は逃げようと試みた。結果、どちらも失敗に終わった。しかしそんな人間に対して、拷問はしているとはいえ、処置としては甘くないだろうか。もっと監視の目を強めたり、拘束を強くしたり、何かしらのアクションがあっても良いものだ。
だからこそ、不安が過る。まさか、奴らはそれを楽しんでいるのではないか。そうであるならば、わざわざ玄関の内側に罠が仕掛けられていた点も理解できる。楽しんでいるのだ、自分たちのところから逃げようとしている様を。
しかし。そうであっても、決行しなければ道は開かれることはない。
雨宮が昼食を持ってきた。
トレーを置くタイミングで話し掛ける。
「あ、あの」
「何で御座いましょうか」
「さっきそこの角に、ゴキブリみたいな虫がいたような気がして……見てもらえませんか、どうしても苦手で……」
「そこの棚ですか」
「ええ……裏に入ったようで」
執事、使用人であるならば屋敷に虫がいたとしたら見過ごす訳にはいかない、そう思ったのだ。
雨宮が棚の方へ向かう。そこは、監視カメラの下で、死角になるだろうか。
雨宮が屈み棚の下を覗き込んだ。完全に優夜に背中を向けている。
「見た限り、いないようですね」
「あれ、おかしいな。確かにそこに逃げ込んだように見えたんですが」
なるべく自然な動きを装って近づく。こちらを振り向く気配はない。「それ」を手に近づく。雨宮が棚の下から顔を上げる前を狙って、足の鎖を雨宮の首に巻き付けた。そして、背中を押し、棚の横にうつ伏せになった雨宮の首を懸命に鎖で絞めた。
背中に全体重を乗せているので、雨宮は抵抗しながらもそれから逃れることはできないようだ。死ななくていい、気を失ってくれ。そう願って鎖を持つ手にさらに力を入れる。
雨宮は首に手をやり、足をバタつかせている。だが体重を掛けた優夜の方が少しだけ力で勝っている。
絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ
──殺せ
次第に雨宮の力は弱まっていった。しかし優夜はその手を弛めなかった。肩を掴まれた、あの感触が消えない。これくらいで気絶するような人間ではない。いや、もはや人間ではないのかもしれない。
頭の中がピリピリする。何かが壊れてしまいそうだ。大切な、何かが。
次第に力を弱め、そして遂に雨宮老人は動かなくなった。それでも絞め続け、優夜が鎖を放したのは雨宮を絞め続けて10分以上が経っていた。
我を忘れる、とはこういうことか。手に巻き付けた鎖が食い込み、血が出ていた。無我夢中のあまりできた傷、遅れた痛みは現実を引き連れてやってきた。
優夜は動かなくなった雨宮の身体を茫然自失で見下ろしていた。
まるで一瞬の隙で命を落とす修羅場を生きてきた男のようだ。喰うか喰われるか、常人には理解し難い世界。
しかし、雨宮にも付け入る余地はあるはずだ。たとえば肝心の部分は避けられても、要望は耳を傾けてくれる。そこで隙を作ることができれば。
───昼食を持ってきたタイミングで決行しよう。
鼓動が早まる。これまで、二度は逃げようと試みた。結果、どちらも失敗に終わった。しかしそんな人間に対して、拷問はしているとはいえ、処置としては甘くないだろうか。もっと監視の目を強めたり、拘束を強くしたり、何かしらのアクションがあっても良いものだ。
だからこそ、不安が過る。まさか、奴らはそれを楽しんでいるのではないか。そうであるならば、わざわざ玄関の内側に罠が仕掛けられていた点も理解できる。楽しんでいるのだ、自分たちのところから逃げようとしている様を。
しかし。そうであっても、決行しなければ道は開かれることはない。
雨宮が昼食を持ってきた。
トレーを置くタイミングで話し掛ける。
「あ、あの」
「何で御座いましょうか」
「さっきそこの角に、ゴキブリみたいな虫がいたような気がして……見てもらえませんか、どうしても苦手で……」
「そこの棚ですか」
「ええ……裏に入ったようで」
執事、使用人であるならば屋敷に虫がいたとしたら見過ごす訳にはいかない、そう思ったのだ。
雨宮が棚の方へ向かう。そこは、監視カメラの下で、死角になるだろうか。
雨宮が屈み棚の下を覗き込んだ。完全に優夜に背中を向けている。
「見た限り、いないようですね」
「あれ、おかしいな。確かにそこに逃げ込んだように見えたんですが」
なるべく自然な動きを装って近づく。こちらを振り向く気配はない。「それ」を手に近づく。雨宮が棚の下から顔を上げる前を狙って、足の鎖を雨宮の首に巻き付けた。そして、背中を押し、棚の横にうつ伏せになった雨宮の首を懸命に鎖で絞めた。
背中に全体重を乗せているので、雨宮は抵抗しながらもそれから逃れることはできないようだ。死ななくていい、気を失ってくれ。そう願って鎖を持つ手にさらに力を入れる。
雨宮は首に手をやり、足をバタつかせている。だが体重を掛けた優夜の方が少しだけ力で勝っている。
絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ絞めろ
──殺せ
次第に雨宮の力は弱まっていった。しかし優夜はその手を弛めなかった。肩を掴まれた、あの感触が消えない。これくらいで気絶するような人間ではない。いや、もはや人間ではないのかもしれない。
頭の中がピリピリする。何かが壊れてしまいそうだ。大切な、何かが。
次第に力を弱め、そして遂に雨宮老人は動かなくなった。それでも絞め続け、優夜が鎖を放したのは雨宮を絞め続けて10分以上が経っていた。
我を忘れる、とはこういうことか。手に巻き付けた鎖が食い込み、血が出ていた。無我夢中のあまりできた傷、遅れた痛みは現実を引き連れてやってきた。
優夜は動かなくなった雨宮の身体を茫然自失で見下ろしていた。
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