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監禁十一日目

監禁十一日目① 熊

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 拘束されていても、身体は熟睡していた。
 それほど衰弱し、疲弊している。食事は与えられているが、繰り返される拷問、精神的な苦痛は、もはや耐え難いものとなっていた。きっと今頃、和奏も……

 起きるとそこに、紫音の姿があった。
「やぁ、おはよう」
 一度姿を見せたからだろうか、今や当たり前のように部屋にやってくるようになった。
「大丈夫かい?」
 大丈夫なわけがないだろう。心配するなら、解放してくれ。それを言葉にせず、睨み付けた視線でその意志を示した。

 紫音はそれを読み取ったようだが、意に介していないようだ。しかし、黙って拘束具を外し始めた。
「拘束されっぱなしも辛いだろ?」
 ここの連中には、何もかも見透かされてしまうのだろうか。

「座りっぱなしは、身体に良くないからね。散歩でも、しようか」
 紫音は拘束具を外し終えると、突然そんなことを言い出した。

 紫音に連れ出され、あの廊下に出た。何も拘束はされていない。もしかしたら、逃げ出すチャンスなのかもしれない。いや、ここには和奏がまだいる。俺一人逃げたとしたら、和奏は……

 身体は拘束されていなくても、和奏を人質に取られているという精神的な枷が心を縛っていた。紫音はそれすらお見通しで、拘束をしなかったのかもしれない。

 エレベーターでひとつ上の階へと進んだ。エレベーターを降りてエントランスホールへと出た。左へ促された。そこは優夜が逃げようとした時には触れていない扉だった。紫音はポケットから鍵を取り出すと、その扉を解錠した。

 扉を開くとそこは廊下になっていた。床は白と黒のタイルで、菱形の市松模様になっていた。その廊下が不気味に写ったのは、そこに窓がなかったからである。

 ドアを二つ通りすぎ、突き当たりを右に曲がる。正面に両開きの扉があった。
 紫音は横のパネルにカードのようなものをかざした。カード認証になっているのか。解錠され、紫音は片方の扉を開いた。

  部屋の中に入ると、その異様な光景が飛び込んできた。そこには優夜より大きな身体持つ黒い毛並みの熊がいたのだ。

「うわっ」

 思わず声を上げて仰け反るが、その熊は動くことはない。よく見るとそれは熊の、剥製だった。

 熊だけでなく、そこには無数の動物の剥製があった。鳥やうさぎ、そして鹿など、生きてると見まごうほどであったのだ。
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