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監禁十一日目

監禁十一日目③ 写真

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 紫音は檻に近づき、ポケットから何かを取り出すと、檻に手を入れ、それをそっと置いた。眠らされている和奏は、ちょっとやそっとでは目を覚ましそうにない。
 それは、医療用のメスであった。
「これをどうするか、それは彼女次第。しかし、真実を知ったなら、彼女はこの刃を誰に向けるだろうね」
 最低の野郎だ。和奏に無理矢理あんなことをさせた挙げ句、それを脅しに使うなんて。

 それでも優夜には刃向かうことはできなかった。ただ、静かに涙が冷たい石の床に落ちるだけであった。

 優夜と紫音は、書斎に戻った。
「和奏だけでも、解放してやってくれないか。お願いだ」
 どうせ断られるだろう、と思っていると、紫音は意外な答えを返してきた。
「あぁ、構わないよ」
「えっ」
「けれど、条件がある」
「条件、だと?」

 紫音は笑みを浮かべて、優夜の反応を楽しむかのように、ゆっくりとした言葉で言う。

「そう、ある人を、拉致して欲しい」

 
 ──何を言っているんだ。拉致監禁している人間に、他の人間を拉致しろ、だと?
「実はもう一人連れてくる必要があってね。今まで雨宮さんがその役目をしていたのだけど、君が殺してしまったからね。人形の身体では、人を連れ去るのは、少し骨が折れる」
 くくく、と乾いた笑い声を上げる。

「俺がそんなこと、すると思うか?」
「ああ、するよ。君は、妹思いだからね」

 紫音は、和奏を人質に、優夜を都合よく使おうとしている。どこまでも、卑劣で最低な野郎だ。自分一人であれば、このまま死んだ方がマシだが、和奏まで巻き込むことはできない。


「葉子って女にやらせればいいだろ」
「葉子さんも、本業が忙しいからね。その上父親のやっていた雑務もやってくれて、そこまで手が回らないのさ」
 言い訳にしか聞こえないが、反論することさえできない。そして一枚の写真を優夜に見せた。

 そこに写る顔、それはもう見ることはないと思っていた顔。

 それは。優夜の元カノ、篠崎莉乃しのざきりのであった。
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