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監禁十六日目

監禁十六日目① 視線

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 目を覚ましても部屋は暗いままだった。俺は椅子に座らされ、後ろ手に縛られ、猿轡で口を塞がれていた。横には葉子が縛り上げられ、床に寝かされていた。

 ボンヤリとしか姿は見えない。
 そして、部屋にはもうひとつ、女のくぐもった悲鳴とバタバタと暴れるような音が響いていた。姿は見えないが、莉乃だろうか。

 暗がりに、何者かの影が見えた。揺らめき、蝋燭の炎が部屋に明かりを灯した。眩しさに目が眩む。ゆっくりと、近づいてきた。手にはナイフが握られている。それは、血で汚れていた。

「何でこんな……」

 心の中で呟いた。ナイフと同じように血にまみれた篠崎莉乃に向かって。


 莉乃の表情は虚ろだった。目の焦点がどこに定まっているのかさえわからない。莉乃は何も言わないまま、ベッドの方へ歩いていた。

 そこには大の字にベッドに縛りつけられた紅子がいた。同じように、口を塞がれている。あの声と音は紅子が出していたものであった。バタバタと手足を動かしているが、その拘束は外れそうにない。

 ナイフを手に、ゆっくり近寄る莉乃。無言のまま、唐突にナイフを紅子の右太腿に刺した。痛みに紅子は猿轡越しに大きな悲鳴を上げた。それを見て莉乃は大きな声で笑っていた。

 目の前で起きてることは、現実なのだろうか。なぜ、莉乃はこんなことをしているのだろうか。なぜ、ここまでのことができるのだろうか。

 優夜自身、こんな辛い目に遭わせた御子神家、雨宮家への恨みはある。それだけのことを、したのだ。それでも。莉乃の姿は、恨みを晴らすためではなく、楽しむためにやっているように見えた。

 ずっと頭の片隅にあった違和感。それは、ナイフだった。紅子が向けたナイフは、葉子によって弾かれ、床に落ちた。動揺し、鍵に意識がいったこともあり頭からナイフの存在が消えていた。

 莉乃を汚す血は、紅子のものではない。あれは、誰のものだった。心当たりはひとつしかない。蒼子だ。しかし、そんなことができるわけない。俺は迷わず最短で蒼子の部屋へ行った。いくら何でも、葉子を縛り上げ、俺を追い越して先に蒼子を殺し、人形を壊すなんてできるはずがない。

 外は暗い。もう真夜中だろうか。静かなままのカーテンを見つめる。

 思えば、蒼子の部屋も窓が開いて、カーテンがかすかに揺れていた。そうか。部屋はベランダか何かで繋がっている。そして、それを使えば、先回りすることはできる。
 しかし、それならば、莉乃は計画的にこの行動に出たというのか。なぜ、それを知っている?
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