上 下
83 / 90
監禁十六日目

監禁十六日目④ 離別

しおりを挟む
「莉乃……逃げ……。“魂”はしばらく、これで戻ら……」
 涙が溢れた葉子が絞り出すような声をあげたのを最後に、膝から崩れ落ちた。燭台に照らされた葉子の顔が苦悶の表情を浮かべていた。投げ捨てられたナイフが、煌めいていた。

「い、いやーっ!」
 葉子に駆け寄ろうとする莉乃を優夜は抱き抱えた。
「葉子のために、今は逃げなきゃ」

 御子神に支配されていた葉子の心に、莉乃は打ち砕いた。自分のせいで、莉乃が手を血に染め、目の前で新たな悲劇を起こそうとしていた。
 その目に、葉子は何を見たのだろう。

 泣き叫ぶ莉乃の肩を抱き、歩き出す。“魂”など、この世にあるとは、信じがたい。それでも“魂”のようなものがあるもしたら、どうやって逃げればいい。

 ベランダだ。窓の外がベランダになっているなら、そこから外に出られるかもしれない。

 窓からベランダに出る。そこはベランダではなかった。壁に囲まれた廊下があるだけであった。なぜだ、この屋敷の窓がほとんどない造りからして、可能性はひとつ。ここもまだ地下なのか。

 窓が開いたままの蒼子の部屋に戻る。カーテンが揺れていたのは、風ではなく、莉乃が蒼子を殺して出ていったばかりだったからなのか。

 蒼子の部屋には、物言わぬ骸と、机の上に鍵束とカードが置いてあった。研究所にあったパネルがこのカードで開くかもしれない。これで、屋敷から出られる。

「“魂”はしばらく、これで戻ら……」
 と葉子は死ぬ間際に言い残していた。“魂が肉体を操るには膨大なエネルギーがいると言っていた。莉乃と葉子に立て続けに乗っ取った蒼子は、しばらく力がなくなるのかもしれない。ならば、急げ。

 エレベーターへ向けて急ぐ、莉乃は泣きながらも、強い意志を胸に後を追ってきていた。葉子の無念を晴らすには、ここから出るしかない。

 エレベーターへ辿り着く。まず、地下のボタンを押して地下へ行く。追われているわけではない。しかし、何かにずっと追われている。この屋敷にいる限り、それから逃れられない。地下に辿り着くと、静かな廊下が見えてエレベーターの扉が再び閉まる。そこでもう一度地下行きのボタンを押すと、エレベーターは動き出した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

狂おしいほど愛おしい

ホラー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:15

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:668pt お気に入り:137

フツメンを選んだ筈ですが。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:957

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:385

束縛・監禁・なんて御免だ!!! 

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:207

【完結】転生後も愛し愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:858

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:584

処理中です...