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【下】再会の対義語
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シフェルが死んだのは七月一日で、起きたのはその一週間後だ、とディラに教えてもらった。
今日は土曜日。ディラと遊びに行く。もちろん、〝やり残し〟を見つけるために。
「おはよ、ディラ。朝は弱い様で。」
「うるさいよ。おはようシフェル。」
幽霊になってからは寝ることもなくなった。夜はずっと一人。寂しいと言えば寂しいかもしれないが、そもそも幽霊は認識されないものだ。彼女自身はそこまで寂しさを感じていない。
「そういや、そもそもなんで死んだんだろ。」
「そこも覚えてないの?」
「うん。なんか死んだ時の記憶が一切無いんだよね。ディラ知ってるの?」
「そりゃあ……まぁ、知ってる。」
「教えて!」
彼は一瞬、話そうか迷った。しかし、彼女が望んでいるなら、と話し始めた。
「えっと……俺とシフェルで遊びに行った帰り、途中コンビニに寄ったんだよ。」
──ズキ
(……?)
彼女は痛みを感じた気がした。
「その後、帰るために来た道を戻ってて……。」
──ズキズキ
今度は気のせいじゃない。痛い。
「ネムアさんの家の前の道路で……。」
どんどん痛さが増す。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。
「白猫……「ストップ!」」
死んだにも関わらず息を切らして頭を抱えていた。
頭がズキズキする。
血液がドクドク動いている感じがする。そんな訳ないのに。だって、死んでいるのだから。
「あ……大丈夫?」
「ごめん、頭が……痛い……。それ以上は、多分、聞けない……。」
「思い出そうとしたら痛くなるのかな。」
「多分……そう。」
「じゃぁ話すのやめよっか。」
そう言ったディラの声が、若干ほっとしたように感じた。
自分は死んだ理由すら教えてもらえないのか、とシフェルは不満げだった。でも、知れないものは仕方がない。〝やり残し〟を見つければ何か思い出すかもしれない。まずはそっちが先だ。
彼女は一旦そう思うことにした。
「じゃ、そろそろ出るよ。」
準備を終えたディラが、彼女に声をかけた。
来たのは駅前のクレープ屋。
「あ~! できてたんだ!」
クレープが大好きなシフェルは、わかりやすくウキウキした声を出す。
新しくクレープ屋ができるという話は聞いており、絶対に行きたいと思っていたが行けなかった場所だ。
丁度、彼女が死んでいる間にできていた。
「好きなの選びなよ。まあ、俺が買って俺が食べることになるけど。」
「良いよ良いよ! うあー迷うー!」
とにかくテンションが上がる。
彼女は、周りの人を気にせず内装を見て回ったりして楽しんだ。可愛いデザインの店だ。
できたばかりだからか人が多い。ディラの番が来るまでメニュー表を見て、どのクレープにするか考える。
「いらっしゃいませー。どれに致しますか?」
ディラの番が来て、彼女は伝える。
「クリームバニラアイスにチョコスプレー乗せ。」
「えっと、『クリーム&バニラアイス』のクレープに追加で『チョコスプレー』で。」
食べ歩きながら家に帰る。
「シフェルこういうの好きだよね……。」
「うんっ! 食べられないのが残念だよ~! でも、まあディラが食べてくれるなら良し!」
彼女は、彼と一緒に遊園地に行った時もクレープを買ったのを思い出した。自分はいつもクリームたっぷりのものを頼んでしまうから、口にクリームを付けがちだったな、それにディラが笑ってくれたな……と昔の思い出に微笑んだ。
「甘っ……。」
「あははっ!笑 ごめん!」
「やっぱイチゴが欲しいな……。」
「えー、でもボクはくどいくらいに甘い方が好きなんだもん。あ、クリーム付いてるよ? 可愛い笑」
からかうように笑いながら彼女は指摘した。
「あ? ……お前も、よく付けてたな。」
シフェルは「あれ?」と思った。てっきり彼からは「可愛くねぇよ」と返ってくると思っていた。
若干、違和感を覚えながらも、彼女はいつも通り返した。
「そうだね~。遊園地行った時とか覚えてる?」
「うん。それこそ可愛かったから。」
「……ふぅん……。」
彼の返しが全く予想できず困惑した。
(え? え!? なんで!? なんで急にそんなこと言うのこの人!? いや嬉しいんだけど……!)
そうこうしているうちに彼はクレープを食べ終わっていた。
「んで、何か変わった?」
「え? あぁ……いや特に。」
「そうか……じゃぁ新しいとこより、行ったことあるとこの方が良いのかな。」
「なるほど! 確かに、思い出すなら、そっちの方が良いかも!」
「なら、次はそっち行こうか。」
ディラが微笑んで自分を誘ってくれる。こうして協力してくれる姿を見て、彼女は、やっぱり彼と親友で良かったな……と思っていた。
親友……そう、親友だ。
友達より上の、もっと大切な存在。
なんて……一方的じゃなければ良いな、と同時に彼女は願うのだった。
学校にも着いていくことにした。
姿も声も消し、一人だけで校内を見て回る。それも制服に着替えて、だ。姿は誰にも見せれないので自己満足でしかなかったが彼女はそれで良かった。
懐かしい先生や生徒の姿を見れたり、入ったことのない部屋に入れたりして、全く飽きない。
明日から夏休み。皆ワクワクした様子だった。
この夏休み、彼女はディラと一緒に遊園地に行くことになっている。と言ってもバイトをしに行くだけなので、遊びはしない。
──遊園地に行く日の前日になった。
彼女はディラにお願いした。
「ねぇ! ディラのスマホ見せてくれない? 色んな服着たボクの写真あるでしょ?」
「ああ……見た方がイメージしやすいか。良いよ。」
彼女は、着替えるため、彼のスマホを貸してもらうことにした。
彼は彼女に画面を見せながら写真をスクロールしていく。彼女は色んな服があって迷っていたが、ある一つの服に決めた。
スマホを充電しながら、一晩中イメージしていた。
朝になってディラが目を覚ます。しばらくしてしっかり彼女の姿を認識すると、優しく微笑んだ。
「ちゃんとできたみたいだね。」
「そう! マジ満足!」
彼女が選んだのは星の模様が入った白のワンピース。
言葉通り彼女が満足気に胸を張っていると、彼が興味のある様子で聞いた。
「なんで、その服にしたの?」
彼女は来ると思っていなかった質問に慌てる。
「えっ……と、まぁ……深い理由は無いんだけど、好きだった……から?……かな?」
ぎこちなくそう答えたが、もちろん、彼女がこの服を選んだ理由は別にある。
「前に、ディラが〝似合ってる〟って言ってくれたから」とは言えなかった。
「……? まぁ良いか。めっちゃ似合ってるし。」
小さく笑いながらディラがそう言った。なぜかはわからないが、ちょっとだけ不満げにも感じた。
それよりも、彼がまた同じセリフで褒めてくたことに驚きだった。嬉しかったが、前に言ったことは覚えていないのか……と思うと少し残念な気持ちになる。
……いや、本当は少し期待していた。
彼が、「塾の旅行で着てたやつじゃん」と言ってくれることを期待していた。
──彼女が遊園地に行ってわかったのは、充実している、ということだった。
そこには懐かしさしか無かった。ディラとの思い出がたくさん蘇る。その全てが充実していた。
また、彼女はディラのバイトのサポートもした。
「シフェル、観覧車の待ち時間見てきてくれる?」
「おけおけ任せといてー!」
彼女には、なんとなく観覧車は夜に乗るイメージがあった。まだ夜と言うには早いこの時間でも、意外と人は並んでいた。
友達で、家族で、兄弟姉妹で、……カップルで。
(……あーダメダメ、ディラに報告しなきゃ。)
幽霊なりにサポートした……つもりのバイトを無事に終え、もう帰ろうかという時、ディラが彼女を誘った。
「ここで初めて仕事してくれた人の特典で、アトラクションどれか一つだけタダで乗れる券もらったから乗りに行こーぜ。」
「……! ……うん……!」
それはいわゆるファストパスのようなもので、同時に四人まで一緒に使えるらしい。ディラ一人で乗っても別に違和感は無いだろう、とシフェルは思っていたが、彼は姿を現して欲しいと頼んだ。
幽霊であることがバレないよう、慎重に歩き、並び、観覧車に乗り込んだ。
「こーゆーとこで出るよね、ディラのコミュ障。」
「うるさい……。」
そんな会話をしながら、二人は観覧車と、そこから見える夜景を楽しんだ。
こんな幸せな時間を過ごせて……ますます、ここに〝やり残し〟なんて無いな……と彼女は思った。
ある夏休みの日。相変わらず進捗は無かった。
彼女は部屋で課題を終わらせているディラをぼーっと眺めている。特に理由は無い。
すると、ひと段落ついたディラが言った。
「アイス買いに近くのコンビニ行くけど、シフェル着いてくる?」
「行く! もうどこが正解かわかんないし!」
そうして、いつもの道を歩く。
途中、ネムアさんの家の前の辺りで、彼女は頭がキリキリとした……感じがした。
その時は、気にとめなかった。
別の日、またその歩道を歩いている時、ネムアさんの家の前の辺りで、頭がキリキリ……いや、これはれっきとした痛みだった。
彼女は咄嗟に言った。
「ねぇ、ここ通るのやめない?」
……意外にも、彼は不思議そうな顔をしていなかった。
「……俺も、同じこと思ってた。」
真剣な目をして、彼はただそう言った。
意見が一致した二人は、別の方向に進んだ。
自分はまだわかる。でも、なんでディラまで……と彼女は今までにない状況に不安感を覚えた。
──あっという間に十二月になった。
その間も、たくさん遊んだ。どこも楽しかった。死んでいることを忘れてしまいそうになるくらいには楽しかった。
彼女はすっかり、浮いて行動するのも、容姿を変えるのも慣れてきていた。
季節は冬だが、彼女は寒さも暑さも感じない。感動しても、熱い思いが込み上げて涙が出る……ということも無かった。
死んでいるという気もしなくなっていたが、それ以上に生きているという気もしない。
(嫌だな……姿形は確かにあるのに。)
ある日の夜、ディラが眠って数十分後……彼女の耳に何かが聞こえた。
キキーッと擦れるような音、誰かの甲高い悲鳴、鈍い音……聞こえる度、頭が痛くなる。
これが何日か続いた。日を重ねる毎に音の解像度は高くなり、痛みは強くなる。もう耳から聞こえてくる感じじゃない。脳に直接届いているような感じだった。
今夜も聞こえてきた。痛い痛い痛い痛い痛いっ! どうして!? 全然成仏できないから!?
──ふと、頭の痛みが消えた。
手を床に着け、息を切らす。まだ夜中だった。
頭の痛みが消えたタイミングから、なんとなく察することができた。早く〝やり残し〟に気付け、と言われているのではないか。早く気付けないと、ずっと辛いままだぞ、と。
……やっぱり自分が成仏できない理由は〝アレ〟なのだろうか。
彼女は最近、うすうす気付いていた。気付いてはいたが、することはできなかった。
その時、彼女の頭に、ディラと初詣に行ったシーンが浮かび上がった。
(──ああ、そうだ。ディラと初詣に行った時、ボクがお願いしたのは「いつかディラにこの気持ちを伝えられますように」だった。この願いを聞いた神様が、ボクを幽霊にしてくれたんじゃないの?)
それが真実であると、なんとなく感じた。
最初はあんなに、「成仏したい」と思っていたのに……いつからか、「もう少しディラと一緒に居たい」と思うようになっていた。
探していた〝やり残し〟も、最近は探すのを雑にしていたな、と思った。
なんでこんなことしてしまったんだろう。
この幽霊生活は、神様がくれたチャンスだと言うのに。死んだ後も生活ができるなんて、とても幸せなことなのに。そんなのは当たり前じゃないのに。
「……終わらせる。」
彼女は覚悟を決めた。
〝アレ〟で本当に成仏できるかはわからないが、これはやらないといけない気がした。
神様がくれたチャンスを、これ以上無駄にする訳にはいかなかった。
三月二十五日。春休みが始まった。
彼女は、今日で幽霊生活を終えることにした。
あの日から、あの辛い夜は来なくなった。
もちろん、初詣にも行った。彼女がしたのは願いではなく、誓い、だった。
「神様がくれた幽霊生活を全うします。」
──夜になった。彼には「大事な話がある」なんてよく聞くセリフを言っておいた。
部屋に戻ってきたディラに、自分の姿を見せる。見るなり、彼は目を丸くさせた。
シフェルが幽霊生活を終わらせるのを今日にした理由はもう一つある。この姿だった。
塾で初めて会った時の姿。イメージするのに時間を使ったから、遅くなってしまった。
「懐かしいな。」
「ね。大変だったんだよ?」
「そうなんだ。で……話って何?」
彼は真っ直ぐ目を見て聞いた。
「……ボクが成仏するための話。これで本当にできるかはわかんないけど、やっとくべきだと思って。」
「……わかった。」
小さく頷く。すぅっと深呼吸し、ゆっくり話す。
「成仏できない理由は、この気持ちを伝えてないからって、うすうす気付いてたんだよね。でも、もっとディラと居たくて言えなかった。……だけどね、どうやらボクには……残された時間が少ないらしいんだ。」
緊張で声が震えそうだった。
「だから、ボクが成仏する前に返事が聞きたい。」
ふぅーっと大きく息を吐く。
「大好き、ディラ。」
精一杯の笑顔を見せたつもりだった。
彼女は、何か、心が軽くなったのを感じた。
〝やり残し〟はこれで合っていて、これから成仏するんだと悟った。そう思うと、どうしても泣けないのが悔しくて仕方がなかった。
泣きたい気持ちを堪え、必死に笑顔を作った。
だって最後は笑顔で別れたいから。
ディラは、しばらく黙っていたが、やがて芯の通った声で話し始めた。
「実は結構前から気付いてたんだよな。お前が俺をどー思ってんのか、とか。……でもまさか……言えなくなるなんてな。」
彼女は黙って聞く。というより、反応できそうになかった。
「シフェルが幽霊になって現れた時、マジで信じらんなかったよ。でもさ、どう見てもシフェルだったんだよ。……だからさ、今度は絶対に放すものか、って思った。でも、それも結構、わがままだな。」
懐かしむように、でも、反省するように。
「シフェルが〝成仏したい〟って言った時は少し躊躇った。協力する体をとったところもあった。幽霊になっても楽しそうなシフェルを見て、ずっとこのままでも良いのに、って思った。」
そこまで言って、彼は「いいや、違うな……」と首を振った。
「本当は……シフェルが〝成仏できなくても良い〟って思ってくれるのを期待してた……。ずっと俺のそばに居てほしいって思った……。でも、そんな俺のわがままでシフェルを苦しませてたのは本当に誤算だった。ごめんな。」
ディラが顔を上げる。そして優しく微笑む。
「俺も好きだよ、シフェル。」
彼女の顔は、もう笑顔ではなくなっていた。
歪んでみっともない。嬉しさと、その分の辛さでぐちゃぐちゃな感情になる。でも、ディラは、彼女が素の顔を見せてくれたことを嬉しく思った。
彼女は涙が溢れんばかりの顔になる。声は出せなかった。声を出したら涙が溢れそうだったからだ。泣けないのに。
「なんでもないような褒め言葉の大切さって、それをかける相手が居なくなってから気付くもんなんだな。お前の良いところは俺だけが知ってたかったから言えなかった。もっと言えば良かったな。」
「……でもっ……幽霊になってからは、いっぱい褒めてくれたじゃん……っ。」
「気付いてくれてたんだ……嬉しかった?」
「うん。……ああ……あのさ、死んだ後一緒に遊園地行った時ボクが着てた服……覚えてる?」
「ああ。塾の旅行みたいなので着てたやつだな。」
「覚えてたんだ。」
「そりゃ、こっちのセリフだな。選んだ理由に〝俺が褒めてくれたから〟って言ってくれなかったの、まぁまぁ不満だったぞ? ……でもまぁ、覚えてないなら上書きすれば良いかって思って同じ言葉かけたけど。」
「そんなの言える訳ないじゃん。でも嬉しい。」
短く切り取った会話。
でも今の二人には良かった。彼女には、もう時間がなかったのだから。
「ディラ……ボクらは親友だよね?」
「ふはっ、なんだそれ。当たり前だろ。……今までは、な。これからは恋人だろ?」
なんでこんなこと言ってくれるんだろう。
「…………そうだね。」
本当はまだ成仏したくない。別れたくない。その気持ちは、ずっと心のどこかに残っていた。
彼女は泣きそうな声を出した。
「なんでっ、なんで成仏しなきゃいけないのかなぁ!? なんで、再会させといて、喜ばせといて、もっかい別れなきゃなんないの!? そんなのって酷くない? もっかい会うより、もっかい別れる方が絶対辛いじゃん! なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!? ……ずっとね、そう考えてた……。」
なぜ泣いていないのか、不思議なくらいだった。
「でもさ? ……どっかでわかってたんだよ。これが正しいんだって。十分すぎるくらい、ボクは幸せな状況に居たんだって、気付いて。……良かった。 …………そう、良かった。幽霊になれて、ディラに出会えて、こうやってお別れできて、本当に良かった! 良かったよ! 良かった! 良かったの! ただただ良かったって思ってる! 良かった、本当に良かったっ……!」
彼女は全てを吐き出した。
わかるよ、と言うようにディラはただ黙って彼女の話に頷いていた。
「うう……」と嘔吐く声だけが響く。
彼の目に見えるシフェルは、いつの間にか半透明になっていた。
彼はニコッと笑って言った。
「抱き締めて良いか?」
「!」
そう言って彼が立つ。彼女は、すいーっと彼の前まで行く。
ぎゅっと抱き締めてくれた。正しくは抱きしめた体をとっているだけだが。
温かかった。
「ねぇ、再会の対義語ってなんていうのかな。」
「さぁ? ……そうだな。次に再会する時までには調べといてやるよ。」
最後は神様からのサービスだろうか。唇に、何か〝触れた〟のを感じた。
彼女は体が軽くなっていくのがわかった。
ああ、幸せだ。
また、来世で。
だんだん目の前が消えていく……。
……幽霊の時の記憶も、死ぬ前の記憶も、ちゃんとある。
生き返ったとか、生まれ変わったとかじゃなく、恐らく成仏した後の世界。
ボクは、涙を流していた──。
終
今日は土曜日。ディラと遊びに行く。もちろん、〝やり残し〟を見つけるために。
「おはよ、ディラ。朝は弱い様で。」
「うるさいよ。おはようシフェル。」
幽霊になってからは寝ることもなくなった。夜はずっと一人。寂しいと言えば寂しいかもしれないが、そもそも幽霊は認識されないものだ。彼女自身はそこまで寂しさを感じていない。
「そういや、そもそもなんで死んだんだろ。」
「そこも覚えてないの?」
「うん。なんか死んだ時の記憶が一切無いんだよね。ディラ知ってるの?」
「そりゃあ……まぁ、知ってる。」
「教えて!」
彼は一瞬、話そうか迷った。しかし、彼女が望んでいるなら、と話し始めた。
「えっと……俺とシフェルで遊びに行った帰り、途中コンビニに寄ったんだよ。」
──ズキ
(……?)
彼女は痛みを感じた気がした。
「その後、帰るために来た道を戻ってて……。」
──ズキズキ
今度は気のせいじゃない。痛い。
「ネムアさんの家の前の道路で……。」
どんどん痛さが増す。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。
「白猫……「ストップ!」」
死んだにも関わらず息を切らして頭を抱えていた。
頭がズキズキする。
血液がドクドク動いている感じがする。そんな訳ないのに。だって、死んでいるのだから。
「あ……大丈夫?」
「ごめん、頭が……痛い……。それ以上は、多分、聞けない……。」
「思い出そうとしたら痛くなるのかな。」
「多分……そう。」
「じゃぁ話すのやめよっか。」
そう言ったディラの声が、若干ほっとしたように感じた。
自分は死んだ理由すら教えてもらえないのか、とシフェルは不満げだった。でも、知れないものは仕方がない。〝やり残し〟を見つければ何か思い出すかもしれない。まずはそっちが先だ。
彼女は一旦そう思うことにした。
「じゃ、そろそろ出るよ。」
準備を終えたディラが、彼女に声をかけた。
来たのは駅前のクレープ屋。
「あ~! できてたんだ!」
クレープが大好きなシフェルは、わかりやすくウキウキした声を出す。
新しくクレープ屋ができるという話は聞いており、絶対に行きたいと思っていたが行けなかった場所だ。
丁度、彼女が死んでいる間にできていた。
「好きなの選びなよ。まあ、俺が買って俺が食べることになるけど。」
「良いよ良いよ! うあー迷うー!」
とにかくテンションが上がる。
彼女は、周りの人を気にせず内装を見て回ったりして楽しんだ。可愛いデザインの店だ。
できたばかりだからか人が多い。ディラの番が来るまでメニュー表を見て、どのクレープにするか考える。
「いらっしゃいませー。どれに致しますか?」
ディラの番が来て、彼女は伝える。
「クリームバニラアイスにチョコスプレー乗せ。」
「えっと、『クリーム&バニラアイス』のクレープに追加で『チョコスプレー』で。」
食べ歩きながら家に帰る。
「シフェルこういうの好きだよね……。」
「うんっ! 食べられないのが残念だよ~! でも、まあディラが食べてくれるなら良し!」
彼女は、彼と一緒に遊園地に行った時もクレープを買ったのを思い出した。自分はいつもクリームたっぷりのものを頼んでしまうから、口にクリームを付けがちだったな、それにディラが笑ってくれたな……と昔の思い出に微笑んだ。
「甘っ……。」
「あははっ!笑 ごめん!」
「やっぱイチゴが欲しいな……。」
「えー、でもボクはくどいくらいに甘い方が好きなんだもん。あ、クリーム付いてるよ? 可愛い笑」
からかうように笑いながら彼女は指摘した。
「あ? ……お前も、よく付けてたな。」
シフェルは「あれ?」と思った。てっきり彼からは「可愛くねぇよ」と返ってくると思っていた。
若干、違和感を覚えながらも、彼女はいつも通り返した。
「そうだね~。遊園地行った時とか覚えてる?」
「うん。それこそ可愛かったから。」
「……ふぅん……。」
彼の返しが全く予想できず困惑した。
(え? え!? なんで!? なんで急にそんなこと言うのこの人!? いや嬉しいんだけど……!)
そうこうしているうちに彼はクレープを食べ終わっていた。
「んで、何か変わった?」
「え? あぁ……いや特に。」
「そうか……じゃぁ新しいとこより、行ったことあるとこの方が良いのかな。」
「なるほど! 確かに、思い出すなら、そっちの方が良いかも!」
「なら、次はそっち行こうか。」
ディラが微笑んで自分を誘ってくれる。こうして協力してくれる姿を見て、彼女は、やっぱり彼と親友で良かったな……と思っていた。
親友……そう、親友だ。
友達より上の、もっと大切な存在。
なんて……一方的じゃなければ良いな、と同時に彼女は願うのだった。
学校にも着いていくことにした。
姿も声も消し、一人だけで校内を見て回る。それも制服に着替えて、だ。姿は誰にも見せれないので自己満足でしかなかったが彼女はそれで良かった。
懐かしい先生や生徒の姿を見れたり、入ったことのない部屋に入れたりして、全く飽きない。
明日から夏休み。皆ワクワクした様子だった。
この夏休み、彼女はディラと一緒に遊園地に行くことになっている。と言ってもバイトをしに行くだけなので、遊びはしない。
──遊園地に行く日の前日になった。
彼女はディラにお願いした。
「ねぇ! ディラのスマホ見せてくれない? 色んな服着たボクの写真あるでしょ?」
「ああ……見た方がイメージしやすいか。良いよ。」
彼女は、着替えるため、彼のスマホを貸してもらうことにした。
彼は彼女に画面を見せながら写真をスクロールしていく。彼女は色んな服があって迷っていたが、ある一つの服に決めた。
スマホを充電しながら、一晩中イメージしていた。
朝になってディラが目を覚ます。しばらくしてしっかり彼女の姿を認識すると、優しく微笑んだ。
「ちゃんとできたみたいだね。」
「そう! マジ満足!」
彼女が選んだのは星の模様が入った白のワンピース。
言葉通り彼女が満足気に胸を張っていると、彼が興味のある様子で聞いた。
「なんで、その服にしたの?」
彼女は来ると思っていなかった質問に慌てる。
「えっ……と、まぁ……深い理由は無いんだけど、好きだった……から?……かな?」
ぎこちなくそう答えたが、もちろん、彼女がこの服を選んだ理由は別にある。
「前に、ディラが〝似合ってる〟って言ってくれたから」とは言えなかった。
「……? まぁ良いか。めっちゃ似合ってるし。」
小さく笑いながらディラがそう言った。なぜかはわからないが、ちょっとだけ不満げにも感じた。
それよりも、彼がまた同じセリフで褒めてくたことに驚きだった。嬉しかったが、前に言ったことは覚えていないのか……と思うと少し残念な気持ちになる。
……いや、本当は少し期待していた。
彼が、「塾の旅行で着てたやつじゃん」と言ってくれることを期待していた。
──彼女が遊園地に行ってわかったのは、充実している、ということだった。
そこには懐かしさしか無かった。ディラとの思い出がたくさん蘇る。その全てが充実していた。
また、彼女はディラのバイトのサポートもした。
「シフェル、観覧車の待ち時間見てきてくれる?」
「おけおけ任せといてー!」
彼女には、なんとなく観覧車は夜に乗るイメージがあった。まだ夜と言うには早いこの時間でも、意外と人は並んでいた。
友達で、家族で、兄弟姉妹で、……カップルで。
(……あーダメダメ、ディラに報告しなきゃ。)
幽霊なりにサポートした……つもりのバイトを無事に終え、もう帰ろうかという時、ディラが彼女を誘った。
「ここで初めて仕事してくれた人の特典で、アトラクションどれか一つだけタダで乗れる券もらったから乗りに行こーぜ。」
「……! ……うん……!」
それはいわゆるファストパスのようなもので、同時に四人まで一緒に使えるらしい。ディラ一人で乗っても別に違和感は無いだろう、とシフェルは思っていたが、彼は姿を現して欲しいと頼んだ。
幽霊であることがバレないよう、慎重に歩き、並び、観覧車に乗り込んだ。
「こーゆーとこで出るよね、ディラのコミュ障。」
「うるさい……。」
そんな会話をしながら、二人は観覧車と、そこから見える夜景を楽しんだ。
こんな幸せな時間を過ごせて……ますます、ここに〝やり残し〟なんて無いな……と彼女は思った。
ある夏休みの日。相変わらず進捗は無かった。
彼女は部屋で課題を終わらせているディラをぼーっと眺めている。特に理由は無い。
すると、ひと段落ついたディラが言った。
「アイス買いに近くのコンビニ行くけど、シフェル着いてくる?」
「行く! もうどこが正解かわかんないし!」
そうして、いつもの道を歩く。
途中、ネムアさんの家の前の辺りで、彼女は頭がキリキリとした……感じがした。
その時は、気にとめなかった。
別の日、またその歩道を歩いている時、ネムアさんの家の前の辺りで、頭がキリキリ……いや、これはれっきとした痛みだった。
彼女は咄嗟に言った。
「ねぇ、ここ通るのやめない?」
……意外にも、彼は不思議そうな顔をしていなかった。
「……俺も、同じこと思ってた。」
真剣な目をして、彼はただそう言った。
意見が一致した二人は、別の方向に進んだ。
自分はまだわかる。でも、なんでディラまで……と彼女は今までにない状況に不安感を覚えた。
──あっという間に十二月になった。
その間も、たくさん遊んだ。どこも楽しかった。死んでいることを忘れてしまいそうになるくらいには楽しかった。
彼女はすっかり、浮いて行動するのも、容姿を変えるのも慣れてきていた。
季節は冬だが、彼女は寒さも暑さも感じない。感動しても、熱い思いが込み上げて涙が出る……ということも無かった。
死んでいるという気もしなくなっていたが、それ以上に生きているという気もしない。
(嫌だな……姿形は確かにあるのに。)
ある日の夜、ディラが眠って数十分後……彼女の耳に何かが聞こえた。
キキーッと擦れるような音、誰かの甲高い悲鳴、鈍い音……聞こえる度、頭が痛くなる。
これが何日か続いた。日を重ねる毎に音の解像度は高くなり、痛みは強くなる。もう耳から聞こえてくる感じじゃない。脳に直接届いているような感じだった。
今夜も聞こえてきた。痛い痛い痛い痛い痛いっ! どうして!? 全然成仏できないから!?
──ふと、頭の痛みが消えた。
手を床に着け、息を切らす。まだ夜中だった。
頭の痛みが消えたタイミングから、なんとなく察することができた。早く〝やり残し〟に気付け、と言われているのではないか。早く気付けないと、ずっと辛いままだぞ、と。
……やっぱり自分が成仏できない理由は〝アレ〟なのだろうか。
彼女は最近、うすうす気付いていた。気付いてはいたが、することはできなかった。
その時、彼女の頭に、ディラと初詣に行ったシーンが浮かび上がった。
(──ああ、そうだ。ディラと初詣に行った時、ボクがお願いしたのは「いつかディラにこの気持ちを伝えられますように」だった。この願いを聞いた神様が、ボクを幽霊にしてくれたんじゃないの?)
それが真実であると、なんとなく感じた。
最初はあんなに、「成仏したい」と思っていたのに……いつからか、「もう少しディラと一緒に居たい」と思うようになっていた。
探していた〝やり残し〟も、最近は探すのを雑にしていたな、と思った。
なんでこんなことしてしまったんだろう。
この幽霊生活は、神様がくれたチャンスだと言うのに。死んだ後も生活ができるなんて、とても幸せなことなのに。そんなのは当たり前じゃないのに。
「……終わらせる。」
彼女は覚悟を決めた。
〝アレ〟で本当に成仏できるかはわからないが、これはやらないといけない気がした。
神様がくれたチャンスを、これ以上無駄にする訳にはいかなかった。
三月二十五日。春休みが始まった。
彼女は、今日で幽霊生活を終えることにした。
あの日から、あの辛い夜は来なくなった。
もちろん、初詣にも行った。彼女がしたのは願いではなく、誓い、だった。
「神様がくれた幽霊生活を全うします。」
──夜になった。彼には「大事な話がある」なんてよく聞くセリフを言っておいた。
部屋に戻ってきたディラに、自分の姿を見せる。見るなり、彼は目を丸くさせた。
シフェルが幽霊生活を終わらせるのを今日にした理由はもう一つある。この姿だった。
塾で初めて会った時の姿。イメージするのに時間を使ったから、遅くなってしまった。
「懐かしいな。」
「ね。大変だったんだよ?」
「そうなんだ。で……話って何?」
彼は真っ直ぐ目を見て聞いた。
「……ボクが成仏するための話。これで本当にできるかはわかんないけど、やっとくべきだと思って。」
「……わかった。」
小さく頷く。すぅっと深呼吸し、ゆっくり話す。
「成仏できない理由は、この気持ちを伝えてないからって、うすうす気付いてたんだよね。でも、もっとディラと居たくて言えなかった。……だけどね、どうやらボクには……残された時間が少ないらしいんだ。」
緊張で声が震えそうだった。
「だから、ボクが成仏する前に返事が聞きたい。」
ふぅーっと大きく息を吐く。
「大好き、ディラ。」
精一杯の笑顔を見せたつもりだった。
彼女は、何か、心が軽くなったのを感じた。
〝やり残し〟はこれで合っていて、これから成仏するんだと悟った。そう思うと、どうしても泣けないのが悔しくて仕方がなかった。
泣きたい気持ちを堪え、必死に笑顔を作った。
だって最後は笑顔で別れたいから。
ディラは、しばらく黙っていたが、やがて芯の通った声で話し始めた。
「実は結構前から気付いてたんだよな。お前が俺をどー思ってんのか、とか。……でもまさか……言えなくなるなんてな。」
彼女は黙って聞く。というより、反応できそうになかった。
「シフェルが幽霊になって現れた時、マジで信じらんなかったよ。でもさ、どう見てもシフェルだったんだよ。……だからさ、今度は絶対に放すものか、って思った。でも、それも結構、わがままだな。」
懐かしむように、でも、反省するように。
「シフェルが〝成仏したい〟って言った時は少し躊躇った。協力する体をとったところもあった。幽霊になっても楽しそうなシフェルを見て、ずっとこのままでも良いのに、って思った。」
そこまで言って、彼は「いいや、違うな……」と首を振った。
「本当は……シフェルが〝成仏できなくても良い〟って思ってくれるのを期待してた……。ずっと俺のそばに居てほしいって思った……。でも、そんな俺のわがままでシフェルを苦しませてたのは本当に誤算だった。ごめんな。」
ディラが顔を上げる。そして優しく微笑む。
「俺も好きだよ、シフェル。」
彼女の顔は、もう笑顔ではなくなっていた。
歪んでみっともない。嬉しさと、その分の辛さでぐちゃぐちゃな感情になる。でも、ディラは、彼女が素の顔を見せてくれたことを嬉しく思った。
彼女は涙が溢れんばかりの顔になる。声は出せなかった。声を出したら涙が溢れそうだったからだ。泣けないのに。
「なんでもないような褒め言葉の大切さって、それをかける相手が居なくなってから気付くもんなんだな。お前の良いところは俺だけが知ってたかったから言えなかった。もっと言えば良かったな。」
「……でもっ……幽霊になってからは、いっぱい褒めてくれたじゃん……っ。」
「気付いてくれてたんだ……嬉しかった?」
「うん。……ああ……あのさ、死んだ後一緒に遊園地行った時ボクが着てた服……覚えてる?」
「ああ。塾の旅行みたいなので着てたやつだな。」
「覚えてたんだ。」
「そりゃ、こっちのセリフだな。選んだ理由に〝俺が褒めてくれたから〟って言ってくれなかったの、まぁまぁ不満だったぞ? ……でもまぁ、覚えてないなら上書きすれば良いかって思って同じ言葉かけたけど。」
「そんなの言える訳ないじゃん。でも嬉しい。」
短く切り取った会話。
でも今の二人には良かった。彼女には、もう時間がなかったのだから。
「ディラ……ボクらは親友だよね?」
「ふはっ、なんだそれ。当たり前だろ。……今までは、な。これからは恋人だろ?」
なんでこんなこと言ってくれるんだろう。
「…………そうだね。」
本当はまだ成仏したくない。別れたくない。その気持ちは、ずっと心のどこかに残っていた。
彼女は泣きそうな声を出した。
「なんでっ、なんで成仏しなきゃいけないのかなぁ!? なんで、再会させといて、喜ばせといて、もっかい別れなきゃなんないの!? そんなのって酷くない? もっかい会うより、もっかい別れる方が絶対辛いじゃん! なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!? ……ずっとね、そう考えてた……。」
なぜ泣いていないのか、不思議なくらいだった。
「でもさ? ……どっかでわかってたんだよ。これが正しいんだって。十分すぎるくらい、ボクは幸せな状況に居たんだって、気付いて。……良かった。 …………そう、良かった。幽霊になれて、ディラに出会えて、こうやってお別れできて、本当に良かった! 良かったよ! 良かった! 良かったの! ただただ良かったって思ってる! 良かった、本当に良かったっ……!」
彼女は全てを吐き出した。
わかるよ、と言うようにディラはただ黙って彼女の話に頷いていた。
「うう……」と嘔吐く声だけが響く。
彼の目に見えるシフェルは、いつの間にか半透明になっていた。
彼はニコッと笑って言った。
「抱き締めて良いか?」
「!」
そう言って彼が立つ。彼女は、すいーっと彼の前まで行く。
ぎゅっと抱き締めてくれた。正しくは抱きしめた体をとっているだけだが。
温かかった。
「ねぇ、再会の対義語ってなんていうのかな。」
「さぁ? ……そうだな。次に再会する時までには調べといてやるよ。」
最後は神様からのサービスだろうか。唇に、何か〝触れた〟のを感じた。
彼女は体が軽くなっていくのがわかった。
ああ、幸せだ。
また、来世で。
だんだん目の前が消えていく……。
……幽霊の時の記憶も、死ぬ前の記憶も、ちゃんとある。
生き返ったとか、生まれ変わったとかじゃなく、恐らく成仏した後の世界。
ボクは、涙を流していた──。
終
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