336 / 816
風吹く星よ
女王
しおりを挟む
「初めまして……と言った方がよろしいんでしょうか?ヴィヴィアン・シルイーン・クインシフです。この国の女王をやっている者です」
僕らもヴィニアちゃんに倣って、最敬礼をしようとしたが、女王に制止された。
「ここにはうるさい大臣もいないので、しなくても結構ですよ」
大臣、煙たがれすぎ。女王からも厄介者扱いされていた。
少し哀れになってきた。
伝統とか格式にうるさいだけで、無能というわけじゃないのに。
「ヴィニア。貴方もそうです」
「そうはいきません」
一向に姿勢を崩そうとしないヴィニアちゃんに女王は近づく。
そして、女王は予想外の行動に出た。ヴィニアちゃんを優しく抱きしめたのだ。
「おやめください!」
ヴィニアちゃんは口では抵抗しているが、引き剥がそうとはしていない。
女王相手には強く出られないからだと思うけど、本当は嬉しいのかも。
「よく無事で。本当に良かった」
女王の声には涙が混じっていた。
二人の間に主従関係を超えたものがありそうだった。
「そうか。ヴィニアちゃんだったんだ」
謁見の時、女王は誰かに似ている気がした。
今まで誰に似ているのか思い至らなかった。
近くで並んだ事で女王は誰に似ているのかが判明した。
ヴィニアちゃんに似ているのだ。
ヴィニアちゃんに気品やら優雅さを足したら、女王になる。
年齢はどうにかなるけど、気品さと優雅さはどうにもならない気がする。
だって、彼女がさつだもの。
家事担当の拾号がよく怒っている。
ここまで似ていると血縁を疑う。
二人は母娘ぐらいの年齢差があるが、母娘ではない。
ヴィニアちゃんにはちゃんと母親がいたし、グリンナイツの情報によると女王は未婚のはずだ。
「従妹かな?」
ヴィニアちゃんの母親は三等民だから、父親の方の親族関係だと思う。
グリンナイツから女王にまつわる色んな情報を聞かされている。
それによると、女王は先代の王様の実子。母親も由緒正しい一族の人間だ。
女王の父親か母親がヴィニアちゃんの父親と繋がっているんだろう。
そんなことを考えていると、ある一つの可能性を思い至った。
「……姉妹」
ユラさんも同じ可能性に行きついたみたいだ。
今まで聞いたヴィニアちゃんの父親の特徴は先王に合致している所が多い。
だけど、一つだけ決定的に違う部分がある。
死因だ。
ヴィニアちゃんの父親は刺殺。
先王の死因は病死だ。
違うとは思うけど、一応聞いてみよう。
「ヴェロニカさん。もしかして、貴方たちの父親ってまさか……」
「そのまさかですわ。わたくしたちは血の繋がった姉妹。わたくしたちの父親は先代の王。バルフロウ・シルイーン・クインシフその人です」
その問いに答えたのはヴェロニカさんではなく、女王だった。
女王の服の胸元が湿っている。
ヴィニアちゃんも泣いていたのかも。
「あの名君がそんな人だったなんて」
「先代の王であるわたくしの父は確かに名君に間違いないです。ですが、同時に女癖が悪いダメ人間でした。至る所に愛人を作り、子を作ったんです」
まさか、あの名君がクズの正体だったなんて。
仕事は有能でも私生活が駄目な人は結構いる。機械コミュ一級の人たちもその代表だ。
先王はそのタイプだったんだろう。
「デトックスストーンでしたっけ?あれの材料としてお渡しした空真珠は父が女性へのプレゼントのために作らせた物なんです。……あれが原因で振られたそうですが」
「ヴェランシスのこともご存じですよね。振ったのは彼女の母親です。こんな下品な物をいるか!と父の頬に投げつけてました。正直、スカッとしました」
「頬を腫らした父の顔は傑作でしたよね」
ヴェロニカさんが補足を入れてくれた。
フルフロワはファッションの中心地。
そこの島主の一族の女性に、あんな巨大な空真珠をあげたところで喜ぶはずがない。
ヴィニアちゃんたちは父親のことをクズ扱いしていたが、女王も例外ではないようだ。
言葉の節々に棘がある。
「でも、ヴィニアちゃんの父親は刺殺されたって聞いたんですけど」
「それは真実です。嘘なのは病死の方です」
駄目な方が真実だったみたいだ。
どうやら、隠蔽したらしい。
隠蔽したのは妥当な判断だろう。
こんなことを明るみにするわけにはいかない。
「普通に病死してくれればいいものの、人妻に手を出し、その配偶者に刺されて死ぬなんてありえません。王家の威信に関わる最悪の死因です。そんな死因を公表するわけには行かなかったので、病死で片付けられました。あの時は大変でした。医師を説得して診断書を偽造したり、目撃者を口止めしたり、何日徹夜したことか」
女王は遠い目をして、当時のことを懐かしんでいた。
ヴェロニカさんも同じ目をしている。相当大変だったんだろう。
死んだ後も迷惑を掛けるとは最悪の父親だ。
僕らもヴィニアちゃんに倣って、最敬礼をしようとしたが、女王に制止された。
「ここにはうるさい大臣もいないので、しなくても結構ですよ」
大臣、煙たがれすぎ。女王からも厄介者扱いされていた。
少し哀れになってきた。
伝統とか格式にうるさいだけで、無能というわけじゃないのに。
「ヴィニア。貴方もそうです」
「そうはいきません」
一向に姿勢を崩そうとしないヴィニアちゃんに女王は近づく。
そして、女王は予想外の行動に出た。ヴィニアちゃんを優しく抱きしめたのだ。
「おやめください!」
ヴィニアちゃんは口では抵抗しているが、引き剥がそうとはしていない。
女王相手には強く出られないからだと思うけど、本当は嬉しいのかも。
「よく無事で。本当に良かった」
女王の声には涙が混じっていた。
二人の間に主従関係を超えたものがありそうだった。
「そうか。ヴィニアちゃんだったんだ」
謁見の時、女王は誰かに似ている気がした。
今まで誰に似ているのか思い至らなかった。
近くで並んだ事で女王は誰に似ているのかが判明した。
ヴィニアちゃんに似ているのだ。
ヴィニアちゃんに気品やら優雅さを足したら、女王になる。
年齢はどうにかなるけど、気品さと優雅さはどうにもならない気がする。
だって、彼女がさつだもの。
家事担当の拾号がよく怒っている。
ここまで似ていると血縁を疑う。
二人は母娘ぐらいの年齢差があるが、母娘ではない。
ヴィニアちゃんにはちゃんと母親がいたし、グリンナイツの情報によると女王は未婚のはずだ。
「従妹かな?」
ヴィニアちゃんの母親は三等民だから、父親の方の親族関係だと思う。
グリンナイツから女王にまつわる色んな情報を聞かされている。
それによると、女王は先代の王様の実子。母親も由緒正しい一族の人間だ。
女王の父親か母親がヴィニアちゃんの父親と繋がっているんだろう。
そんなことを考えていると、ある一つの可能性を思い至った。
「……姉妹」
ユラさんも同じ可能性に行きついたみたいだ。
今まで聞いたヴィニアちゃんの父親の特徴は先王に合致している所が多い。
だけど、一つだけ決定的に違う部分がある。
死因だ。
ヴィニアちゃんの父親は刺殺。
先王の死因は病死だ。
違うとは思うけど、一応聞いてみよう。
「ヴェロニカさん。もしかして、貴方たちの父親ってまさか……」
「そのまさかですわ。わたくしたちは血の繋がった姉妹。わたくしたちの父親は先代の王。バルフロウ・シルイーン・クインシフその人です」
その問いに答えたのはヴェロニカさんではなく、女王だった。
女王の服の胸元が湿っている。
ヴィニアちゃんも泣いていたのかも。
「あの名君がそんな人だったなんて」
「先代の王であるわたくしの父は確かに名君に間違いないです。ですが、同時に女癖が悪いダメ人間でした。至る所に愛人を作り、子を作ったんです」
まさか、あの名君がクズの正体だったなんて。
仕事は有能でも私生活が駄目な人は結構いる。機械コミュ一級の人たちもその代表だ。
先王はそのタイプだったんだろう。
「デトックスストーンでしたっけ?あれの材料としてお渡しした空真珠は父が女性へのプレゼントのために作らせた物なんです。……あれが原因で振られたそうですが」
「ヴェランシスのこともご存じですよね。振ったのは彼女の母親です。こんな下品な物をいるか!と父の頬に投げつけてました。正直、スカッとしました」
「頬を腫らした父の顔は傑作でしたよね」
ヴェロニカさんが補足を入れてくれた。
フルフロワはファッションの中心地。
そこの島主の一族の女性に、あんな巨大な空真珠をあげたところで喜ぶはずがない。
ヴィニアちゃんたちは父親のことをクズ扱いしていたが、女王も例外ではないようだ。
言葉の節々に棘がある。
「でも、ヴィニアちゃんの父親は刺殺されたって聞いたんですけど」
「それは真実です。嘘なのは病死の方です」
駄目な方が真実だったみたいだ。
どうやら、隠蔽したらしい。
隠蔽したのは妥当な判断だろう。
こんなことを明るみにするわけにはいかない。
「普通に病死してくれればいいものの、人妻に手を出し、その配偶者に刺されて死ぬなんてありえません。王家の威信に関わる最悪の死因です。そんな死因を公表するわけには行かなかったので、病死で片付けられました。あの時は大変でした。医師を説得して診断書を偽造したり、目撃者を口止めしたり、何日徹夜したことか」
女王は遠い目をして、当時のことを懐かしんでいた。
ヴェロニカさんも同じ目をしている。相当大変だったんだろう。
死んだ後も迷惑を掛けるとは最悪の父親だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,342
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる