戦場を駆ける魔法配達士は戦い続ける

天羽睦月

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第1章 運命の歯車が動く時

第7話 恨みと戦い

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「姉さん!」

 姉さんと叫びながら出雲は吹き飛んでしまった久遠の元へ走る。
 久遠は黒い火炎が当たった右腕に火傷の跡があった。黒い火炎が右腕に当たる寸前に久遠は魔力で障壁を張っていたのだが、その障壁を軽々と貫通して久遠の右腕に火傷を負わせていた。

「出雲は無事かしら……無事なら良かったわ……」
「俺は無事だよ! 大丈夫!」

 久遠は火傷を負ったことや黒い火炎の衝撃によって今にも気絶をしそうになっていた。出雲は久遠の体を何度も揺らして声をかけるが、消え入りそうな声で逃げてとしか言わなかった。

「姉さん……くそ!」

 出雲は久遠の横の地面を右拳で何度も叩いている。

「俺が弱いから……俺がちゃんとしてないから姉さんが……姉さんが……」

 出雲が何度も地面を叩いて泣いていると、盾を持っている無精髭の男性が再度声をかけてくる。

「こんな場所で何をしているんだ! ここは戦場の中心部で国王直属の騎士が魔族と戦っている場所だぞ! 早く逃げろ!」
「でも……姉さんが……」

 地面に倒れている久遠を出雲が見ると、無精髭の男性が周囲で戦っている騎士達に声をかけた。

「お前達! ここで倒れている姉ちゃんを後方に運んでくれ! 俺はこのガキを連れて行く!」
「分かりました、副隊長!」

 話しかけられてた騎士の1人が無精髭の男性のことを副隊長と呼んだ。
 出雲は副隊長と驚きながら無精髭の男性に話しかけると、しがない中間管理職さと笑顔を向けた。

「俺は逃げたくない! あの魔族を一度殴らないと気がすまない!」
「そうは言っても、お前は弱い。それに騎士じゃなく配達人だ。戦闘は俺達に任せればいいんだ。あ、ちなみに俺の名前は龍堂武って名前だから」
「あ、俺は黒羽出雲です!」

 出雲が名前を武に伝えると、黒い鎧の敵と戦っていた騎士が2人の元へ吹き飛ばされてしまった。

「ぐあ!? がは……」

 金色の鎧を纏っている男性は口から血を吐きながら、出雲の足元で苦しそうに腹部を抑えていた。その男性は金色の髪色をし、出雲より多少年上の20代前半に見える。また、目鼻立ちがハッキリしているその男性は、何度か咳をしながら血を吐きつつ立ち上がる。

「あの魔族は強すぎる……1人なのにこの戦場の誰よりも強い……」

 金色の髪を持つ男性は、右横にいる出雲を見て何故ここにいるのかと低い声で言う。

「配達人風勢が神聖な戦場から出て行け!」

 金色の髪を持つ男性が出雲に言うと、武が2人の間に割って入る。

「そう言うなって。配達人あっての騎士だし、お互いが支え合っているから今の俺達があるんだろ?」
「いなくていい存在だ! 騎士は騎士だけで成り立っている! それにそいつが弱いからそこで倒れている女が傷ついたんだろう!」

 金色の髪を持つ男性に弱いからといわれた出雲は、小さな声で俺だってと呟く。

「確かに俺は弱い……だけど……俺だって戦えるんだ! 姉さんをお願いします! 助けてください! 副隊長さんも一緒に姉さんを連れて行ってください!」

 出雲は久遠を助けに来た騎士と武に頼みますと言い、腰に差している剣を右手に持った。そして、隣にいる金色の髪を持つ男性に俺も戦うと言う。

「訓練もまともに受けていない配達人がか? ただの足手まといだ!」
「それでも俺はあの魔族に一撃を浴びせないと気がすまない!」

 出雲が金色の髪を持つ男性に必死な表情で言うと、陸奥だと自身の名前を言った。

「俺の名前は陸奥伊吹だ。覚えておけ、邪魔な配達人」
「邪魔じゃない! 邪魔な人間なんていない! 誰しもが必要な人間なんだ! 俺も、お前も!」

 お前もという言葉を聞いた伊吹は、配達人が生意気な口を聞くなと声を上げる。
 出雲は良い顔をするじゃないかと伊吹に返答をした。

「あ、これをお渡しします。姉さんを頼みます」

 久遠の側に来た騎士に2人分の糧食を渡し、そのうちの1つは姉さんに食べさせてくださいと顔を強張らせて久遠の顔を撫でながら言った。

 出雲に話しかけられた騎士は任せろと言い糧食を受け取ると、武に後退しますと久遠を背中に乗せて走り出す。

「姉さん……俺はちゃんと生きて戻るからね」

 次第に見えなくなる久遠を見つつ出雲は剣を握る手に力を籠め、出雲の様子を見た伊吹はそろそろ行くぞと低い声色で話しかけた。
 出雲は待たせたなと返答をすると、姉さんのためにと小さく呟く。

「魔族がこっちを見ながら静かに立っている……全然ダメージは受けていないみたいだけど?」
「ほっとけ。俺が弱いんじゃない。あの魔族が強すぎるだけだ」

 強がる伊吹を出雲が横目で見ると、そっちこそ強がりだろと出雲は思っていた。
 負けられない戦い。命を懸ける戦い。実戦は美桜と戦ったあの戦闘しかないと出雲が考えていると、伊吹が右手に光輝く魔力を込めて勢いよく黒い鎧を纏っている魔族に放つ。

「行くぞ! 邪魔をするなよ配達人!」
「邪魔なんてしない! 俺は俺の出来ることをするだけだ!」

 出雲より先に魔族に向けて走り出す伊吹の背中を見て、出雲も遅れながら走り出す。伊吹は既に魔族と戦っており、近距離で斬り合いを始めている。
 伊吹は剣が弾かれた反動を使って魔族に強い上段の攻撃を浴びせようとし、魔族はその攻撃を剣で受け流して空いている左腕で伊吹の腹部に攻撃を当てていた。

「小賢しい技ばかり! 正々堂々と戦え!」

 叫びながらも冷静さを欠かさずに戦い続けている。
 時には剣で攻撃を受け、時には剣で受け流す。伊吹は防御もしつつ魔族の隙をついて剣での攻撃や魔法を用いて魔族と互角に戦っていると出雲には見えているようだ。

「俺も戦う!」

 魔族の斬撃を伊吹が辛うじて避けるのを見た出雲は、伊吹の背中から回り込んで魔族を斬りつけようとする。

「お前のせいで、姉さんが!」

 出雲は振り上げた剣を魔族に向けて振り下ろす。
 しかし出雲の攻撃を魔族は最低限の動きで避ける。伊吹は使えないと出雲に言いながら光輝く魔力を剣に込めた。

「さっきからその輝いている魔力はなに!?」
「これは光属性の魔力だ! 選ばれた者のみが扱える希望の力だ!」
「希望の力……確か美桜も使えたはず……」

 美桜という言葉を出雲が発すると、伊吹は馴れ馴れしくその名を言うなと声を上げた。

「美桜様は可憐で美しくてこの国で1番民のことを考えていらっしゃるお方だ! お前ごときが発していい名前じゃない!」

 魔族に攻撃をしながら剣を構えている出雲に怒鳴る。
 魔族は二人の会話を聞きながら伊吹の攻撃を難なく防ぐと、持っている剣に黒い魔力を込め始めていた。

「強いのが来るぞ! 気を付けろ!」
「見てりゃ分かる! そっちこそ気を付けな!」

 出雲と伊吹の2人がお互いの顔を見合わせると、魔族の持つ剣が黒い炎に包まれた。

「これで焼き死ね」

 兜によってハッキリとは聞き取れないが、籠っている声で焼き死ねとの言葉が二人の耳に入る。魔族は剣を上空に掲げると、勢いをつけて出雲と伊吹の方向にある地面に叩きつける。
 地面に叩きつけられた剣から黒い火炎が耳を劈く爆音を上げながら出雲の身長程の高さに膨れ上がって突き進み始めた。

「これをどうやって防げば!?」

 出雲が迫って来る黒い火炎に驚いていると、防御魔法を使えと怯えている出雲の肩を強く揺らして伊吹が言う。
 その言葉を聞いてハッとした顔をしながら水の防御魔法を出雲が発動をすると、伊吹も光属性の防御魔法を発動した。

「ライトウォール! 魔力を込め続けろ! じゃないと死ぬぞ!」
「分かった! 込め続ける!」

 伊吹に言われた通りに魔力を込めていると、魔族の放った黒い火炎が二人に襲いかかる。

「ぐああ!?」

 出雲は襲いかかってきている黒い火炎の威力に押し潰されそうになっていた。

「押される! 水魔法を使っているのに黒い火炎が中和されない!?」
「お前はなにを言ってんだ! あれは闇属性と火属性を合わせた混合魔法だ! そんな簡単に中和なんて出来るわけないだろう!」

 そんなこと知らないと叫ぶ出雲は、魔力をさらに込めて黒い火炎に飲まれないようにするのが精一杯である。
 伊吹は出雲より余裕があるのか、防御魔法を展開しながら一歩ずつ進み始める。

「お前はそこで死なないようにしていろ! 俺が前に出てあの魔族を討つ!」

 伊吹が魔力を込めながら前に進み続けると、魔族が剣を構えて伊吹の展開している防御魔法を破壊しようと連続で斬りかかる。
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