戦場を駆ける魔法配達士は戦い続ける

天羽睦月

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第2章 運命は巡る

第13話 お気に入りの店

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「美味しいな……この村は魔人族の村なんだよね?」
「そうよ。この村はルスト村って呼ばれているわ。初代村長の名前から決めたらしいわよ」

 ルスト村と聞いて、出雲はその名前に全く心当たりがなかった。
 配達の仕事をしていた際には大和国以外の話など聞いたことがないため、全てが新しいことばかりである。

「大和国以外のことはわからないな……」
「君は大和国から来たの!? あの国って凄く大きくていつか行ってみたいわ!」

 大和国と聞いた瞬間に、レナは大はしゃぎをしてしまう。

「そんなに大和国に行きたいの?」
「この村よりも人が沢山いて、色々なものがあるんでしょ!? 行ってみたいわ!」

 あれもしたいこれもしたいとレナが早口で話していると、出雲はいつか行った時に案内をするよと微笑しながら言う。

「本当!? 絶対よ!」
「ああ。約束するよ」

 その言葉を聞いたレナは、出雲に青白い紋様が描かれている茶器にお茶を注いで手渡した。

「これは?」
「この村で作っているお茶よ。凄い美味しいから飲んでみて」

 出雲は茶器に注がれたお茶を一口飲むと、美味しいと自然に声を発していた。
 奥深さを感じる味に、飲んだ後にもわかるお茶の香りで心が満たされるようであった。

「どう? 美味しいでしょ?」
「凄い美味しい! 何杯でも飲めるよ!」
「飲みすぎるとトイレに行きたくなるから注意をしてね」

 レナはもう一杯お茶を注ぐと、自身も飲み始めた。

「そういや、まだ服を着てなかったね。あっちに服が置いてあるから着てね」

 レナが教えてくれた先を見ると、そこには無地の黒色のTシャツと青色の長ズボンが置いてあった。

「先生が目が覚めた時に着るようにと、用意をしてくれていたの。会った時に感謝をするといいわね」
「わかった。ありがとう」

 出雲は静かにベットから立つと、用意をされていた服を着た。
 サイズはちょうど自身の体格に合っているようで、難なく着ることが出来た。

「され、この村を案内するわね。村は活気で溢れてて良い村よ!」
「そうなの? 楽しみだな」

 レナの後に続いて診療所を出ようとすると、ドアが開いた。
 誰かが診療所に入ってきたようで、レナはその人を見ると先生と言葉を発していた。

「おや? また来たのか?」

 先生と呼ばれた医師がレナを見ていると、その後ろにいる出雲の姿に気が付いた。

「目が覚めたのか!? 意外と早かったな。少しそこで待っててくれ」

 医師は2人をその場で留めると、奥の事務所に向かった。

「何かあったのかな?」
「前に何か言っていたような……」

 レナが何かを思い出そうとしていると事務所から医師が戻り、一枚の紙を出雲に手渡す。

「これは?」
「それは今回の費用の明細書だよ。君に支払ってもらう料金さ」
「そんな!? しかもこんな大金なんて持ってないし、世界共通通貨なんてどうやって……」

 世界共通通貨はこの世界の国々で設定をしている通貨とは別に、どの国でも使用が可能な通貨である。
 大和国の通貨が円であるのなら、世界共通通貨はセタという通貨名である。通貨を交換をする場所は各国々に設置されており、そこで自国の通貨をセタやその国で使用をしている通貨と交換をすることが可能となっている。

「ま、この国ではセタを基本としているから仕事をして稼ぐといいよ。気長に待っているから安心していいぞ」
「あ、ありがとうございます……」

 出雲は紙に書かれている500万セタを見て、どれくらい働かないとダメなんだと落胆をしていた。

「ここで働くと、1日5000セタかな? 返済に時間が必要だね……」
「5000セタしかもらえないのか……」

 ため息をついている出雲を見たレナは、とりあえず外に出ようと言う。
 そうだねと小さな声で出雲は返答をすると、村は活気に溢れているからねと励まそうとしていた。

「そうだね。借金もあるし、この村で体を癒していくしかないか」
「その意気だよ!」

 2人は顔を見合わせて診療所を出ると、日の光が出雲を襲う。
 久しぶりの太陽の日差しだったので、眩しかったのか出雲は目を手で覆った。

「眩しい……日の光がこんなに眩しいなんて……」
「1週間も寝ていたから仕方ないよ! こっちこっち!」

 診療所は村の東側にあったようで、そこは草花に囲まれている静かな場所であった。すぐ側には巨木があり、そこには木の実が実っているのが見える。
 レナは診療所から右側に移動をし、村の中心部に行くようである。

「こっちには村で1番栄えている商店街があるわよ! 早く来て!」
「今行くよ!」

 突然走り出したレナを追いかける形で、出雲は走り出す。
 どうしてレナがここまでしてくれるのかわからないが、今はこれでいいかと出雲は笑顔で追いかける。

「ここよ! 結構人いるでしょ! 服から食器まで幅広く売っている商店街よ! この村にはここ以外にも商店街はあるけど、この商店街程大きくないから、ここに来ると良いわよ!」
「そっか、ありがとう」

 周囲を見渡しながらありがとうと言うと、商店街を歩いている人達がレナに挨拶をしていた。

「レナちゃんおはようー」
「レナお姉ちゃんおはよう!」
「おう! 今日も元気みたいだな!」

 大人から子供まで、男女問わずレナに話しかけていた。
 レナは話しかけてきた全員に挨拶をすると、ごめんねと出雲に言った。

「大丈夫だよ。凄い人気なんだね」
「私が村長の娘だからってだけよ。それに嫌っている人もいるみたいだしね」
「そうなのか? 俺にはレナ自身の魅力で人気があると思うけどな」

 ありがとうと出雲を見て行ったレナは、こっちに良いお店があるのよと手を握って連れて行く。商店街を5分程度歩くと、木製で造られた趣がある店が見えてきた。

「ここが私のおすすめのお店よ! ここのお茶や菓子が美味しいのよ!」
「そうなんだ。興味あるなー」

 出雲が店の中を外から見ていると、レナが入りましょうと声をかける。

「俺お金を持っていないよ? 大丈夫なの?」
「私が払うから安心をして。さ、入りましょう」

 その言葉と共に2人は店内に入っていく。店内は木製の椅子や机が多くあり、さながら森の中にあるカフェといった感じである。店内の角には観葉植物が多数置かれ、壁には木製の時計が設置してあり、落ち着く雰囲気を感じる。
 またカウンターには1人の初老の男性が食器を拭いている最中であり、レナを見るといらっしゃいと低い声で歓迎をした。

「こんにちはマスター! また来たわ!」
「結構な頻度で来るね。そんなに気に入ったのかい?」

 カウンターの席に座るレナを見て出雲はその左隣に座った。
 カフェのマスターはいつものでいいかいとレナに話しかける。

「うん! こっちの人にも同じのをお願い」
「かしこまりました」

 マスターはその言葉を発すると、お茶を作り始めた。

「マスターの作るお茶は美味しいのよ! 独自に作っている茶葉から作る絶品のお茶よ! 是非飲んでよ!」

 カフェのマスターよりも商品に詳しいレナは、出雲にお茶を勧め続ける。

「わかったわかった! そのお茶をもらうよ!」
「そうこなくっちゃ! マスター! そのお茶もう1つ!」

 レナが元気な声で注文をすると、マスターがかしこまりましたと落ち着いた声色で言う。

「このカフェは落ち着いた良い雰囲気だね。俺のいた町にはなかったかな」
「そうなのよ! このカフェは最高よ! この村で1番のカフェなんだから!」

 レナが胸を張って出雲に良い点を説明していると、マスターがお待たせしましたとお茶を2人の前に置いた。

「良い香りでしょ? これはマスターが独自に栽培をしている香芳という茶葉から作ったお茶よ。香りや味も風味も良い全部が最高品質なお茶よ!」
「私の説明がいらないね。レナ君が言ったように、私が独自に作った茶葉のお茶だ。是非飲んでみてくれ」

 出雲は凄いと言いながらお茶の香りを楽しんでいた。

「落ち着く……悩みなんて吹き飛ぶようだ……味も濃すぎないしさっぱりもし過ぎないで飲みやすい……何杯でも飲める!」
「好きになったみたいね! 良かったわ!」

 お茶を一気に飲み干した出雲を見たレナが、そういや名前を聞いてなかったわねと話しかけた。

「君の名前を教えて! まだ聞いてなくてごめんね!」

 謝りながら出雲に名前を聞いてなかったことをレナが謝った。

「気にしなくていいよ。色々バタついていたからね」
「ありがとう!」

 満点の笑顔をレナが見せる。
 その笑顔を見た出雲は、元気な子だなとレナのことを思っていた。

「俺の名前は黒羽出雲だよ。改めてよろしくね」
「私の名前は柊レナよ。こちらこそよろしくね!」

 出雲はいつまでかわからないが、ここで生きていくしかないと考えていた。
 魔族と人族の子孫である魔人族。レナは悪い人ではないし、他の魔人族の人達も良い人に出雲には見えている。
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