全てを識る指先

SF

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第14章

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令嬢の部屋の前に着くと、彼女の母親が扉の前にいた。なぜここにいるのか聞かれ、渋々封筒を差し出す。

「ご親切にありがとうございます。貴方から渡していただいた方があの子も喜びますでしょう。どうぞ中へ」

娘に会ってやって欲しいと言われ驚いた。歩みを止めるフラヴィオに、母親が微笑む。

「もう貴方に夢中なようですのよ」

従者や母親とともに部屋に入れば、着替えている途中だったのか令嬢は髪を下ろした姿で会釈した。
フラヴィオが手紙を渡せば、令嬢は恐縮しつつも受け取り、差出人の名を見て顔を綻ばせた。フラヴィオの胸の内で業火が逆巻く。
しかし微笑みの仮面をつけてそれを隠した。

「その方は、僕も存じておりますよ。彫刻家でいらっしゃるとか」
「ええ、とても繊細な作品をお作りになるの」
「メディチ家で支援している方なのです。お気を悪くなされないで」

母親が令嬢に咎めるような視線を送る。フラヴィオは気にすることはないと笑みを貼り付ける。
得心がいった。セシリオのパトロンか。令嬢に祝いを贈るなどという社交性があったのかと感心する。

「貴女も作品を作って頂いたことがあるのですか」

令嬢は顔を真っ赤にする。

「いえ、あの、対象に触れないと作れないとおっしゃるので・・・お断りに・・・」
「ふっ、確かに淑女の肌に直接触れるなどとんでもないことですからね」

えっ、と2人分の声が上がった。令嬢と、その母親の。

「服や手袋の上から、とお聞きしましたよ。どうしても嫌だという時には採寸で構わないとも」

今度はフラヴィオが目を丸くする番だった。あいつめ、と頭の中だけで悪態を吐き紳士の仮面は外さない。

「そうですか、実は今、彼に彫刻を作っていただいているのですよ」

僕をモデルにして、とフラヴィオは優越と牽制を込めて目を細める。

「まあ、それは素敵!貴方の姿を写すなら、それは美しい作品になるのでしょうね」

令嬢は無邪気に笑い手を合わせる。フラヴィオは穢れない天使のような顔に苛つきを覚える。

「しかし、お会いになったことはありますか?」
「いいえ、怖がらせてしまうからと、お会いになってくださらないの」

萎れた花のように令嬢は俯いた。

「けれども、毎年のように贈り物をくださるんですの。きっと心の優しいお方に違いありませんわ」

封筒から、木彫りのアネモネのブローチが出てきた。令嬢がうっとりとブローチを眺めるのを見て、それを叩き割ってやりたい衝動に駆られる。自分以外にも顧客がいることは分かっているが、自分の彫刻を完成させるより先に、目の前の小娘に贈り物を作ってやったのだと思うと腹立たしくて仕方なかった。

「会わない方がよろしいかと。何しろ二目と見られぬ醜い容姿をしていますからね」

令嬢もその母親もギョッとしてフラヴィオを見る。嫉妬の炎がじりじりと理性を焼いていく。自分でも滑稽だと呆れるが口は止められなかった。とにかく、令嬢にセシリオを合わせたくない一心だった。

「顔の半分はひどく爛れていて、まるで怪物だ。貴女には刺激が」
「もう結構です。どうぞお帰りになってください」

令嬢の母親の目には怒りが燃えていた。令嬢は戸惑いに瞳を揺らしている。

「婚約のお話もなかったことに。見目だけで人を侮辱する方を婿には入れられません。あのお方は私達のーー」

母親の目から一瞬怒りの火が消えた。しかし唇は固く閉ざされ、侍従にフラヴィオを送るよう命令したきり口を効かなかった。
フラヴィオは馬車に乗り帰路につく。煩わしい見合いや婚約から解放されて清々したと背もたれに倒れた。しかし、苦々しさが胸の奥に残った。セシリオを醜い怪物のようだなんて、思ったことはなかったのに。彼の金色と緑色は優しく見つめてきて、いつでも自分を慈しんでくれたのに。
それに、セシリオはあの母娘と何のかかわりがあるのだろう。ただのパトロンではなさそうだ。よもや愛人などとはーー
フラヴィオは屋敷に着いてからも悶々と過ごし、夜会の顛末を聞いた両親からこっぴどく叱られるまで上の空だった。
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