愛の重さは人知れず

リンドウ(友乃)

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 今日も朝日が眩しい。三田 惣一郎は、1DKの部屋のカーテンを開け、両腕を真上に掲げ、大きく伸びをした。

「惣…」
「悪い、起こしたか」
「いや、大丈夫。もう起きるから」
 のそのそと、まるでそう音を立てるように、卯月 詩音が起き上がる。

「まだ寝てていいぞ?」
「ううん、今日、締切のものがあるから」
 まだ起きていない頭で答える詩音は、きっと、昨日の夜も遅かったのだろう。ぽやぽやした寝起きの顔が可愛い。

 卯月 詩音。彼を一言で表すなら、ふわふわ。
 思わず撫でたくなる髪がふわふわと、空気を含んでいるからでもある。が、きっと、詩音に纏う空気がふわふわしているからだ。
 なのに、仕事はウェブライター。というと、詩音にぴったりな気もする。しかし、実際には競争が激しい世界で、きっと惣一郎が勤める広告会社よりは過酷な職種だろう。

「そっか」
「惣は今日も遅いの?」
「今日も遅いかもな」
「そっか…」
「…朝飯、作るな」

 聞いているのか、聞いていないのか。きっと、昨日も布団に入ったのは日を跨いでからだなと、内心呆れつつ、返事の有無に関わらずに朝食の支度に取り掛かり始める。それが、惣一郎のいつもの日課だ。

 今朝のメニューは目玉焼きだ。それに昨日の余りの味噌汁、それから鮭を焼き、鶏肉と根菜をフライパンで炒める。
 詩音の、好物の卵に鶏肉。それがあれば、詩音も目覚めるだろう。

「できたぞーそろそろ起きろよ」
「うん、ありがとう、惣」
 惣、と呼ぶ声は少し芯がある。
 けれどきっと、まだ起きてはいない。仕事の疲れや寝不足だけではなく、詩音は朝が弱い。
 そのことに気が付いたのは、二人がまだ大学生だった頃。一年生の春のことだった。

 講義室の隣の席、首をかくかくさせ、けれどしっかりとペンは握ったまま。

『あの、落ちましたけど』
 そう声を掛けたのは、ペンではなく、筆箱が机から落ちたから。

『あ。すみません』
 それが、詩音と初めて話した日だった。
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