愛の重さは人知れず

リンドウ(友乃)

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「なんか、不思議ですよね」
「え?」
「偶然、あの本屋で知り合うまで僕たち、赤の他人だったじゃないですか」
「たしかに」
「…けど、今はもう、昔からの友達みたいで」

 それは惣一郎も感じていたことだ。と、三月の話に相槌を打った。

「…だから、もう、話してもいいかなって」
「何を、ですか?」
「…僕の恋人、男の人なんです」

 瞬間、何を告げられているのか、というより、三月が誰の話をしているのかわからなくなり、つい、返す言葉を失っていた。

 だってあまりにも、リアル過ぎたのだ。

 詩音とのことを示唆されるようなことを言った覚えはない。が、自然と口から態度から滲み出てしまっていたら。そう思うと、いてもたってもいられなかった。
 しかし、それが杞憂だったと知ったのは、三月が紡ぐ言葉のおかげだった。

「引いてます?男同士のカップルって」
「ッ!引くわけないじゃないですか!」

 思いのほか、大きな声だった。けれど、そう言わせたことも思わせたことも全てが悔しくて、気付けばそう言っていた。

「俺は、その」
「…良かった、三田さんならそう言ってくれると思っていたので」
「俺ならって、どういう意味ですか?」
「ん~なんとなく、です。ただ、なんとなく、三田さんならそういう偏見はないんじゃないかなって」

 微笑みながらそう言われ、嬉しいのかなんなのか、よくわからないけれど胸の辺りがくすぐったくなった。
 それはきっと、そう思われて嬉しい気持ち。そして、自分もそう思われたいという願望。

「…俺が偏見あったら、どうするんですか」
「それは、どうでしょう?三田さんならわかってくれると思ってたし。でも、もし、わかってもらえなかったとしても、わかってもらえるまで話しちゃうかな?」

 ああ、そうか。俺もずっと、そうしたかったのか。

 ふいに、ずっと見つけられなかった答えを見つけた気がして、くすぐったさから温かさに変わった。
 詩音との関係を人に言えない理由をずっと、惣一郎は無意識に探していた。時には詩音が傷つくからと思ったり、人間関係に亀裂が生じるからと思ったり。
 それが今、全部言い訳でしかなかったのだと、シンプルに自分の中に落ちて来た。

 そして思う。ずっと、言いたかったのだと。誰かに認めて欲しかったのだと。

 だって今、三月はとても満たされた顔をしている。

「…もし、三田さんが言いたいことあったら僕、いつでも聞きますから」
「…はい」
 その時はよろしくお願いします―。

 そう言った言葉は頼りなく、けれどもきっと三月には届いていたのだと思う。
 そっと微笑んでくれた声が、惣一郎の耳に届いたのだから。
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