サイファ ～少年と舞い降りた天使～

第三章 闇を彷徨う心を癒したい

【Side】 ジャイロ ～おとなしいやつほど怒らせるとこえぇ～

　肝が冷えたぜ。
　おとなしいやつほど怒らせるとこえぇってマジだな。
　最初は俺も、闇主どもに腹が立ってた。さっさと片づければいいのに、デゼルとサイファは甘すぎるだろと思ってやがった。
　けど、甘すぎるの俺だったな。

　なんつーか。

　そこまですんのかって思っちまうが、デゼル、そこまでされたんだよな。
　あんまりだよな。
　やつらが強いられる任務が何を意味するか、ああやって聞かされたら、ゾッとしやがったが。聞かされなきゃ、人助けに闇主使ってるだけっつー、まぁ、当たり前の任務なわけでな。
　任務が終わったら処刑っつーのも、やつらの罪状を考えれば当たり前だ。
　デゼルだけが酷い目に遭わされたわけじゃねぇから。
　強盗殺人、強姦殺人、これでもかって極悪なこと、いくらでもしてきやがったやつらだぜ。
　無罪放免ってわけにゃいかねーだろ。

　しかし、なんつーか。

　サイファも人間だったんだなっつーか。
　やっぱ、闇主たちがのうのうと生きてんの、許せてたわけじゃねぇんだな。
　俺だったら八つ裂きにしても足りねぇって、この手で、その場で皆殺しにしちまっただろうが。
　それって、何にもならねぇんだよな。
　デゼルがズタズタにされただけで、何にもならねぇんだよ。
　やつらを皆殺しにしたって、デゼルが救われるわけでも、他の誰かが救われるわけでもねぇ。
　俺だって、『八つ裂きにしても足りねぇ』ままなんだよ。

　デゼルとサイファは――
　さすが天下の闇巫女様と闇主様だぜ。
　二人のやり方なら、とにかく、救われる人間が大勢いる。
　やつらがいなけりゃ、別の誰かが魔物からデゼルを守る盾になんなきゃいけねーわけだろ。
　誰もやらなきゃ、女子供までが魔物にいつまでも襲われ続けるわけだろ。
　魔物にされちまったやつらも元の姿に戻れねぇ。
　てめぇの感情より、他人の不幸をどうにかすることが優先て、俺には到底、真似できねぇが。
　俺は、あの二人が嫌いじゃねぇよ。
　サイファは相変わらず、「彼らも根っから悪い人じゃないんだろうけど、僕はいい人じゃないから」なんて、寝ぼけたこと言ってやがったが。
　闇主ども、どー考えても根っから悪いやつらだっつの。
　サイファがいいやつじゃなかったら、誰がいいやつなんだっつの。
　たく、あの二人はあぶなっかしーから、俺と姉ちゃんがついててやんねーと駄目なんだよな。
　闇巫女と闇幽鬼ってな、同じ目標を持ってねぇのに、見事、闇の神オプスキュリテの双翼として働くんだから、おもしれぇよな。