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第二章 魔神ルシフェル ≪永遠のロマンス≫
第62話 闇幽鬼の恩返し
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「デゼル! 急に姿を隠したから、心配したんだよ」
「サイファ様……」
ずっと、会いたかったのに。
ようやく、サイファを私の闇主から解放できるようになったのに。
私――
死にたかったはずなのに、死にたくない。
だって、今、手を伸ばせば届くところにサイファがいるの。
サイファの胸に飛び込みたいよ。
サイファとさよならしたくない。
――そんなわがまま、駄目よね?
つらいよ。
サイファが私の闇主じゃなくなるのも、死んでもう会えなくなるのも、私――
どうしよう、私の傍にいたらサイファは幸せになれないのに、私、傍にいてって、サイファに願ってしまいそう!
「こどもを……」
涙が一滴、もう一滴、あふれて落ちた。
「殺します」
サイファが息をのんで私を見た。
私をどう、思っただろう。
サイファは優しいもの。
何の罪もないこどもを殺そうとする私なんて、嫌いになったよね。
もう、愛してくれないよね。
「どうやって?」
ユリシーズの声に、私は少し驚いて顔を上げたの。
そうか、私が急に姿を隠したから、サイファ、心配してユリシーズに相談していたのね。
シナリオ通りで驚いてしまうけど、ユリシーズはしっかり、ネプチューンが帝位に就くタイミングで、トランスサタニアン帝国に入国していたようなの。
「……刺し殺せれば……」
「それって、あなたの身体を瀕死に追い込んで、強引に流産させるつもりなの? 方法のあてはないのね?」
私がうなずくと、ユリシーズが言った。
「デゼル、約束を果たしてもらえないかしら。皇帝と皇太子が討たれ、無事、ネプチューン様が帝位に就かれたわよ」
私は弱く微笑んで、うなずいた。
「生命の水【Lv9】――水神の名を借りて命ずる、ユリシーズを癒したまえ」
興奮した顔で鏡を見に走ったユリシーズが、歓喜の表情でふり向いた。
「ああデゼル、ありがとう! 私、あなたには本当に感謝してる。どんなに感謝してもしきれない。だから――そのこども、私が殺してあげようか?」
私は息をのんでユリシーズを見た。
「いいの? そんなこと、だって、ユリシーズ!」
「だってもさってもない、私は闇幽鬼よ? あなたほど、殺しに抵抗はないわ。あなたはこどもと言うけど、今ならまだ、きっと、魂だって宿っていないわよ。――私、あなたの気持ちはわかるつもりよ」
ユリシーズが優しいから、ぼろっと、涙が落ちた。
「あり…がとう。じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せて。ただ、苦しいのは覚悟して。確殺してみせるけど、子供を産めない身体になるからね? 終わったら、さっき、私に使ってくれた闇魔法で癒せるのよね?」
「……うん」
そのつもり。
だから、ユリシーズの申し出は本当にありがたかった。
生命の水の奥義はあと一度しか使えない。
やり直しはできないの。
私、確殺する自信なんてなかったけど、ユリシーズならできると思う。
現世の医療技術をもってしても、中絶は危険なのよ。
まして、何の知識もない私が自分でやるなら命懸け、子供を産めない身体になるくらいの代償はついてくるに決まっていたの。
ついさっき、助けてくれた神様に申し訳なくて、少し笑った。
さすがに、これをしたら、慈愛と正義の女神ユースティティア様の承認を取り消されてゲームオーバーになると思う。
私がしようとしていることの、どこにも慈愛も正義もないもの。
私は何の罪もないこどもを殺すの。
エリス様に言われた通り、私はもう、身も心も穢れた汚物だよね。
「――サイファ様、もし、私が途中で意識を失ったら、気つけをして欲しい。でも、こんなことに手を貸したくなかったら、マリベル様に頼むから」
「いや……僕がするよ」
サイファは、どう思ってるのかな。
私のこと、嫌いになった?
もう二度と、優しく抱いてはもらえないのかな。
サイファが私をもう嫌いなら、傍にいてなんて言えないもの。
サイファなら、いくらでも、私よりいい人を見つけられるもの。
わざわざ、穢され尽くした私を選ぶこと、ないもの。
「デゼル、覚悟はいい?」
私がこくんとうなずくと、ユリシーズが闇魔法の詠唱に入った。
「デゼルの胎の水よ血よ、我が心の昏き闇を種火に煮えたぎり、宿りし命を絶て!」
身体の内側から煮やされる激しい苦痛に、たまらず、絶叫がほとばしり出た。
苦しいなんて言葉じゃ足りない苦しさに、意識が飛んでも、サイファに起こされたし、起こしてもらわないといけないの。
私の意識が飛んだままになったら、死んでしまうもの。
絶命するギリギリで、生命の水を使うのよ。
「サイファ様……」
ずっと、会いたかったのに。
ようやく、サイファを私の闇主から解放できるようになったのに。
私――
死にたかったはずなのに、死にたくない。
だって、今、手を伸ばせば届くところにサイファがいるの。
サイファの胸に飛び込みたいよ。
サイファとさよならしたくない。
――そんなわがまま、駄目よね?
つらいよ。
サイファが私の闇主じゃなくなるのも、死んでもう会えなくなるのも、私――
どうしよう、私の傍にいたらサイファは幸せになれないのに、私、傍にいてって、サイファに願ってしまいそう!
「こどもを……」
涙が一滴、もう一滴、あふれて落ちた。
「殺します」
サイファが息をのんで私を見た。
私をどう、思っただろう。
サイファは優しいもの。
何の罪もないこどもを殺そうとする私なんて、嫌いになったよね。
もう、愛してくれないよね。
「どうやって?」
ユリシーズの声に、私は少し驚いて顔を上げたの。
そうか、私が急に姿を隠したから、サイファ、心配してユリシーズに相談していたのね。
シナリオ通りで驚いてしまうけど、ユリシーズはしっかり、ネプチューンが帝位に就くタイミングで、トランスサタニアン帝国に入国していたようなの。
「……刺し殺せれば……」
「それって、あなたの身体を瀕死に追い込んで、強引に流産させるつもりなの? 方法のあてはないのね?」
私がうなずくと、ユリシーズが言った。
「デゼル、約束を果たしてもらえないかしら。皇帝と皇太子が討たれ、無事、ネプチューン様が帝位に就かれたわよ」
私は弱く微笑んで、うなずいた。
「生命の水【Lv9】――水神の名を借りて命ずる、ユリシーズを癒したまえ」
興奮した顔で鏡を見に走ったユリシーズが、歓喜の表情でふり向いた。
「ああデゼル、ありがとう! 私、あなたには本当に感謝してる。どんなに感謝してもしきれない。だから――そのこども、私が殺してあげようか?」
私は息をのんでユリシーズを見た。
「いいの? そんなこと、だって、ユリシーズ!」
「だってもさってもない、私は闇幽鬼よ? あなたほど、殺しに抵抗はないわ。あなたはこどもと言うけど、今ならまだ、きっと、魂だって宿っていないわよ。――私、あなたの気持ちはわかるつもりよ」
ユリシーズが優しいから、ぼろっと、涙が落ちた。
「あり…がとう。じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せて。ただ、苦しいのは覚悟して。確殺してみせるけど、子供を産めない身体になるからね? 終わったら、さっき、私に使ってくれた闇魔法で癒せるのよね?」
「……うん」
そのつもり。
だから、ユリシーズの申し出は本当にありがたかった。
生命の水の奥義はあと一度しか使えない。
やり直しはできないの。
私、確殺する自信なんてなかったけど、ユリシーズならできると思う。
現世の医療技術をもってしても、中絶は危険なのよ。
まして、何の知識もない私が自分でやるなら命懸け、子供を産めない身体になるくらいの代償はついてくるに決まっていたの。
ついさっき、助けてくれた神様に申し訳なくて、少し笑った。
さすがに、これをしたら、慈愛と正義の女神ユースティティア様の承認を取り消されてゲームオーバーになると思う。
私がしようとしていることの、どこにも慈愛も正義もないもの。
私は何の罪もないこどもを殺すの。
エリス様に言われた通り、私はもう、身も心も穢れた汚物だよね。
「――サイファ様、もし、私が途中で意識を失ったら、気つけをして欲しい。でも、こんなことに手を貸したくなかったら、マリベル様に頼むから」
「いや……僕がするよ」
サイファは、どう思ってるのかな。
私のこと、嫌いになった?
もう二度と、優しく抱いてはもらえないのかな。
サイファが私をもう嫌いなら、傍にいてなんて言えないもの。
サイファなら、いくらでも、私よりいい人を見つけられるもの。
わざわざ、穢され尽くした私を選ぶこと、ないもの。
「デゼル、覚悟はいい?」
私がこくんとうなずくと、ユリシーズが闇魔法の詠唱に入った。
「デゼルの胎の水よ血よ、我が心の昏き闇を種火に煮えたぎり、宿りし命を絶て!」
身体の内側から煮やされる激しい苦痛に、たまらず、絶叫がほとばしり出た。
苦しいなんて言葉じゃ足りない苦しさに、意識が飛んでも、サイファに起こされたし、起こしてもらわないといけないの。
私の意識が飛んだままになったら、死んでしまうもの。
絶命するギリギリで、生命の水を使うのよ。
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