26 / 316
第二章 正統派と半端者
6
しおりを挟む「さて、古川さんの今回の記憶は消しておかないといけませんね」
笑いが収まってきたのか、ふぅと息をつきそう言うと、先生は塔子の寝ているベットに向かおうとした。
「待って下さい!消すって!?」
私は思わず先生の腕を掴む。
「東雲さんは、古川さんを守りたくはないですか?」
「えっ?」
「確かにいつも仲良くしている三人なのに、一人にだけ真実を言わないのは辛いでしょう。
でも、古川さんは本当にこちらとは無関係なんです。
こちらの争いに巻き込まれた時、身を守る能力のない彼女を守るためには、情報を持っていない、これが一番彼女にとって武器になるんです。
その為に自分達が秘密を隠し通すこと、それに耐えられますよね?」
先生の静かな、そして有無を言わせない言葉に、私は掴んでいた手をゆっくりと離し、先生の目を見て頷いた。
それを先生は眼を細めて私を見た後、塔子のベットに行き、カーテンを閉めた。
「ゆい」
実咲がためらったように声をかけた。
「ダメだね、私。やっぱりお子様なんだなぁ」
さっきはあれだけ偉そうに葛木先生に言ったのに。
藤原もそれで必死に私の記憶を消したがったんだ。
だけど私の我が儘で、自分の身も守れないから、結局実咲や色々な人に守ってもらってる。
そんな大切なことを、私はきちんと理解出来ていなかった。
「ごめんね」
思わず実咲に言ってしまう。
「何言ってるの、助け合うのは当然でしょ、友達なんだから」
そうやって笑ってくれた実咲に、私も泣きそうな気持ちになりながら、笑顔を浮かべ、ありがとう、と返した。
その後塔子は学校側が様子を見るということで、実咲は葛木先生に付き添い、私は一人寮に戻った。
葛木先生から塔子の記憶について、単に買い物に行く途中体調不良で倒れ、学校に運ばれた、という認識になっているだろう、と告げられた。
それで、この頃起きていた女子が学園の外で体調不良を起こしていた理由が分かった。
そして記憶を消すというのは、魔法のようにまっ白に消すのではなくて、術で記憶を曖昧にさせることなのだと実咲から聞いた。
人の記憶にそこまでのことが出来るのは陰陽師でもほんの一握りの人だけらしい。
何が記憶を思い出させるきっかけになるかわからないから、出来るだけ今日のことは話さないようにしようと実咲に言われ、私も頷いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる