こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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序章

3、ローザ

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「ローザさんってどんな人なの?」

 ローザの家への道中、流石に何の情報もないまま行くのは恐ろしく、マリアはそう尋ねた。

「なんていうか、その~つかみどころがない人だよな」
「そうだな。いまいちよくわからない人だ。まぁ会ってみればわかると思うぞ」

 ウーノとルアンは曖昧な言い方をした。
 2人の答えによってよりマリアの中のローザ像が謎に包まれてしまった。

(えっ? 結局どんな人?)

 その後はいくら訊いてもローザについては誤魔化されるだけで、仕方なく他愛もない話をしていた。

 15分ほど歩いたところでルアンが1軒の家の前で不意に立ち止まった。

「ここだ」

 ルアンはドアをノックすると中に声を掛けながらドアを開けた。
 そこは生活感がまったくない空間だった。本当に人が住んでいるのか疑いたくなるほどだ。隅にすら塵1つ落ちていない代わりに、特にこれといって物がない。
 ルアンが奥のドアを開けるとさっきまでとは対照的にこれでもかというほど散らかった部屋が姿を現した。
 床には本棚からはみ出した本がうず高く積まれ、ちょっとした衝撃で崩れそうだ。その他にも何に使うのか不明なガラス器具、正体不明の鉱石や色とりどりの半透明な石が其処彼処に散乱し、足の踏み場がない。
 その部屋の奥、本と本の山の隙間に小柄な老女の姿があった。3人に背を向けて何やら作業をしている。どうやらマリアたちが入ってきたことにも気づいていないようだ。

「おい、ローザ婆さん!」

 痺れを切らしたウーノが呼び掛けるとマリアたちの方を振り向いた。

「何だい! 今いいところなんだよ! 邪魔をしないでおくれ!」

 それだけ言うとまた机の方に顔を戻した。

「おい、ルアン。アポは取ってあるんじゃなかったのか?」
「あ、ああ……」

 ウーノの不機嫌そうな声に狼狽えた様子でルアンは答えた。

「じゃあ今のこの状況を説明しろ!」
「そんなもの俺にわかると思っているのか?」
「……ローザ婆さんだしな。しょうがない、か」
「そういうことだ」

 2人供何かを悟ったような表情を浮かべていた。

「しょうがない。終わるまで待つか」

 言うが早いかウーノは適当にその辺に転がっていた物を退かすと床に座り込んだ。

「えっ? 勝手に移動させちゃっていいの?」
「大丈夫だ。本人ですら時々どこに何があるかわからなくなってんだ。壊さなければ文句なんて言われねぇよ」

 そんなやり取りをしている間にルアンも慣れた様子で自分の座る場所を作ってしまっていた。

「ルアン、おじさんもいいの? 宿は? これから忙しくなるんじゃないの?」

 マリアの矢継ぎ早な質問にルアンは苦笑いを浮かべた。

「大丈夫だ。どうせ常連しか来ねぇし、それぐらいだったらレリーナ1人でもどうとでもなる。寧ろこのまま2人をおいて帰った方が怒られそうだ」

 ルアンはそう言って肩を竦ませる。

「相変わらず尻に敷かれてんなあ」
「ほっとけ」

 そっぽを向くルアンを見ながらマリアは一瞬レリーナって誰だと首を傾げたが、すぐに宿の女性だろうとあたりをつけた。
 そして2人が作ってくれた場所に黙って座った。

 それから2時間も3人は待たされた。その間ずっと無言だ。話し出すとローザがこちらを睨むのだからしょうがない。

「それで何の用だい?」

 それがようやく作業に一区切りをつけたローザの第一声だった。

「事前に言っていたと思うんだが、このマリアの学園への推薦をお願いしたいんだ」
「……そういえばそんなことを言われたねぇ。すっかり忘れていたよ」

 ローザはそう言うとマリアを見た。
 マリアは何かを見透かすかのような目に思わず肩を震わせる。

「その話ならダメだ」

 ローザはそう言い捨てた。

「な、何でだ!」

 ローザは溜息を吐いた。

「勘違いしないでおくれよ。別に推薦したくないっていう訳じゃない。その子の口からその子の意志を聞いて推薦するかどうか決めるだけだ」

 そう言うとマリアに向かって言った。

「おまえ自身はどう思っているんだい? 学園はおまえが思っているほど甘いところではない。金持ち連中がごまんといる。……貴族も、場合によっては王族すらも。平民というだけで見下されるかもしれない。いわれのない暴力を受けるかもしれない。おまえにそうなるかもしれない覚悟はあるのかい?」
「わ、私は──」

 マリアは震える声で自らの答えを告げた。
 ローザはその答えに満足そうに笑った。
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