17 / 464
序章
3、ローザ
しおりを挟む
「ローザさんってどんな人なの?」
ローザの家への道中、流石に何の情報もないまま行くのは恐ろしく、マリアはそう尋ねた。
「なんていうか、その~つかみどころがない人だよな」
「そうだな。いまいちよくわからない人だ。まぁ会ってみればわかると思うぞ」
ウーノとルアンは曖昧な言い方をした。
2人の答えによってよりマリアの中のローザ像が謎に包まれてしまった。
(えっ? 結局どんな人?)
その後はいくら訊いてもローザについては誤魔化されるだけで、仕方なく他愛もない話をしていた。
15分ほど歩いたところでルアンが1軒の家の前で不意に立ち止まった。
「ここだ」
ルアンはドアをノックすると中に声を掛けながらドアを開けた。
そこは生活感がまったくない空間だった。本当に人が住んでいるのか疑いたくなるほどだ。隅にすら塵1つ落ちていない代わりに、特にこれといって物がない。
ルアンが奥のドアを開けるとさっきまでとは対照的にこれでもかというほど散らかった部屋が姿を現した。
床には本棚からはみ出した本がうず高く積まれ、ちょっとした衝撃で崩れそうだ。その他にも何に使うのか不明なガラス器具、正体不明の鉱石や色とりどりの半透明な石が其処彼処に散乱し、足の踏み場がない。
その部屋の奥、本と本の山の隙間に小柄な老女の姿があった。3人に背を向けて何やら作業をしている。どうやらマリアたちが入ってきたことにも気づいていないようだ。
「おい、ローザ婆さん!」
痺れを切らしたウーノが呼び掛けるとマリアたちの方を振り向いた。
「何だい! 今いいところなんだよ! 邪魔をしないでおくれ!」
それだけ言うとまた机の方に顔を戻した。
「おい、ルアン。アポは取ってあるんじゃなかったのか?」
「あ、ああ……」
ウーノの不機嫌そうな声に狼狽えた様子でルアンは答えた。
「じゃあ今のこの状況を説明しろ!」
「そんなもの俺にわかると思っているのか?」
「……ローザ婆さんだしな。しょうがない、か」
「そういうことだ」
2人供何かを悟ったような表情を浮かべていた。
「しょうがない。終わるまで待つか」
言うが早いかウーノは適当にその辺に転がっていた物を退かすと床に座り込んだ。
「えっ? 勝手に移動させちゃっていいの?」
「大丈夫だ。本人ですら時々どこに何があるかわからなくなってんだ。壊さなければ文句なんて言われねぇよ」
そんなやり取りをしている間にルアンも慣れた様子で自分の座る場所を作ってしまっていた。
「ルアン、おじさんもいいの? 宿は? これから忙しくなるんじゃないの?」
マリアの矢継ぎ早な質問にルアンは苦笑いを浮かべた。
「大丈夫だ。どうせ常連しか来ねぇし、それぐらいだったらレリーナ1人でもどうとでもなる。寧ろこのまま2人をおいて帰った方が怒られそうだ」
ルアンはそう言って肩を竦ませる。
「相変わらず尻に敷かれてんなあ」
「ほっとけ」
そっぽを向くルアンを見ながらマリアは一瞬レリーナって誰だと首を傾げたが、すぐに宿の女性だろうとあたりをつけた。
そして2人が作ってくれた場所に黙って座った。
それから2時間も3人は待たされた。その間ずっと無言だ。話し出すとローザがこちらを睨むのだからしょうがない。
「それで何の用だい?」
それがようやく作業に一区切りをつけたローザの第一声だった。
「事前に言っていたと思うんだが、このマリアの学園への推薦をお願いしたいんだ」
「……そういえばそんなことを言われたねぇ。すっかり忘れていたよ」
ローザはそう言うとマリアを見た。
マリアは何かを見透かすかのような目に思わず肩を震わせる。
「その話ならダメだ」
ローザはそう言い捨てた。
「な、何でだ!」
ローザは溜息を吐いた。
「勘違いしないでおくれよ。別に推薦したくないっていう訳じゃない。その子の口からその子の意志を聞いて推薦するかどうか決めるだけだ」
そう言うとマリアに向かって言った。
「おまえ自身はどう思っているんだい? 学園はおまえが思っているほど甘いところではない。金持ち連中がごまんといる。……貴族も、場合によっては王族すらも。平民というだけで見下されるかもしれない。いわれのない暴力を受けるかもしれない。おまえにそうなるかもしれない覚悟はあるのかい?」
「わ、私は──」
マリアは震える声で自らの答えを告げた。
ローザはその答えに満足そうに笑った。
ローザの家への道中、流石に何の情報もないまま行くのは恐ろしく、マリアはそう尋ねた。
「なんていうか、その~つかみどころがない人だよな」
「そうだな。いまいちよくわからない人だ。まぁ会ってみればわかると思うぞ」
ウーノとルアンは曖昧な言い方をした。
2人の答えによってよりマリアの中のローザ像が謎に包まれてしまった。
(えっ? 結局どんな人?)
その後はいくら訊いてもローザについては誤魔化されるだけで、仕方なく他愛もない話をしていた。
15分ほど歩いたところでルアンが1軒の家の前で不意に立ち止まった。
「ここだ」
ルアンはドアをノックすると中に声を掛けながらドアを開けた。
そこは生活感がまったくない空間だった。本当に人が住んでいるのか疑いたくなるほどだ。隅にすら塵1つ落ちていない代わりに、特にこれといって物がない。
ルアンが奥のドアを開けるとさっきまでとは対照的にこれでもかというほど散らかった部屋が姿を現した。
床には本棚からはみ出した本がうず高く積まれ、ちょっとした衝撃で崩れそうだ。その他にも何に使うのか不明なガラス器具、正体不明の鉱石や色とりどりの半透明な石が其処彼処に散乱し、足の踏み場がない。
その部屋の奥、本と本の山の隙間に小柄な老女の姿があった。3人に背を向けて何やら作業をしている。どうやらマリアたちが入ってきたことにも気づいていないようだ。
「おい、ローザ婆さん!」
痺れを切らしたウーノが呼び掛けるとマリアたちの方を振り向いた。
「何だい! 今いいところなんだよ! 邪魔をしないでおくれ!」
それだけ言うとまた机の方に顔を戻した。
「おい、ルアン。アポは取ってあるんじゃなかったのか?」
「あ、ああ……」
ウーノの不機嫌そうな声に狼狽えた様子でルアンは答えた。
「じゃあ今のこの状況を説明しろ!」
「そんなもの俺にわかると思っているのか?」
「……ローザ婆さんだしな。しょうがない、か」
「そういうことだ」
2人供何かを悟ったような表情を浮かべていた。
「しょうがない。終わるまで待つか」
言うが早いかウーノは適当にその辺に転がっていた物を退かすと床に座り込んだ。
「えっ? 勝手に移動させちゃっていいの?」
「大丈夫だ。本人ですら時々どこに何があるかわからなくなってんだ。壊さなければ文句なんて言われねぇよ」
そんなやり取りをしている間にルアンも慣れた様子で自分の座る場所を作ってしまっていた。
「ルアン、おじさんもいいの? 宿は? これから忙しくなるんじゃないの?」
マリアの矢継ぎ早な質問にルアンは苦笑いを浮かべた。
「大丈夫だ。どうせ常連しか来ねぇし、それぐらいだったらレリーナ1人でもどうとでもなる。寧ろこのまま2人をおいて帰った方が怒られそうだ」
ルアンはそう言って肩を竦ませる。
「相変わらず尻に敷かれてんなあ」
「ほっとけ」
そっぽを向くルアンを見ながらマリアは一瞬レリーナって誰だと首を傾げたが、すぐに宿の女性だろうとあたりをつけた。
そして2人が作ってくれた場所に黙って座った。
それから2時間も3人は待たされた。その間ずっと無言だ。話し出すとローザがこちらを睨むのだからしょうがない。
「それで何の用だい?」
それがようやく作業に一区切りをつけたローザの第一声だった。
「事前に言っていたと思うんだが、このマリアの学園への推薦をお願いしたいんだ」
「……そういえばそんなことを言われたねぇ。すっかり忘れていたよ」
ローザはそう言うとマリアを見た。
マリアは何かを見透かすかのような目に思わず肩を震わせる。
「その話ならダメだ」
ローザはそう言い捨てた。
「な、何でだ!」
ローザは溜息を吐いた。
「勘違いしないでおくれよ。別に推薦したくないっていう訳じゃない。その子の口からその子の意志を聞いて推薦するかどうか決めるだけだ」
そう言うとマリアに向かって言った。
「おまえ自身はどう思っているんだい? 学園はおまえが思っているほど甘いところではない。金持ち連中がごまんといる。……貴族も、場合によっては王族すらも。平民というだけで見下されるかもしれない。いわれのない暴力を受けるかもしれない。おまえにそうなるかもしれない覚悟はあるのかい?」
「わ、私は──」
マリアは震える声で自らの答えを告げた。
ローザはその答えに満足そうに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる