こうして少女は最強となった

松本鈴歌

文字の大きさ
24 / 464
第一章 入学と第二王子

入学(4)

しおりを挟む
「大丈夫だった!?」

 駆けつけたマリアたちが見たのは気を失った貴族たちとその傍に静かに佇んでいるローザの姿だった。

「やはりこうなってしまったか……」

 学園長が天を仰いだ。どこか遠い目をしているのはマリアの気のせいではないだろう。

「私は法に従って制裁を加えただけだよ。何か文句があるのかい?」
「い、いや」

 ローザに凄まれて学園長は早々に白旗を上げた。

「いつもこれだから……」

 学園長が何かをボソッと呟いたが、幸か不幸か離れたところにいるローザには聞こえなかったようだ。

 それからが大変だった。貴族たちを騎士団に引き渡さなければならなかったのだ。
 当然のことながら騎士団の上層部の大半は貴族で構成されている。揉み消した上でこちらを捕まえようとした。
 そんな騎士たちに効果を発揮したのがローザが使用している魔道具の一つだった。
 魔術具は本来、使用するときにだけ魔力を流す。ローザのように常に使用しているとそれが非常にわかり辛くなる。だからこそ貴族たちも気づかなかったのだろう。蓄音の魔道具から再生させると面白いぐらいに真っ青になって騎士たちは壊そうとしたが、学園長が止めた。

「今のは儂も聞いておったから証言しても良いぞ?」

 脅しを入れておくことも忘れない。
 貴族たちは途端に大人しくなり、下級騎士たちに連行されて行った。ちなみにさっき校長室でマリアに意地悪をした副学園長のロゼットもマリアがローザの指示で起動しておいた魔道具で録画されており、一緒に連れて行かれた。あんなのが副学園長とは世も末である。
 どうせすぐに釈放されるだろうがこれで少しは懲りただろう。

「あれ? ってことはもしかしてさっき身体強化系の魔道具を使っていた?」

 唯一直接何もしなかったという理由で連行を免れた貴族の青年がポツリと呟いた。ちなみにさっきローザを怯えていたあの青年だ。

「よくわかったのぅ。その通りじゃ」

 ローザはこうなることを最初から見越して学園に来る前から身体強化の魔道具と畜音の魔道具を使用しており、それから念のために防御のシールドを張る魔道具も発動こそさせていなかったが発動待機状態にしていた。
 つまり、全てはローザの思惑通りだったのだ。
 そうとは知らないマリアは純粋にローザのことを心配していたが、学園長は騙されなかった。

(ローザ、相変わらず恐ろしい奴じゃ)

 学園長はローザの狙いがマリアの安全だということを見抜き、我が身に代えてでもマリアを守り抜くことを心に決めたのだった。

「保護者、入学者の大半が騎士団に捕縛されてしまったが入学式は予定通り行うからのぅ。全員席に座ってくれ。後5分もない」

 その言葉通り残ったのはマリアとローザ、それにあの貴族の青年だけだった。
 全員が席に座るとすぐに入学式は始まった。人がいな過ぎてよくわからないが、今年の入学者は20名らしい。あの青年もそのうちの一人だ。
 実はこの学園、入学できるのは10歳からとなっているが、実際は10代後半になってから入学することが多い。
 その理由の一つに、授業の難しさが挙げられる。

 恙なく入学式は終わり、学園長直々に明日以降の連絡を受けると、マリアは女子寮に案内された。
 寂しいがローザともここで暫くお別れだ。
 マリアは寮についての説明を寮母さんから受けた。勿論、寮母さんは平民だ。マリアの寮母さんの印象は優しい人だというものだった。

(仲良くなれそう)

 寮の食堂で出された昼食はアリアが今までで食べたことがないくらい豪勢なものだった。マリアはこれからの食事が楽しみになった。
 本来は昼食は校舎にある食堂で食べるのだそうだが、今日は上級生を含め、主だった者が皆捕まってしまったため寮の食堂での昼食になったらしい。

 午後からは学園の施設の案内をされた。本当は自己紹介や先生の紹介の予定だったそうだが、先生たちも他の貴族とともに捕縛されてしまい、明日以降に延期になったそうだ。道理で所連絡を学園長がするわけだ。

 夕食も昼食と同じように豪勢なものだったが、一人で食べるのはマリアのは辛かった。

 夜、マリアは今日起こったことと明日以降の生活の不安、今日から一人だという事実に中々眠れなかった。それでも疲れていたこともあり、いつの間にか眠りに落ちてしまった。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...