こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第五章 エイセルの街

マリア&グレンの場合(6)

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 マリアに怯える男に、グレンが動いた。

「とう!」

 首に刃が突きつけられているにも関わらず、男の腕を掴むと投げ飛ばした。
 縛っていたロープは力任せに引き千切られていた。
 投げられた男は背から地面に落ちて、気を失っていた。

「それじゃあこいつらを縛って……」
「残りの奴らも倒して……」
「全員纏めて警備兵のところに連れて行けば終了だね」

 2人は何かをやり遂げたような爽やかな笑顔を浮かべ、どこか楽しそうだった。傍から見れば、どっちが悪者かよくわからない。何も知らずにこの状況だけを見れば、マリアたちの方が悪く見えるだろう。

「……あなたたち一体何者よ」

 どこからともなく取り出した紐で男たちを縛り始めると、ことの成り行きを見ていた先ほどの少女が口を開いた。

「う~ん、領主の友達の新米冒険者?」
「じゃないか?」
「普通冒険者でもこんな簡単には倒せないと思う」
「そんなこと言われても、私、冒険者になってまだ2か月ぐらいだしね」
「僕なんか半月も経っていないしな」

 2人とも困ったように笑った。

「それに領主の友達って、アルデヒド様に会ったことがあるの?」
「アルデヒド?」

 聞き慣れない名に、グレンは首を傾げた。

「アルのことだよ」
「ああ」

 マリアに言われ、グレンはすぐに納得した。

「アル?まさか愛称で呼んでいるの?」

 少女は信じられないといった顔をした。

「そんなこと言われても、アルって呼んでくれって言ったのは本人だしね。……グレン、残りの奴らを片付けてくるから、後よろしく」
「わかった」

 マリアは縛り終わると、足取り軽く部屋から出ていった。

「あまり深く考えない方が良いぞ?」

 グレンのその言葉が少女に届いたかは定かではない。

 それからマリアが全員を制圧して戻ってくるまで、5分もかからなかった。
 その後、マリアが連れてきた警備兵たちによって、人身売買をしていた者たちは軒並み捕縛された。これにより、この街最大の人身売買組織は潰れた。
 捕まっていた子どもたちも全員解放され、すでに奴隷商人の手によって売られてしまった者たちの行方も明らかになり、1週間も経たない内にこの事件は世間から忘れされられることとなる。
 僅かに残った下っ端たちも、上の者たちが皆捕まってしまったため、これまでのように続けていくことができなくなり、街から姿を消した。
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