こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第五章 エイセルの街

リオナ(3)

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 部屋を出ると、ドアのすぐ目の前にさっきの兵士さんがいた。

「きゃっ!」
「うおっ!」

 ぶつかりそうになって、私は悲鳴を上げてしまった。

「嬢ちゃん、大丈夫か?」
「だいじょうぶ」
「それは大丈夫っていう顔じゃないぞ?」
「だいじょうぶだもん!」

 口では大丈夫って言ったけど、言われて初めて自分が泣いていることに気がついた。視界が歪み、前が見辛くなってきた。

「ちょっとレイル!何子どもを泣かしてるのよ!」
「俺は泣かせてなんかいねぇよ!」
「何言ってるの!?その子は泣いてるじゃない!」
「これは俺のせいじゃない!」

 通りがかった兵士の格好をしたお姉さんが兵士さんに怒鳴った。私を指していることから私が原因だってことはわかるけど、お姉さんはちょっと怖くって、何も言うことができなかった。

「大丈夫?この馬鹿がごめんね」
「ち、ちがう」

 優しく声をかけてくれたお姉さんに、誤解だって、それだけは伝えなきゃって、必死に声を絞り出した。

「何が違うのかな?」
「兵士さんが泣かしたんじゃないの」
「兵士さん?……ああ、レイルのこと?」

 兵士さんを手で指されて、私はゆっくり頷いた。

「うん。兵士さんはとてもやさしくしてくれたの。何を言ってるのかわからないような私の言ってることをこんきづよく聞いてくれたの」

 ひとつ言葉が出てくれば、後から後から自然と言葉は出てきた。

「わかったわ。……それじゃあなんで泣いていたの?」
「それは……それはお母さんが……お母さんが……」

 それ以上先は言葉にならなかった。止まってきていた涙も再び溢れ出した。

「お母さんだったのか?」
「うん。……でも『あなた誰?』って言われた。知らない人を見るみたいな、変な目で私を見てた」

 自分で言っていても、支離滅裂だと思う。

「……この子もしかしてあの人の?」
「ああ、娘さんらしいな」

 お姉さんはしゃがんで私に目線を合わせた。

「……ねぇ、あなたお父さんは?」
「……いない。私が生まれる前に死んだって前に言ってた」
「お兄さんとかお姉さんは?」
「いない」
「……そう」
「……どうしてそんなこと訊くの?」

 お姉さんは視線を彷徨わせた。

「あなたのお母さんはね、心の病気なの。しばらくの間治療をしなければいけないの」
「そうすれば元のお母さんに戻るの?」
「……確実とは言えないわ」
「そんな……なんで?なんでお母さんは……」

 正直に教えてくれたことは嬉しい。でもそんな残酷なことを言われるぐらいなら嘘を吐かれた方がマシだった。

「……世の中にはね、良い人だけじゃなく悪い人もいるの。お母さんは悪い人たちに心を傷つけられてしまったの」
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