こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第七章 それぞれの過ごす日々

グランファルト子爵家の改革

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 ところは変わり、グランファルト子爵家王都邸。その執務室では中年の男が苛立ち、使用人に当たっていた。
 金色の男にしては長い髪は背中で纏められ、豪奢な飾り紐で止められていた。ヒエロニム・グランファルト。グランファルト子爵家の当主であり、アーティスの父親だった。

「まだ見つからんのか!?早くしろもう時間がないんだぞ!」

 グランファルト子爵家自体は王の覚えが特段めでたいということはない。何かが優れているわけでもなく、大した力もない。王国転覆を図るどころか大した害にもなりえない家。それが国王のグランファルト子爵家に対する評価だった。
 当主自身は野心に溢れている典型的な貴族と言えた。だが、自分の力がどれだけ小さなものか、碌に理解もできない愚かな男だった。

「も、申し訳ございません!」
「謝ることしかできんのか!?元はといえばお前が逃がした性だというのに。それも2度もな。……もう良い。お前は解雇だ!ただちにこの屋敷から出ていけ!」

 感情のままに部屋から追い出すと、忌々し気に顔を歪め、今度は机の上に置かれていた灰皿を床に叩き付けた。金属製のそれは表面に細かな傷がついただけだった。ヒエロニムはそれが我慢できず、思いっきり踏みつけた。それでも傷が増えるだけで割れるようなことはない。ヒエロニムは再度踏みつけようとしたが──。

コンコン

 唐突にドアがノックされた。

「誰だ!?」

 ヒエロニムにとってこのタイミングの訪問者は八つ当たりの対象でしかなかった。

「……僕です。ギルゲルムです。入ってもよろしいでしょうか?」

 訪れたのは長男のギルゲルム・グランファルトだった。

「……ギルか。何の用だ?」

 ヒエロニムはギルゲルムを息子4人の中でも殊の外かわいがっていた。そのためか多少態度が軟化した。

「領地のことで報告が……」

 現在領地のことは全てギルゲルムに一任しており、自身は月1回の報告を聞くだけだった。
 今日は定期報告の日ではない。何があったと、ヒエロニムは顔を青ざめさせ、素早く足元の灰皿を机の上に戻した。

「わかった。入れ」

 ギルゲルムは部屋に入り、一礼するとすぐに本題に入った。

「……領地のことというのは領民からの嘆願でして……「この忙しいのにそのようなことに時間を取らせる気か!?そのようなことは後にしろ!」……忙しい?」

 ギルゲルムは首を傾げた。何をするでもなく執務室にいるだけ。とても忙しいようには見えない。

「そうだ。今日はアーティスの見合いだ」
「……アーティスの?それで肝心の本人はどこに?」

 ギルゲルムはまたかと内心舌打ちした。

「……あいつなら今朝呼びに行かせたら逃げた。今探させているところだ」
「……そうですか」

 ギルゲルムはヒエロニムとは逆に聡明だった。だからこそ自分の父親がどれほど愚かなことをしているのか理解できた。

(アーティスはついに逃げたか。……父上のことだから大方また行き遅れた娘をもらってくれれば優先的に交易するとか甘いことを言われたんだろ?口約束だけでな。世の中そんなに甘くはないってのに)

 グランファルト子爵家の4人兄弟は自身の父親を反面教師にして生きてきた。お互いの足りないところを補い合い、助け合い、父親以上に領地について把握していた。

(……これで10度目。父上にはいい加減うんざりだ)

 以前4人は話し合って決めていた。父親が10度同じ過ちを繰り返したら強制的に代替わりしてもらうと。随分と甘い決め事だったが、ヒエロニムはそれすらも破った。

 ギルゲルムは目に失望を浮かべたが、ヒエロニムが気づくことはなかった。

 ギルゲルムは部屋を出ると、弟たちに計画の決行を知らせるべく歩き出した。
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