281 / 464
第七章 それぞれの過ごす日々
一方その頃……
しおりを挟む
一方その頃、ギルゲルムは王城の片隅にある部屋にいた。
城の中の部屋にしてはこじんまりとしており、置かれている調度品はどれも装飾が少なく、落ち着いた空間になっている。テーブルの上には中身の入ったティーカップが置かれているが、ほとんど減っておらず、すでに冷めてしまっていた。
「待たせたな」
丁度今ギルゲルムの前に座ったのはこの国の王だった。後ろには近衛騎士が1人控えている。
「いえ、時間をとってくださりありがとうございます」
「気にするな。他ならぬお前の頼みだからな」
「えっ?」
ギルゲルムは目を瞬いた。
「……正確にはお前があやつの兄だからだがな」
国王は少し悪戯っぽく笑っていた。
「……あやつとはガルティスのことでしょうか?」
「いや」
「それではアーノルド?」
「いや。アーティスという者だ。直接話したことはないが、間接的には色々と話を聞いている」
「……そうですか」
表面上は何も変わらないが、ギルゲルムは内心で悲鳴を上げていた。
(国王様に名前を覚えられてるって、アーティス!お前何をやったんだよ!?)
ギルゲルムにとってせめてもの救いは、色々という内容が悪いものではなさそうなことだけだった。だがそれも、動揺を表に出さない程度の助けにしかならなかった。
「……それでわざわざ私を呼び出して、どのような用件だ?」
その言葉でギルゲルムはアーティス関連のことを頭から追い出した。それと同時に気を落ち着けるため軽く深呼吸した後口を開いた。
「……我が父、ヒエロニム・グランファルトの子爵位剥奪を請いに」
「……ほぅ。それはなぜだ?正当な理由が必要だぞ」
ギルゲルムはチラリと近衛騎士を伺い見た。
「……我が家の恥を晒すことになるのですが」
国王は鷹揚に頷いた。
「この者が気になるのならば心配はない。口は固いからな。そうであろう?ジェローム」
「はい、勿論です」
その名を聞いてギルゲルムは目を見開いた。
「……ジェローム・クールセル将軍」
ジェロームはそれはそれは楽しそうに笑った。
「正解です」
「……聞いていたイメージと違っていて驚きました」
「……将軍として前に出るときは、将軍らしく見えるよう振る舞っていますから。こちらが本来の私です」
ジェロームはそう説明した。
「……それでジェロームが同席することは構わぬか?」
「はい」
ギルゲルムは短く返答すると、アイテムボックスからいくつかの書類を取り出した。
「まずはこれをご覧ください」
「……これは?」
「グランファルト子爵領の現在の状況を纏めたものです」
そこには領民の人口から始まり、各世帯の平均収入、職業別人口、冒険者のおおよその数とそのランク、農作物の収穫量等々、基本的なものからどうやって調べたんだというようなものまで、グランファルト子爵領の情報が事細かに並んでいた。
城の中の部屋にしてはこじんまりとしており、置かれている調度品はどれも装飾が少なく、落ち着いた空間になっている。テーブルの上には中身の入ったティーカップが置かれているが、ほとんど減っておらず、すでに冷めてしまっていた。
「待たせたな」
丁度今ギルゲルムの前に座ったのはこの国の王だった。後ろには近衛騎士が1人控えている。
「いえ、時間をとってくださりありがとうございます」
「気にするな。他ならぬお前の頼みだからな」
「えっ?」
ギルゲルムは目を瞬いた。
「……正確にはお前があやつの兄だからだがな」
国王は少し悪戯っぽく笑っていた。
「……あやつとはガルティスのことでしょうか?」
「いや」
「それではアーノルド?」
「いや。アーティスという者だ。直接話したことはないが、間接的には色々と話を聞いている」
「……そうですか」
表面上は何も変わらないが、ギルゲルムは内心で悲鳴を上げていた。
(国王様に名前を覚えられてるって、アーティス!お前何をやったんだよ!?)
ギルゲルムにとってせめてもの救いは、色々という内容が悪いものではなさそうなことだけだった。だがそれも、動揺を表に出さない程度の助けにしかならなかった。
「……それでわざわざ私を呼び出して、どのような用件だ?」
その言葉でギルゲルムはアーティス関連のことを頭から追い出した。それと同時に気を落ち着けるため軽く深呼吸した後口を開いた。
「……我が父、ヒエロニム・グランファルトの子爵位剥奪を請いに」
「……ほぅ。それはなぜだ?正当な理由が必要だぞ」
ギルゲルムはチラリと近衛騎士を伺い見た。
「……我が家の恥を晒すことになるのですが」
国王は鷹揚に頷いた。
「この者が気になるのならば心配はない。口は固いからな。そうであろう?ジェローム」
「はい、勿論です」
その名を聞いてギルゲルムは目を見開いた。
「……ジェローム・クールセル将軍」
ジェロームはそれはそれは楽しそうに笑った。
「正解です」
「……聞いていたイメージと違っていて驚きました」
「……将軍として前に出るときは、将軍らしく見えるよう振る舞っていますから。こちらが本来の私です」
ジェロームはそう説明した。
「……それでジェロームが同席することは構わぬか?」
「はい」
ギルゲルムは短く返答すると、アイテムボックスからいくつかの書類を取り出した。
「まずはこれをご覧ください」
「……これは?」
「グランファルト子爵領の現在の状況を纏めたものです」
そこには領民の人口から始まり、各世帯の平均収入、職業別人口、冒険者のおおよその数とそのランク、農作物の収穫量等々、基本的なものからどうやって調べたんだというようなものまで、グランファルト子爵領の情報が事細かに並んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる