こうして少女は最強となった

松本鈴歌

文字の大きさ
288 / 464
第七章 それぞれの過ごす日々

世知辛い世の中

しおりを挟む
前話の修正をしました。一部表現の変更、文の追加をしましたが、全体の流れは変わっていません。

☆★☆★☆

 一方グレンは寮に入るとすぐにアーティスと別れ、従者用の食堂にに来た。こちらは生徒たち用のものと比べると大分こじんまりしており、余計な装飾などなく質素を通り越して無機質だった。少し夕食には遅い時間のためか、10人も人がいない。
 入ってすぐにここ数日で見知った顔に声をかけられた。

「……どうしました?疲れた顔をしていますよ」

 仮にも貴族に仕える者だけあって皆言葉遣いが丁寧だ。

「……はい。少し色々あって」

 グレンの言葉遣いも丁寧な言葉遣いをする者しかいないと自然と多少は丁寧になっていた。

「……そうですか。無理をしてはいけませんよ?健康あっての何とやらと言いますからね」
「はい。ありがとうございます、レーニスさん」

 グレンがお礼を言うと男──レーニスは淡く微笑んだ。

「いえいえ、お気になさらずに。それよりもご夕食はお召し上がりにならないのですか?」
「あっ、すいません。取ってきます」

 グレンは慌てて夕食を取りに行った。
 ここのメニューは学生たちが食べているものと変わらない。だが作っている者は違う。向こうが料理人たちが作っているならこちらはその下働きの者たちが作っているものだ。

「はい。熱いですから気をつけてね」
「ありがとう」

 夕食──プジ(ピザ)を受け取ると、レーニスが座っていたテーブルに戻った。

「……それで何があったんです?」

 家の機密なら無理には訊きませんけどと言って笑みを浮かべてはいるが、目は笑っておらず、言ってもらいますよと言っていた。

「……あの主人にしてこの従者あり、か」

 思わず思ったことが口から出てしまった。

「何か言いましたか?」

 笑顔で凄まれてグレンは頬が引きつるのを感じた。

「……アル様の悪口なら……わかっていますよね?」
「は、はい」

(あいつの悪口なんて言わねぇよ!跡が怖いじゃねぇか!)

 そんなことを考えながら冷える前に目の前のプジに噛り付いた。

「あっ、美味しい」
「それはそうですよ。ここのプジはプジの専門店を開いている方の娘さんが作っていますから」
「えっ?じゃああっちはもっと美味しいのか?」

 信じられないとグレンは目を見開いた。

「『美味しいのですか?』ですよ。……そうですね、それが世の中そう上手くは行かないと言いますか」

 レーニスはグレンの言葉を正しながらせつめいした。

「材料的にはこちらはあちらの余りものですが、あちらはあくまでも料理人。専門で作っている者にはどうしても勝てないのですよ」

 その言葉でグレンは察した。

「もしかしてこっちの方が美味しい?」

 そうポツリと呟いた。
 レーニスはその呟きに満足気に頷いた。

「正解です。……アル様たちには内緒ですよ。私たちにはこれが楽しみみたいなものなんですから」

 ふとグレンが周りを見ると、皆グレンに手を合わせて祈っていった。普段どれだけ楽しいがないんだと突っ込みたくなるような必死の形相の者もいる。

「……わかりました」

 流石にグレンもこの状況でアーティスたちに教えるような真似などできるわけがなかった。

(世の中世知辛いな)

 どこか年寄り染みたことを思ってしまうのだった。

「……それで先ほどの話の続きなのですが……」

 いつの間にか周囲の音が消えていることにようやくグレンは気づいた。
 レーニスを見ると、これなら大丈夫ですよね?と言うように微笑んでいた。

(なんで従者が《防音障壁》が使えるんだよ!?逃げられねぇじゃねか!)

 グレンの心の叫びが響き渡った。
 アルフォードもといアルデヒドの従者が普通なわけがなかった。普段があれでも王族なのだから。
 グレンにはレーニスの微笑みがひどく不気味なものに見えた。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...