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第七章 それぞれの過ごす日々

ヒエロニムの行く末(確定)

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 その少し後、2人の姿はグランファルト子爵家の前にあった。

「お待ちしておりました」

 恭しく頭を下げ、2人を迎え入れたのは髪を整え、服装を改めたレーリルだった。かっちり着こなされた執事服には1つの皺もなく隙がなかった。

「皆様はすでに食堂に揃っておられます」
「ありがとう」

 簡単に礼を言うとグレンを伴なって食堂に向かった。

 食堂に集まっている理由。それは単純に屋敷内で1番大きな部屋だからだ。他に使用人を含めて10数名が集まれる部屋などなかったのだ。否、ただ集合するだけという意味では全員が入れる部屋は存在する。だが全員が座って、それもメモを取る必要があることを考えるときつかった。

 レーリルは早足で、だがどこか優雅さを感じさせる歩きで2人の後を追った。

「それではこれより第二回グランファルト子爵家改革会議を始める。皆遠慮せず発言するように」

 アーティス、グレン、そしてレーリルが席に着くとギルゲルムはそう宣言した。

「……今日の最初の議題はあの馬鹿、ヒエロニムをどうするかだ。私はあいつは馬車馬のように働かせるのが良いと思う」

 その言葉に周りは騒めいた。少なくとも実の父親に言うことではない。

「あの、馬車馬のようにとおっしゃられますと、具体的にはどのような?」

 恐る恐るそう質問したのはこの中では比較的若い青年だった。

「……そうだな。そもそもの前提条件としておそらくあいつは政治犯扱いになるだろう。そうなると犯罪奴隷に落とされる。つまり隷属契約で縛られるだけだ。そこを利用しようと思う」
「と言いますと?」

 ギルゲルムはそこでニヤリと笑った。

「領地の開発にあいつの魔術を利用しようと思う。あいつの属性は風と木、開発には最適だからな」
「……毎日限界まで魔術を使わせると?」
「ああ」

 そんな話を聞きながらグレンは思う。

(……僕、ここにいて良いのか?はっきり言って関係ない気がするぞ)

 グレンは帰りたかった。

「……それでは他に意見がある者はいるか?」

 そんなグレンの思いは露知らず、会議は進んでいく。

「……私は先ほどの領地の開発に加え、魔力が尽きた後に肉体労働をさせるのが良いと愚考いたしますが」

 レーリルの案はさらに酷かった。仮にも元は雇い主だったというのに……。

「おお、それは良いな。あいつの魔力量は平均とそう変わらないからな。他にあるか?」

 そしてすぐにその案を採用する他の者たちも。

「ないようなのでこれで採決に入る。あいつを馬車馬のように働かせる。具体的には魔力が尽きるまでは魔術で、尽きた後は肉体労働で領地の開発をしてもらう。反対の者はいるか?」

 誰も手を挙げなかった。

「いないようなのでこれで決定する。続いて次の議題は──」

 会議は続いていく。ヒエロニムの処分などここにいる者たちにとっては数ある議題の中の1つ。それも比較的簡単に決まる部類のものでしかなかった。

☆★☆★☆

次回から新編です。
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