こうして少女は最強となった

松本鈴歌

文字の大きさ
290 / 464
第七章 それぞれの過ごす日々

ヒエロニムの行く末(確定)

しおりを挟む
 その少し後、2人の姿はグランファルト子爵家の前にあった。

「お待ちしておりました」

 恭しく頭を下げ、2人を迎え入れたのは髪を整え、服装を改めたレーリルだった。かっちり着こなされた執事服には1つの皺もなく隙がなかった。

「皆様はすでに食堂に揃っておられます」
「ありがとう」

 簡単に礼を言うとグレンを伴なって食堂に向かった。

 食堂に集まっている理由。それは単純に屋敷内で1番大きな部屋だからだ。他に使用人を含めて10数名が集まれる部屋などなかったのだ。否、ただ集合するだけという意味では全員が入れる部屋は存在する。だが全員が座って、それもメモを取る必要があることを考えるときつかった。

 レーリルは早足で、だがどこか優雅さを感じさせる歩きで2人の後を追った。

「それではこれより第二回グランファルト子爵家改革会議を始める。皆遠慮せず発言するように」

 アーティス、グレン、そしてレーリルが席に着くとギルゲルムはそう宣言した。

「……今日の最初の議題はあの馬鹿、ヒエロニムをどうするかだ。私はあいつは馬車馬のように働かせるのが良いと思う」

 その言葉に周りは騒めいた。少なくとも実の父親に言うことではない。

「あの、馬車馬のようにとおっしゃられますと、具体的にはどのような?」

 恐る恐るそう質問したのはこの中では比較的若い青年だった。

「……そうだな。そもそもの前提条件としておそらくあいつは政治犯扱いになるだろう。そうなると犯罪奴隷に落とされる。つまり隷属契約で縛られるだけだ。そこを利用しようと思う」
「と言いますと?」

 ギルゲルムはそこでニヤリと笑った。

「領地の開発にあいつの魔術を利用しようと思う。あいつの属性は風と木、開発には最適だからな」
「……毎日限界まで魔術を使わせると?」
「ああ」

 そんな話を聞きながらグレンは思う。

(……僕、ここにいて良いのか?はっきり言って関係ない気がするぞ)

 グレンは帰りたかった。

「……それでは他に意見がある者はいるか?」

 そんなグレンの思いは露知らず、会議は進んでいく。

「……私は先ほどの領地の開発に加え、魔力が尽きた後に肉体労働をさせるのが良いと愚考いたしますが」

 レーリルの案はさらに酷かった。仮にも元は雇い主だったというのに……。

「おお、それは良いな。あいつの魔力量は平均とそう変わらないからな。他にあるか?」

 そしてすぐにその案を採用する他の者たちも。

「ないようなのでこれで採決に入る。あいつを馬車馬のように働かせる。具体的には魔力が尽きるまでは魔術で、尽きた後は肉体労働で領地の開発をしてもらう。反対の者はいるか?」

 誰も手を挙げなかった。

「いないようなのでこれで決定する。続いて次の議題は──」

 会議は続いていく。ヒエロニムの処分などここにいる者たちにとっては数ある議題の中の1つ。それも比較的簡単に決まる部類のものでしかなかった。

☆★☆★☆

次回から新編です。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...