こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第七章 それぞれの過ごす日々

触れてはいけない話題

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「……これはどういった状況なのかしら?」

 水浸しの地面と泥だらけの肩で息をしているアーティスの服を見比べてカーラは小首を傾げた。

「……何でもないです。ねぇ、アーティス?」
「あ、ああ」

 エリザベートは目を細めて微笑みかけたが、アーティスは頬を引きつらせた。目が笑っていなかった。

「……そういうことにしておくわ。その服は……マリア、綺麗にできる?」
「任せてください」

 マリアはアーティスのすぐそばまで近寄ると手をかざした。

「もう面倒くさいから丸洗いしちゃうね。息止めておいて」
「えっ?丸洗いって?」

 それには口では答えず行動に移した。

「『《ウォーターボール》』」

 通常のものに比べサイズが比べ物にならない水球が生成され、アーティスの体全体を包み込み──。

「アブッ」

 アーティスは溺れた。傍から見るとわからないが、中で水が螺旋状に動いているらしく、金色の髪が踊っている。
 皆の目がどこか生温かい、かわいそうなものを見る目に変わった。
 5秒ほどで水球は形を失い水が重力に従って落ちた。マリアを含め近くにいた者が慌てて濡れないように距離をとった。

「んで、乾燥だね。『《ドライ》』」

 どこか楽しそうにマリアが唱えると乾いた温風が生み出され、髪と服をあっという間に乾かしてしまった。

「これで大丈夫ですよね?」
「ええ。時間がなくなってしまうし、行きましょうか」

 カーラはその出来栄えに満足したようで大きく頷くと先に立って歩き始めた。その後を5人も続く。

「マリア、今日はそれにしたんだな」
「えっ?うん、着ないのももったいないしね」

 アルフォードに話を振られ、マリアはそう答えてその場で一回転して見せた。

「ただね、靴が丁度良いのがなくて」

 鮮やかなブルーの半袖ワンピース、それも袖は同色のオーガンジーの生地で作られており向こう側が透けていてどこか涼し気だ。スカート部分も同じ布を幾重にも重ねて作られており、一番上のものだけ流水と花びらの模様が白い糸で刺繍されている。
 そんな可愛らしい服とは裏腹に、靴はいつもの無骨なブーツ。どこかアンバランスな印象があった。

「……急な話だったししょうがないんじゃないか?」
「そうだね。……今度靴屋さんに行こうかな?暑くなってきたからサンダルが欲しいし」

 少し遅れてしまい少し小走りになる。

「あ~、夏場はブーツだと蒸れるからな。去年までのはどうしたんだ?」
「……アル、私の歳を忘れてない?靴のサイズなんて毎年変わるんだよ?小さすぎて履けないよ」

 マリアは苦笑していた。

「ねぇ?リオ」

 そしてリオナに話を振ったが──。

「私、去年のくつが普通にはけるんだけど……」
「……あっ」

 触れてはいけないことに触れてしまっていた。

「だ、大丈夫だよ。リオだって成長はしてるでしょ?」

 マリアはフォローになっているのか微妙な慰めの言葉を口にしてしまい、リオナはさらに落ち込んだ。
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