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第九章 夏季休業
混沌
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「おじいちゃん!早く早く!」
澄み渡るような夏の青空の下、弾んだ声が響いた。驚いたように周囲の森から鳥が羽音を立てて飛びたった。
「そんなにはしゃぐとすぐにばててしまうぞ」
「……そんなことないもん」
傍から見れば奇妙な一行だった。どこか気品が溢れる老人とつばの広い帽子を被った袖なしの水色のワンピース姿の少女。護衛らしき剣を携えた青年。そこまでは珍しくはあれど組み合わせに違和感はない。
「爺さんの言う通りだ。大人しくしていろ」
「……は~い」
少女の頭を乱暴に撫でるのは強面の冒険者の男。本当にただ撫でているだけなのだが、その顔だけで時と場所によっては牢に放り込まれるかもしれない。いや、実際に街で同じ行動をして警備兵を呼ばれた実績を考えると笑えない。もっともすぐに誤解は解け、解放されたのだが……。
「返事は短くだ」
「はいはい」
「はいは1回だ」
「……はい」
周りはそんなやり取りを微笑まし気に、あるいは羨ましそうに見ていた。
「……マリアちゃん本人が楽しそうだから良いけど、絵面がヤバいな」
「ああ。というか羨ましい。俺にもその笑顔を向けて欲しい」
厳つい顔で目を潤ませている成人男性が並んで少女──マリアを見つめているさまは不気味でしかない。心なしか目があってしまった青年──アルフォードの顔がひきつっている。
「何というかカオスだな」
1人離れてその様子を見ていた男はそう呟いた。
◇◆◇
なぜこのような混沌とした状況になっているのか。それを説明するためには1週間近く前、丁度学園の夏季休業が始まる前々日に遡る必要がある。
その日国王に呼び出されたアルフォードは告げられた言葉に困惑していた。
「えっ?今何て……」
「だから夏季休業期間中、ちょっとマリアと旅行に行って来い」
「いや、だからなんで……」
呼び出されてからの第一声がそれでは理由などまったくわからない。
「んっ?ああ、言ってなかったが1週間後から1月半ほどエーデル王国のリーゼロッタ・フォン・エーデル第一王女が滞在することになっているのだが、そっちのお相手の方が「旅行の方でお願いします」……せめて最後まで言わせてくれ」
話を途中で遮られ、国王は苦笑いした。
「マリアにはもう話は通してある。どこに行くかは彼女に任せると言っておいたから、行き先がどこになろうと文句は言わないように」
「……わかりました」
「……それと侍医を、レリオン・シュタットを連れていくように。これは決定事項だ」
思わぬ名が出てきたことにアルフォードは目を瞬く。
「……彼を連れていってもよろしいので?」
「……2月ぐらい代わりが勤まらぬようでは到底役になど立たない。ふるいにかける良い機会だ。偶にはあいつも仕事を忘れてゆっくり骨休めさせてやりたいしな。他に共に行く者は好きに選んで構わない。」
「……わかりました」
アルフォードは一礼するとその場から退室した。
(……気が重い。どうせ帰ったら仕事が溜まってそうだし……)
アルフォードにとって国王とは仕事を押し付けられるだけの人間でしかなかった。
別に国王が仕事をしないわけではない。悪気や何か恨みがあるわけでもない。ただ単純に仕事を任せられる人間がいなかっただけの話なのだが……。
澄み渡るような夏の青空の下、弾んだ声が響いた。驚いたように周囲の森から鳥が羽音を立てて飛びたった。
「そんなにはしゃぐとすぐにばててしまうぞ」
「……そんなことないもん」
傍から見れば奇妙な一行だった。どこか気品が溢れる老人とつばの広い帽子を被った袖なしの水色のワンピース姿の少女。護衛らしき剣を携えた青年。そこまでは珍しくはあれど組み合わせに違和感はない。
「爺さんの言う通りだ。大人しくしていろ」
「……は~い」
少女の頭を乱暴に撫でるのは強面の冒険者の男。本当にただ撫でているだけなのだが、その顔だけで時と場所によっては牢に放り込まれるかもしれない。いや、実際に街で同じ行動をして警備兵を呼ばれた実績を考えると笑えない。もっともすぐに誤解は解け、解放されたのだが……。
「返事は短くだ」
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「ああ。というか羨ましい。俺にもその笑顔を向けて欲しい」
厳つい顔で目を潤ませている成人男性が並んで少女──マリアを見つめているさまは不気味でしかない。心なしか目があってしまった青年──アルフォードの顔がひきつっている。
「何というかカオスだな」
1人離れてその様子を見ていた男はそう呟いた。
◇◆◇
なぜこのような混沌とした状況になっているのか。それを説明するためには1週間近く前、丁度学園の夏季休業が始まる前々日に遡る必要がある。
その日国王に呼び出されたアルフォードは告げられた言葉に困惑していた。
「えっ?今何て……」
「だから夏季休業期間中、ちょっとマリアと旅行に行って来い」
「いや、だからなんで……」
呼び出されてからの第一声がそれでは理由などまったくわからない。
「んっ?ああ、言ってなかったが1週間後から1月半ほどエーデル王国のリーゼロッタ・フォン・エーデル第一王女が滞在することになっているのだが、そっちのお相手の方が「旅行の方でお願いします」……せめて最後まで言わせてくれ」
話を途中で遮られ、国王は苦笑いした。
「マリアにはもう話は通してある。どこに行くかは彼女に任せると言っておいたから、行き先がどこになろうと文句は言わないように」
「……わかりました」
「……それと侍医を、レリオン・シュタットを連れていくように。これは決定事項だ」
思わぬ名が出てきたことにアルフォードは目を瞬く。
「……彼を連れていってもよろしいので?」
「……2月ぐらい代わりが勤まらぬようでは到底役になど立たない。ふるいにかける良い機会だ。偶にはあいつも仕事を忘れてゆっくり骨休めさせてやりたいしな。他に共に行く者は好きに選んで構わない。」
「……わかりました」
アルフォードは一礼するとその場から退室した。
(……気が重い。どうせ帰ったら仕事が溜まってそうだし……)
アルフォードにとって国王とは仕事を押し付けられるだけの人間でしかなかった。
別に国王が仕事をしないわけではない。悪気や何か恨みがあるわけでもない。ただ単純に仕事を任せられる人間がいなかっただけの話なのだが……。
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