こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第九章 夏季休業

推測

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 時はほんの少しだけ戻る。

「……えっ?」

 不意にアルフォードが思わずといった様子で声を漏らした。

「アル?どうしたの?」

 後ろを歩いていたマリアが不思議そうに尋ねる。
 目の前にはただ通路と時折扉が点在しているだけで、おかしなものは何1つない。

「……全員その場にしゃがめ」

 決して声を荒げたわけでもないのにその言葉には有無を言わさぬ力があった。

「マリア、一応光の結界を頼む。効果時間は1分もあれば良い」
「う、うん。『光よ、我らに危害を及ぼさんとする者が近づくことがなきよう守りたまえ、《守護結界》』」

 全員がしゃがみ、意味もわからず言われるがままにマリアが防御の為の魔術を完成させるのと激しい揺れがその場を襲うのはほぼ同時だった。
 小さな石の欠片や埃が降ってくるが、全て光の障壁に遮られて誰かに被害が及ぶことはない。

「な、なんだ!?」

 思わず叫んでしまったダスケルを責める者はいなかった。

「……今のは魔術による揺れだな。誰かが直接地殻に働きかけたんだ」

 揺れが収まるとアルフォードが説明をした。

「大規模な魔術は発動までに時間がかかる。これほど素早くできる人間となると限られてくるぞ」

 いったい誰がとアルフォードは若干の焦燥の色をその瞳に宿らせる。

「ちかくって?」

 聞き慣れない言葉にマリアは首を傾げる。

「……平たく言えば地面のことだ。細かい説明はまた今度してやる」

 そんなことを説明している場合ではないと、アルフォードはばっさり切り捨てた。

「……とりあえず現状がわからないことにはな。外に急ぐぞ」
「わかった」
「「「ああ」」」

 今まで意図的に足音を消していたのを止め、限界まで移動速度を速める。

「……アル、予想はついてるの?」
「ある程度はな」

 一番足が遅いのはフェルトであり、それに合わせているためマリアとアルフォードには十分会話する余裕があった。

「さっきユニコーンを送還したか?」
「……あっ、そういえばやってない。自分たちで帰ったとは思うけど……でもそれがどうかしたの?」

 話の関連性が見えず、訊き返す。

「……ギルガルドが飛ばされた確率が一番高いのはどこだ?」

 マリアの疑問には答えず、さらに質問を重ねる。

「えっ?それはユニコーンさんたちのところでしょ?」
「そうだ。ユニコーンたちにしてみれば俺らが目の前で連れ去られたんだぞ。どうすると思う?」
「……頭が良い人に相談じゃないかな。たぶんこの場合は長さんかな?」

 焦り故かアルフォードの一人称が普段とは変わっているのだが、マリアはそれには気づいていなかった。

「だろうな。……さて問題だ。そこに俺たちと一緒にいたギルガルドが現れたらどうすると思う?」
「えっ?そりゃあ詳しい状況を訊くんじゃ」
「当然そうなるだろうな。そして今の状況とユニコーンたちの性格を踏まえるとおそらくだがその後に城に特攻でもしたんじゃないか」

 そう真実に限りなく近い推測を口にする。

「……否定できないのが怖い」

 推測が外れていますようにと祈りながら、人の姿が見当たらない通路を走る。
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