こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第九章 夏季休業

一方その頃2人は……

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(……何が起こってる?)

 ベルは依然として目を潤ませながら物の陰から陰へと人目を気にしながら移動していた。
 時折見かける者たちも現在の状況がわからないのか慌てふためいている。
 そんな衛兵の姿を窺っていると、ふとこのまま1人ぼっちでもう誰とも知り合いとは会えないのではないかという思いが頭をよぎる。
 だが勿論それは何の根拠もない想像でしかない。

(……そんなことはない……はず)

 必死に頭からその考えを振り払おうとするが、一度浮かんだ想像は容易には消えてくれず、ベルの心に重く圧しかかった。

「…… マリアぁ」

 決して周りには聞こえないほど小さな声でマリアの名を呼ぶ。
 すでに目からはぽろぽろと涙が流れ落ちていた。

「……アルぅ」

 1度声に出せば次から次へと知っている顔が頭に浮かんでは消えていく。
 口から零れる名の多さに、これだけ知り合いがいたのかと気づかされ、その事実に若干の勇気をもらう。

(……大丈夫。……きっと大丈夫。………たぶん大丈夫)

 だが確証は持てず、またネガティブ思考に陥りかける。

(ダメ!マリアに会った時、泣いてたら心配させちゃう)

 そう自分に言い聞かせ、顔を上げると再び歩き出した。その目にはもう涙はなかった。

◇◆◇

(……これはエルマンあたりだな)

 レリオンは急な揺れにも動じずそう当たりをつける。
 前国王の時代から侍医をしていたレリオンにとって、国王も宰相も2人が幼い頃からの付き合いで、自分の子どもたちと同じくらいよく知っていた。……少なくともマリアやアルフォードたちに比べ、大した情報を持っていないにも拘らず、正解を引き当てるぐらいには。

「な、なんだ!?」

 目の前の慌てふためいている兵士を妙に冷めた目で見る。
 長年の経験から建物が壊れることはないだろうということはわかってはいたが、一応念のため自身を守る防御魔術はすでに発動させており、レリオンには焦る要素は全くなかった。
 ただし、その魔術の効果範囲内に目の前の兵士は入っていない。散々上から目線で物申していた相手を守ってやるほどレリオンは優しくない。勿論命にかかわるような事体が起こったのならば、申し訳程度には守ってやるのだが。

「……なぜそんなに慌てている?」
「お前はなんでそんなに落ち着いているんだ!?」

 兵士には目の前の老人の落ち着きぶりが理解できなかった。

「……そりゃあ身の危険は感じないからな」

 路傍の石を見るような眼差しを向けられ、兵士は少なからず恐怖を覚える。
 『好き』の反対は『嫌い』なのではなく、『無関心』なのだと、昔誰かから聞いた言葉が兵士の脳裏を過ぎった。
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