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第九章 夏季休業
それはなんの変哲もない日々の記憶(12)
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無計画なままに鉱山に向かった2人を待っていたのはCランクの魔物の群れだった。
「うわ、マジか。狼系なんて相性最悪じゃないか」
無意識なのか言葉が乱れる。
「でも倒せないって程じゃないな」
アランは不敵に笑うと、5頭のシルバーウルフたちに向かっていった。左腕でマリアを抱いている為に、なんとも見た目が締まらないが。
「うおっ!? と」
左右からほぼ同時に2頭が飛びかかってくるが、右手から来たものを紙一重で躱し、左手から来たものは腹を足で蹴り上げる。
蹴り上げられたシルバーウルフは地面で何度かバウンドし、少し痙攣をした後に動かなくった。
「まずは1匹、か……おっと」
だがアランは蹴った後は興味を失ったようにそれから目を離すと、新たな攻撃に備えた。
同じ要領で1匹ずつ確実に倒すと、マリアをソッと下に降ろした。
「ごめんなマリア、少し怖い思いをさせてしまって」
マリアは静かに首を横に振った。
「おとうしゃんがまもってくれりゅからね、マリュアはこわくにゃいの」
言葉からは父親への信頼が溢れ出ていた。
「しょれにね、いっしょにいくってね、いっちゃのはマリュア。だかりゃおとうしゃんはね、あやまりゃなくていいのよ?」
そう言って微笑むマリアを、アランは力強く抱きしめた。
「それとね、マリュアね、おっきくなったらおとうしゃんみたいににぇ、ちゅよくにゃりたいにゃ」
「マリアは戦わなくたって良いんだよ。お前にそんなものは必要ない」
アランの言葉を認識するのと同時に、マリアの目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「マリュア、おとうしゃんみたいににゃりたいって、おもっちゃだめなにょ?」
「そ、そんなことはないぞ。だけどな、父さんはマリアが危険なところに行くよりは、安全なところにいて欲しいって思うぞ」
「うん……」
アランはマリアを抱き直すと倒したシルバーウルフをそのまま腰につけていたアイテムポーチへと仕舞った。
「なんで俺は剣の1つも入れておかなかったんだろうな」
剣があるだけで随分と楽になるのにと、アランは過去の自分の行動を悔いていた。
「……もしの話をしても仕方がない、か」
そう言って大きく溜息を吐くと、坑道の中へと入っていった。
「ちっ、想像以上に数が多いな」
姿は見えずとも、気配で相当数の魔物が潜んでいることをアランは感じ取った。
「マリア、ちょっと奥の手を使うから、父さんにしっかりしがみついてろ」
「う、うん」
アランの機嫌はだいぶ悪くなっているのか、声音からは温かみが消えていた。
「悪く思うなよ。これは俺がエレナに怒られない為だ」
アランは深く息を吸い込むと、朗々と言葉を紡ぐ。
「『我は一族の末席に連なりし者。古の契約に従いて力を現し給え。我が行く手を滅ぼす為の力をこの手に貸し与え給え』」
マリアには言葉の正確な意味など、まったくもって理解できなかったが、不穏な気配だけは感じ取っていた。
「『我らの祖、エーデルハイドの名のもとに請い願う』」
次の瞬間、2人の周囲の空気が渦巻き、目を開けていられないほどの閃光が走る。
「『終焉を』」
そう締めくくった瞬間、周囲を覆っていた重苦しい空気が、まるで幻であったかのように霧散した。
「よし、これで大丈夫だと思うが、一応確認も兼ねて魔物の素材を回収しながらミスリル鉱も取って帰るぞ」
そう言うアランは今日一番の笑顔であった。
実のところ、アラン個人の戦闘力自体は他のAランク冒険者には遠くおよばない。精々がBランクの中堅といったところだ。そんなアランがAランク冒険者になれたのは、ひとえにエーデル王家、その血に連なる者だけが与えられる力によるものであった。普通では考えられない移動速度と、殲滅速度。故にいつしか《神速》と呼ばれるようになった。
だがアランはそれを自身の力とは思っていない。だからこそ、ことさらに《神速》と呼ばれることを嫌うのである。しかし周囲の者は誰も真実を知らない。友人はおろか、妻や娘でさえも。
「うわ、マジか。狼系なんて相性最悪じゃないか」
無意識なのか言葉が乱れる。
「でも倒せないって程じゃないな」
アランは不敵に笑うと、5頭のシルバーウルフたちに向かっていった。左腕でマリアを抱いている為に、なんとも見た目が締まらないが。
「うおっ!? と」
左右からほぼ同時に2頭が飛びかかってくるが、右手から来たものを紙一重で躱し、左手から来たものは腹を足で蹴り上げる。
蹴り上げられたシルバーウルフは地面で何度かバウンドし、少し痙攣をした後に動かなくった。
「まずは1匹、か……おっと」
だがアランは蹴った後は興味を失ったようにそれから目を離すと、新たな攻撃に備えた。
同じ要領で1匹ずつ確実に倒すと、マリアをソッと下に降ろした。
「ごめんなマリア、少し怖い思いをさせてしまって」
マリアは静かに首を横に振った。
「おとうしゃんがまもってくれりゅからね、マリュアはこわくにゃいの」
言葉からは父親への信頼が溢れ出ていた。
「しょれにね、いっしょにいくってね、いっちゃのはマリュア。だかりゃおとうしゃんはね、あやまりゃなくていいのよ?」
そう言って微笑むマリアを、アランは力強く抱きしめた。
「それとね、マリュアね、おっきくなったらおとうしゃんみたいににぇ、ちゅよくにゃりたいにゃ」
「マリアは戦わなくたって良いんだよ。お前にそんなものは必要ない」
アランの言葉を認識するのと同時に、マリアの目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「マリュア、おとうしゃんみたいににゃりたいって、おもっちゃだめなにょ?」
「そ、そんなことはないぞ。だけどな、父さんはマリアが危険なところに行くよりは、安全なところにいて欲しいって思うぞ」
「うん……」
アランはマリアを抱き直すと倒したシルバーウルフをそのまま腰につけていたアイテムポーチへと仕舞った。
「なんで俺は剣の1つも入れておかなかったんだろうな」
剣があるだけで随分と楽になるのにと、アランは過去の自分の行動を悔いていた。
「……もしの話をしても仕方がない、か」
そう言って大きく溜息を吐くと、坑道の中へと入っていった。
「ちっ、想像以上に数が多いな」
姿は見えずとも、気配で相当数の魔物が潜んでいることをアランは感じ取った。
「マリア、ちょっと奥の手を使うから、父さんにしっかりしがみついてろ」
「う、うん」
アランの機嫌はだいぶ悪くなっているのか、声音からは温かみが消えていた。
「悪く思うなよ。これは俺がエレナに怒られない為だ」
アランは深く息を吸い込むと、朗々と言葉を紡ぐ。
「『我は一族の末席に連なりし者。古の契約に従いて力を現し給え。我が行く手を滅ぼす為の力をこの手に貸し与え給え』」
マリアには言葉の正確な意味など、まったくもって理解できなかったが、不穏な気配だけは感じ取っていた。
「『我らの祖、エーデルハイドの名のもとに請い願う』」
次の瞬間、2人の周囲の空気が渦巻き、目を開けていられないほどの閃光が走る。
「『終焉を』」
そう締めくくった瞬間、周囲を覆っていた重苦しい空気が、まるで幻であったかのように霧散した。
「よし、これで大丈夫だと思うが、一応確認も兼ねて魔物の素材を回収しながらミスリル鉱も取って帰るぞ」
そう言うアランは今日一番の笑顔であった。
実のところ、アラン個人の戦闘力自体は他のAランク冒険者には遠くおよばない。精々がBランクの中堅といったところだ。そんなアランがAランク冒険者になれたのは、ひとえにエーデル王家、その血に連なる者だけが与えられる力によるものであった。普通では考えられない移動速度と、殲滅速度。故にいつしか《神速》と呼ばれるようになった。
だがアランはそれを自身の力とは思っていない。だからこそ、ことさらに《神速》と呼ばれることを嫌うのである。しかし周囲の者は誰も真実を知らない。友人はおろか、妻や娘でさえも。
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