こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第九章 夏季休業

すべての始まり

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 ホランドの街に戻る途中、マリアはアランの腕の中でうつらうつらし始めた。

「眠いのか?」
「……しゅこしだけ」
「家に着いたら起こしてやるから、寝ても構わないぞ」
「う、ん……」

 マリアの意識はそこで途絶えた。

◇◆◇◆◇

「マリア、いつまで寝てるのっ!? いい加減起きなさい!」

 母親の大声でマリアの意識が浮上する。

「あなたが作らないで、誰が朝食を作るのよ」

 マリアが目を開けると、すぐ目の前に先ほどまでマリアがかけていた布団を片手に、目を怒らせているエレナが立っていた。

「えっ? おとうさんは?」
「何寝ぼけたこと言ってるの。お父さんは何週間も前から戦争に行ってるじゃない」

 そう言って呆れたように溜息を吐く。

「そうだった。ごめんなさい。いまいそいでじゅんびする」

 マリアはベッドから飛び降りると、手早くエプロンを身に着けた。
 アランから料理を仕込まれ始め、早1年と余月。簡単なものならば1人でも作れるようになっていた。

「ねぇ、マリア」
「なぁに?」

 手慣れた様子で野菜を細かく刻みながら、背後からの呼びかけに答える。

「お母さん、最近同じようなメニューで飽きてきたの。お父さんみたいにとは言わないけど、もう少しなんとかならないの?」

 アランが家を離れてから、エレナが突発的にこのような我儘を言うことも増えていた。

「わかった。あとでベラおばさんになにかおしえてもらってくる」

 静寂が流れる朝食を終え、片付けまで済ませるとマリアは隣の家のドアを叩いた。

「マリアちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい?」

 ふくよかな中年の女性がエプロンで手を拭きながら出てきた。マリアの姿に目を輝かせる。

「おかあさんがにたようなメニューばっかりでね、あきたっていうの。ベラおばさん、なにかあたらしいおりょうりをおしえてほしいの。たいかは……おせんたくのおてつだいでどう?」
「そりゃあ構わないが、マリアちゃんも大変だね」
「ううん、おとうさんとのやくそくだもん。おかあさんのいうことをよくきくって。だからね、ぜんぜんたいへんじゃないよ」
「そうかい。でも辛くなったらいつでもうちに来て良いんだからね」
「うん。ありがとう、ベラおばさん」

 いつまでも外にいたら寒いだろうと、ベラは家の中に入るように促した。

「最近は何を作っているんだい?」
「さむいからにこみりょうりをつくってる」
「そうかい。じゃあ今日はニンでも教えてやろうかね。あれは火加減さえきちんとできれば簡単だ。それに応用がきくからね」
「うん」
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