蒼薔薇の姫君

葉月葵

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第一章

カタリナは毒を吐いている

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貴族たちの反発の声は日に日に大きくなっていった。女性であるクラリスを王位に就けるべきではない、と。


「……たまたまここ数代男子相続が続いていただけの話よ」

姉・カタリナの言葉にクラリスも頷いた。母譲りの琥珀色の瞳は険しげに細められ、忌々しいと言わんばかりの語気だ。

「百歩譲って、クラリスに王家の血を引く男を娶せたとしても、ギルベルトだけは論外。絶対にダメよ、あんな愚鈍で女たらしの男」

言いながら果実酒を呷るカタリナ。酒でも飲まなければやってられないのだろう。

「クラリスが『蒼薔薇そうそうびの瞳』を持っているんだから、夫になる男が『蒼薔薇の瞳』を持っている必要はないのよ。王家の血を重視するならフォルスターだっていいじゃない」

カタリナが挙げたのはギルベルトの弟の名前だ。彼の瞳は母譲りの赤で、『蒼薔薇の瞳』ではない。だが、ギルベルトと同じ親から生まれたとは思えないほど聡明で、カタリナにもクラリスにも優しく紳士的だった。ギルベルトとの弟妹たち――弟フォルスター、上の妹リリス(『蒼薔薇の瞳』持ちだが氷魔法は使えない)、下の妹セレーネは皆、従姉妹であり王族であるカタリナとクラリスに優しいのだ。父親を早くに亡くし、母親はギルベルトにばかり愛情を注いでおり他の子たちに無関心だったという影響もあるのだろう。

「でもお姉様、私とギルベルトが結婚すれば生まれる子は確実に『蒼薔薇の瞳』を持って生まれてくるんだもの。確実に王位継承者をもうける、という点では理にかなってはいるのよね……」
「それは表向きの理由でしょう? 実際のところは権力を得たいからじゃない」

クラリスの言葉に、カタリナは眉間に皺を寄せながらそう言い放った。
貴族たちが、クラリスにギルベルトをあてがおうとしている理由。確かに確実に王位継承者をもうけるためだという理由もあるのだろうが、最も大きな理由は自分たちが政を牛耳れる可能性が高まるからである。ギルベルトは能力も性格もすべてが国王としては不適合極まりない男。そんな男にこの国のかじ取りを担わせては確実にこの国は崩壊する。国を守るため、と銘打って自分たちが政の舵取りを担おうという魂胆なのだ。

「本当にこの国の行く末を想って行動している人間がどれくらいいるのかしらね」

カタリナが渋い表情で毒づいた。

「お父様もお母様もあなたとギルベルトの結婚だけは避けようとしてくれているけれど……お父様は臥せりがちだし、お母様はやっぱり王妃だからと侮られているし。どうすればいいのよまったく」
「カ、カタリナ様……さすがにそろそろお酒はおやめになられませ」

もう何杯目か分からない果実酒を呷ろうとするカタリナを侍女がさっと止めた。いいじゃない、飲まなきゃやってられないわよ、とイライラした様子で果実酒をさらに呷るカタリナは確実に泥酔している。

「私だって止めたいけど、結局私は『蒼薔薇の瞳』を持っていないから……王族と言えど、あんた以上に侮られているのよ」

言いながらカタリナはガラスの杯を持つ手に力を込めた。ピシリ、と音がして杯にわずかにヒビが入ったように見える。

「ほんっとうに、お兄様が生きてさえいてくれれば……」

それを最後に、カタリナはくてんとテーブルに伏せた。侍女たちが「カタリナ様!?」と大慌てで駆け寄るが、カタリナからは寝息が聞こえてきた。要するに泥酔して寝落ち――王女としてあるまじき醜態ではある。

「……悪いけど、お姉様を寝かせてあげて。私は部屋に戻るわ」
「はい、クラリス様」

カタリナの侍女たちにあとは任せてクラリスは立ち上がった。そのまま足早に自室へと戻る。就寝前の支度を手伝おうと侍女たちがさっと近づいてくるが、クラリスは手でさっと制した。

「もう寝るわ。支度は自分でできるからあなたたちは下がりなさい」
「で、ですが……」
「お願い」
「……承知いたしました」

侍女たちが心配そうな表情を浮かべつつ頷き、「おやすみなさいませ」と一礼して立ち去る。足音が完全に遠ざかったのを確認して、クラリスはベッドに飛び込んで枕に顔を埋めた。

「……お兄様……」

姉の言葉が脳裏をよぎる。本当にその通りだ。兄さえ、アルベルトさえ生きていてくれたら。

「どうしていなくなってしまったの……お兄様ッ……」

兄が死んでから、クラリスは初めて泣いた。
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