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453 女たちの考察会
しおりを挟む兎梅デパート屋上のオープンカフェに集った五人の乙女たち。
ガールズトークに花が咲く中で、タヌキ娘の芽衣が言った。
「まぁ、玲花ちゃんが心配する気持ちもわからなくはないんだけど、たぶん大丈夫だと思うよ。なんていうか……四伯おじさんの場合、女運はそこそこあるけど、それをはるかに上回る女難の相が出ているっぽいんだもの。もはや祟りレベル。あと四伯おじさんってば妙なところで一線を引いているというか、距離をとるみたいなところもあるから」
酔っぱらっては「彼女がほしい!」「誰かおれを養ってくれ!」「愛が足りない!」「もっと労わってくれ!」「おっぱいが大きくてお金持ちで甘々な未亡人なら、なおよし!」などとふざけたことを口走る尾白四伯だが、そのわりには積極的に相手を探そうとはしない。またなりゆきでちょっといい雰囲気になっても、あっさり身を引いたりもする。
欲しがるくせして、いざ届きそうなところにくると手を引っ込める。掴むのを躊躇する。
「……とまぁ、なんともひねくれたおっさんなんだけど、そこんところを踏まえて考察すべく、本日はスペシャルゲストを呼んでおります」
言いながら芽衣がパチンと指を鳴らした。
合図にて彼女たちのテラス席に近づいてきたのはネコ耳メイドロボの零号。
湖国の猫守一族の拠点である磨瑠房楼(まるぼうろう)の地下で出会ってから、なんやかやと尾白と行動を共にする機会が多かった彼女。
ロボットの目を通じて、尾白四伯という男がどのように映っているのかという、客観的な意見を求めて芽衣が呼んだ次第。
メイド服のスカート裾のはしをつまみ、略式的なカーテシー。
挨拶をすませた零号がちょこんと芽衣の隣の席に座ったところで、さっそく始まったのがロボ娘から見た「おじろよんぱく、何者?」考察談義。
◇
尾白四伯という男。
特筆すべきはやはり化け術の巧みさ。百化けの異名も伊達ではない。無機物限定とはいえ、クルマやオートバイなどのいろんな機械に化けられ、姿形のみならず性能も本物と同等というのは誇るべき能力であろう。
あまりに高性能なモノに化けると短時間で術が解けてしまうことと、変態後に自分ではほとんど動かせないという欠点はあるもの、それを補ってあまりある可能性を秘めている。
一方で人化けしている通常時の能力は、同年代の男性と比べて少々頼りない。
武才はからっきしにて、単純なケンカとなればそこいらのちょっとガタイがいい中学生相手でも危い力量。
弱さを部分化けや、経験、機転などでカバーしており、当人もまた己の弱さはちゃんと自覚している点は評価に値する。
性格はものぐさ。
下宿先の四畳半一間でウゴウゴしている腐れ大学生をそのまま大人にしたかのよう。
けれども受けた依頼に関しては真摯に取り組んでいることから、根はマジメっぽい。
ぶつくさ文句を言うわりに、なんだかんだで見捨てられないお人好しな面も多々。
そこそこヘビースモーカーにて一日一箱半から二箱はタバコを消費する。
酒は好きだがけっして強いわけではない。
ギャンブルは下手の横好き。高月中央商店街にある雀荘の常連客からは「カモ」呼ばわりされていることを知らぬは当人ばかり。
交友関係は職業柄わりと広く多岐に渡る。
天敵はカラス女の不良刑事である安倍野京香。
二人がいかにして現在のような関係に落ち着いたのかは不明ながらも、今後この上下関係が揺らぐことはないものと思われる。
同業他社のドーベルマンカマこと千祭史郎(せんやしろう)とは「駄犬」「雑種」と呼び合う仲。ケンカするほど仲がいい?
つらつら尾白に関する情報を語る零号。
いったん話を区切り、「ここから先はあくまでデータから推察されることですが」との前置きのもと言葉を続ける。
平城京跡にて洲本芽衣と弧斗羅美が戦ったとき。
激しさのあまりどちらかの死をもって決着となりかけたところに割って入り、自身を盾として最悪の事態を防ぐ。
弧斗玲花に化け術の修行を施したとき。
トラと化し暴走する彼女の前に我が身を差し出し落ち着かせ導く。
出灰桔梗が「禍つ風」として活動していたとき。
いかに母親である竜胆から頼まれたとはいえ、自発的に動いては方々に手を回し、存分に骨折りをしてどうにか着地点を見い出す。
極めつけは先の獣王武闘会でのとき。
アニマルロボ・カブトが集団自爆なる暴挙を実行。もしも実行されるままを許していたら会場を中心として多大な被害が発生していたであろうが、これを超大な壁となって囲むことにより一身に引き受け阻止する。
ともすれば自分本位の言動がぽろり。ふだんは我が身第一とか言っているくせに、いざともなればためらうことなく対象を「守る」という行動をとる探偵。
零号はこれを当人の人間性や優しさ、自己犠牲の精神だけでなく、その根底には尾白の過去の記憶が一部欠如しているせいではないかとの自論を展開した。
尾白四伯という男は淡路島に流れ着いたところを、先代の第二十八代目芝右衛門・洲本一成に拾われ、名を与えてもらい、化け術を伝授され、ついには高月の地にて探偵として生きる道をも与えられて現在へと至っている。
一方でその前歴についてはナゾのまま。
当人も覚えておらず、さりとて格別に気にしている様子もない。
そのことから零号はこう結論づけた。
「尾白四伯はつねづね自分で口にしているほどには自己愛が強くない。それどころか他者と自分の命を比べたときに、己の方をいっとう低く見ている節すらある。それゆえに無意識のうちに優先順位を設けては、自分がリスクを引き受ける貧乏くじを選んでいるのかもしれない」と。
思っていたよりもずっと深刻な話となり黙り込む一同。
そんな彼女たちに零号はこう話を締めくくる。
「いろいろそれっぽいことを述べましたが、ようは『尾白四伯はとてもめんどうくさい男』ということです。この手のタイプは愛を強く求めるくせに、いざ手を差しのべられたら戸惑って『自分なんかにそんな資格があるのか?』とかぐじぐじ考えて、二の足を踏みまくるヘタレです。焦ると逆効果になりますから、いまぐらいのペースで少しずつ外堀を埋めて完全に逃げ場を塞いでハメ殺しにするのが有効かと」
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