おじろよんぱく、何者?

月芝

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634 箱根の嫁獲り競争 砂丘ケンカ祭り

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 だらけきったアナコンダのごとく続く海沿いの国道134号線。これを爆走するシカの化けた車両らの集団、それを追う地元の暴走族たち。あれよあれよと増えて、気づけば百近くにも膨れあがっていたヤンキーども!

 予定ではこのまま進んで平塚中継所を経て第四区へと突入することになっていた。
 しかし高浜台の交差点を前にして、ハザードランプをチカチカさせたとおもったら、急に左折、進路変更をしたのはレース開始直後からずっとトップを走り続けていた赤い流星のタカシ。フェアがレディして「ゼーット!」な真っ赤なクルマがコースをそれる。
 しかし見事な鋭角ドリフトにてのコーナリングからして、トラブルが発生したとかではないらしい。
 すると二番手につけていた、黒の三連星・碁台三兄弟らもこれに続いたばかりか、三番手、四番手と他の連中もそれにならう。
 一丈卯之助が化けている黒鉄の幽霊までもがいっしょになって左折したもので、おれが内心で首をひねっていると、ハンドルを握る瑪瑙さんが助手席の芽衣に問う。

「あの道の先はどうなっていますか?」

 箱根の嫁獲り競争が始まって以来、はじめてナビのお仕事がまわってきたもので、芽衣はあたふた。すぐにスマホの地図アプリを起動し調べたところでは……。

「えーと、大浜公園ってところを抜けて海に出るみたい。展望台があって、それから、それから、あっ! 砂丘があるよ。平塚砂丘ってのが」

 平塚砂丘。
 すらりとのびたが海岸線が、まるで浮世絵に登場する美女の腰つきのように艶めかしい。寄せては返す白波、彼方にそびえる富士の山……。
 空と海と山が奇跡のコラボレーション。それを一望できる贅沢空間。
 雄壮なる箱根連山に沈む夕陽を並んで眺めながら、思い切って愛を告げれば、きっと想いが成就することまちがいないし!
 というぐらいにロマンックかつ美しい絶景が楽しめる素敵な場所である。

 シカどもがわざわざコースをはずれてまで平塚砂丘へと向かったのは、もちろん景色を楽しむためなんぞではない。
 ぶんぶんたかるハエ、もとい地元のヤンチャどもをここで片付けようとの魂胆から。
 さすがに国道でガチンコをしたら大事故になってしまう。死傷者続出はさすがにちょっと……。そこで浜辺へと向かったのである。ここならば少々派手に暴れたところで、砂と海が優しく受け止めてくれるだろう。

 トップを走る赤い流星のタカシからの誘い。

「フッ、せっかくのナイトパレード。せいぜい楽しもうじゃないか。ベイビー」

 無視して国道を突き進めば確かに首位にはなれるだろう。
 場合によってはそのまま優勝なんてことも。だがその勝利は空虚。賞賛はない。譲られた勝利に意味はない。そんな無粋な輩を常陸国一宮のシカたちは誰も認めない。

「ちっ、ずいぶんと味な真似をしやがる」とおれ。
「いいんじゃないの。嫌いじゃないよ、こういうの」と芽衣。
「ええ、砂地となれば、いよいよラリーカーの本領発揮ですし」と瑪瑙さん。

 というわけで、尾白チームも平塚砂丘へとGO!

  ◇

 砂浜を水飛沫をあげて疾走する。
 まるでクルマのテレビCMのようで、ちょっと楽しいかも。
 なんぞとう浮かれた気分はすぐに霧散する。
 早速、そこいらでクルマ対バイクの乱闘が勃発っ!

 急停車からの旋回。派手に尻を振っては後輪にて砂に円を描き、近寄ってくるバイクどもを蹴散らしていたのは、メルセデス・ベンツSSKっぽいのに化けている火車お七。
 姉御かっけー。

 手当たり次第に正面から集団に体当たりをしては、次々に海に叩き込んでいたのは八十年代の外車っぽいの化けているクラッシャー権藤。権藤は自分が傷つくのもおかまいなしに「がはははは」と突っ込んでいる。
 やはりヤバいおっさんだ。あまり近寄らない方がいい。

 黒の三連星の碁台三兄弟は連携による挟撃や包囲戦を展開。ときに列となっては三位一体の巨大なヘビのごとき動きで相手を翻弄し、ときに並んでは壁となり相手を追い詰める。入れ替わり立ち替わり、阿吽の呼吸にて淀みない動きはさすが。

 乱戦の中を縫うように駆けていてたのは赤い流星のタカシ。ギュンギュンと小刻みなコーナーワークにてたくみにかわす姿は、流星というよりもイナズマのよう。
 そんな赤い流星のタカシと並走して対をなすように走っていたのは、黒鉄の幽霊。
 まるで「その程度の走りで調子にのるなよ」とでもいわんばかりの挑発行為。

「フッ、おもしろい。ならばコレならどうだ?」

 挑発に乗った赤い流星のタカシが、より難易度の高い走りを披露すれば、すかさずこれを真似してみせる黒鉄の幽霊。
 東西の走り屋同士の意地が激突し、そんな場面にちょっかいをだした不運な連中が次々と平塚の海に千切っては投げ、千切っては投げ。あるいは砂浜にてバイクが死屍累々。
 他の参加者らも派手に暴れている。

 ではそのころ尾白チームはどうしていたのかというと……。
 近くの自動販売機で買ったホットコーヒーをすすりながら、「はぁ、タバコがうまい。生き返る」一服しているおれこと尾白探偵。化け術を解いての休憩中にて、高見の見物である。
 瑪瑙さんもおしるこ缶をちびりびちり。
 でもって芽衣はひとり元気に砂浜を走りまわっては、手当たり次第にヤンキーどもをボコってはトドメをさしていた。

「奈良のレースもたいがいだったが、こっちはこっちでひどいな。いろいろと突っ込みどころがありすぎる」

 おれが心底あきれていると、瑪瑙さんは言った。

「お恥ずかしいかぎりです。しかし往路でこれですから、復路は覚悟しておいてください」と。


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