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774 対超獣戦
しおりを挟むにょろにょろと動くヘビ。
捕獲するときには頭を押さえるのがセオリー。
ここさえガッチリ掴まえれば、たとえ牙に毒があろうとて怖くない。
もっともそれは、相手がふつうのサイズであればのお話だが……。
全長二十メートル越えの特大蛇・財部さん。「えいや」と尾を振る。
胴回りがドラム缶ほどもあるから、受ける側からすると壁が迫ってくるようなもの。
「こなくそっ!」
無謀にも受け止めようとした伊佗佳、ぺちんとはじかれた。
「ちくしょう!」
高飛びの要領で背面ジャンプ、迫る蛇体を華麗に越えようとしたのはタエちゃん。タイミングはばっちりで、楽々越えられるかとおもわれたが、瞬間、蛇体が波打ち高さが変化。やはりぺちんとはじかれた。
「はらわたをぶちまけろ!」
殺る気まんまんで拳を放ったのは芽衣。壁は超えるものじゃない、粉砕するものとばかりに「狸是螺舞流武闘術、突の型、城門破り」
同型の技・錠前破りの上位版。
静のタメから、動の突きへ。技名は頑強な城の大門すらをも粉砕する破壊力に由来する。なお芽衣の祖母で師でもある葵は、かつて銀行の大金庫の扉をこの技でぶち抜いたことがあるらしい。
つまりはそれだけ激烈な一撃だということ。
これならば、さしもの特大蛇とて無事ではすむまい。
だがしかし……。
「それは痛そうだから、ヤダ」と財部さん。
言うなり蛇体の表面がざわざわ、ピンピンピンと勃ったのは鱗たち。ひとつひとつが大きな鱗、その縁は研ぎ澄まされた刃のごとく鋭利。そんなものがびっちり生えたばかりか、ここで蛇体がぐりんとローリング。
触れるものみな細切れにするスネークミキサーが出現!
そんなシロモノに自分から突っ込んだら、たちまちぐちゃぐちゃの挽肉にされてしまう。
芽衣はあわてて拳を引っ込めると「きゃあきゃあ」逃げた。
◇
人化の術でヒトの姿となった動物たちとは数多の死闘を繰り広げてきたが、その逆、本来の姿を主体として戦う相手とは、ほとんど殺り合った経験がない芽衣。それはタエちゃんや伊佗佳も似たようなもの。
ましてやこんな怪獣と見まがうような超大型個体と邂逅したことなんて初めてのこと。
あまりにも勝手がちがいすぎる。戸惑い翻弄されるばかり。
一方で、やたらと手慣れた様子なのが財部さん。
三人娘たちのその場しのぎの思いつきなんぞは、ぺちんぱちんと余裕で叩き潰す。
「いやあ、昔、ジャングルに住んでたとき、縄張りにしていた土地に、違法伐採業者やら、反政府ゲリラに、あと密猟者とか胡散臭い連中が、ちょくちょくやってきていたから。そいつらを追い返しているうちに、自然とね」
人を狩る術に特化した特大蛇。
ハワイアンなおっさん、じつは銃火器類を手にした荒くれ人類どもを相手に孤軍奮闘してきた猛者であった。
巨躯を存分に活かした戦闘スタイルに、芽衣たちはたじたじ。
こうなればまともに立ち向かうのは諦めて、試練のクリア条件である十五分間を、ひたすら逃げに徹するべし。
そう判断した三人娘たちは、三方に散らばり、的を絞らせないようにしつつ、回避行動をとる。こうすれば財部さんはキョロキョロ、負担はぐんと増し、芽衣たちの方はぐっと軽減するという算段。
「おっ、いい判断だね。……と、褒めてあげたいところだけど、甘い甘い」
言うなりとぐろを巻き出した特大蛇。そのまま渦を巻くようにして、ぐるぐる横回転。
ぐるぐるぐるぐる。
部屋の中央にてヘビの竜巻のようなものが出現したかとおもえば、そこからひゅんと飛び出してきたのは、鱗の一枚。
財部さんの鱗は大きなうちわほどもあり、固く、薄刃のよう。
そんな危険なモノが薄闇を斬り裂く。
ひゅん、ひゅん、びゅん、びゅん!
次々と発射されては、距離を置いていた芽衣たちへと襲いかかってくる。
その鱗の鋭さ、切れ味がまた凄まじい。固い岩肌にたやすく突き立つばかりか、頑強な鉄の扉にまでサクっとね。
逃げ場のない閉鎖空間。身を隠せるところも皆無。
触れたら最後、芽衣、タエちゃん、伊佗佳らはひたすらかわし続けるしかない。
だが、それすらも財部さんの計算のうちであったことに気づいたときは、すでに手遅れ。
「なっ!」
「しまった」
「これじゃあ、もう逃げられねえ」
ばら撒かれた大量の鱗たち。それは床部分にも突き刺さっており、それこそ足の踏み場もないほど。
出現したのは、踏めばたちまちブスリとなる刃地獄。もはやどこにも逃げられない。
三人娘、絶体絶命のピンチ!
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