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800 桃太郎真伝
しおりを挟むむかしむかしのことじゃった。
あるところにお爺さんとお婆さんが住んでおりました。
働き者の仲睦まじい夫婦にて、いくつになってもラブラブファイヤー。さりとて子宝には恵まれず。
あるときお爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯へと向かいました。
お婆さんが川辺でごしごし洗濯物と格闘していると、上流の方からどんぶらこ、どんぶらこ。流れてきたのは大きな桃。
「うんとこどっこいしょ」
大きな桃を拾って持って帰ったお婆さん。
無理が祟って腰をギックリとやった。
自分ではまだまだ若いつもりでも体は正直だった。
魔女の一撃を喰らって「あ痛たたたたた……」
そこへ山から帰ってきたお爺さん。
愛する妻が伏せっている姿を目の当たりにして、たいそう心配し、かいがいしく世話を焼く。
えっ、桃?
いまはそれどころじゃない! 愛妻一番!
妻の介抱に明け暮れているうちに、早や四日が過ぎていた。
おかげでお婆さんは順調に回復していたものの、一方で土間の隅に放置されていた大きな桃からは、なにやら異臭が漂い始めていた。色味も黒ずんでおり、実もじゅくじゅく。さすがにこれを喰おうとは思えない。
そこでお爺さんは裏の畑にせっせと穴を掘った。
埋めて畑の肥やしにしようと考えたのである。
掘った穴に大きな桃を蹴落とし、上から土をザクザクかける。
最後にぱんぱんと地ならしをして任務完了。
「ふぅ」
吐息を零し額の汗を拭ったお爺さん。その場を去ろうとした、その時であった!
突如として地面の下からにょきっと生えた子どもの腕が、お爺さんの足首をがっちり掴む。
たまげたお爺さんは、どうにかこれを振り払おうとするも、もの凄いチカラにてびくともせず。
恐れおののくお爺さんの目の前で、さっき埋めたばかりの場所がむくむく盛り上がっていき、中からあらわれたのは真っ裸の女の子。
腐った果肉と泥まみれな女の子は開口一番。
「あぁん、なにしてくれとんじゃ、われ?」
ドスの効いた声にてお爺さんを恫喝し、「誠意をみせろ、慰謝料を寄越せ」とごね、相手に支払い能力が期待できないと知るなり、「だったら飯を食わせろ」とずかずか勝手に家にあがり込み、図々しくもそのまま老夫婦宅に居座ることになってしまった。
かくして老夫婦はめでたく? 待望の子を得たのであった。
◇
桃から生まれた女の子は、桃子と名づけられた。
見た目はすこぶる愛らしい。整った顔立ち、肌白く、解いた黒髪は絹のように滑らかにて、ぱっと見にはどこぞの貴族の姫君のよう。
だがしかし、チカラはとても強く、ビンタ一発で暴れウシを張り倒すほど。
あと頭に小さな角があった。
なんと! 桃子は鬼っ子であったのである。
ファーストコンタクトこそ最悪な形ではあったが、老夫婦との仲はおおむね良好であったように思われる。
なぜなら大喰らいの桃子は、飯さえたんと喰わせておけば機嫌がよかったからだ。
せっせとその飯代を稼ぐために働く老夫婦を尻目に、喰っちゃ寝、喰っちゃ寝で、すくすく育つ桃子。
だからとて世話になりっぱなしというわけじゃない。
さすがに老人らが身を粉にして働いている姿を見ていると気がとがめるのか、桃子はたまにふらりと出かけたかと思えば、近在の生意気なガキどもをしばき倒して傘下とし、食べ物を定期的に貢がせたりもする。あと山賊を狩ったりもする。
なんというか、桃子はとっても豪放磊落な女子であった。
ある日のことである。
「てえへんだ、桃子の姉御、カチコミだっ!」
桃子のところに駆け込んできたのは手下のひとり。
急ぎ現場に向かってみると、そこにいたのはシマを荒らしにきたのは鬼どもであった。
それは近頃、都を騒がせている鬼の集団の先遣隊のひとつであった。
都内だけでは飽き足らずに周辺地域にまで、食指をのばしていたのである。
これに激怒した桃子、先遣隊をボコボコにしただけでなく、締めあげてアジトの場所を訊き出すなり、お爺さんとお婆さんに、「ちょっと鬼ヶ島に行って話をつけてくる」と告げて飛び出してしまった。
単身勇ましく、敵の本拠地へと乗り込んだ桃子。
武器を手に群がる鬼どもを千切っては投げ、千切っての八面六臂の大活躍!
その快進撃は誰にも止められない。
ついに鬼どもは白旗をあげて全面降伏とあいなった。
こうして敗戦の賠償として溜め込んでいた宝物をがっぽりいただいた桃子は、里に凱旋し、得た軍資金と兵力により独立を宣言し、国を興しましたとさ。
めでたし、めでたし。
◇
いきなり連絡をとってきたかとおもえば、電話越しにこんなおちゃらけた昔話を延々と語って聞かせてきたのは、桜花朱魅。
赤鬼の族長によれば、これが桃太郎のルーツ、元ネタらしい。
とどのつまり、あれは鬼どもの内輪揉めであったということ。
「えっ、お供のサルは? キジやイヌはどこいった? あと忘れちゃいけない、キーアイテムのきびだんご!」
「あー、それちがうから。鬼ヶ島に向かう途中に小腹が空いた桃子が、途中で狩って喰った動物だから。あと腰からさげたきびだんごうんぬんは、後年にどこぞの団子屋が仕掛けたマーケティングの一環だ。『土用は丑の日、うなぎを食べよう』と同じだな。はははは、いつの時代にも目端の効くヤツの一人や二人はいるもんさ」
良い子には聞かせられない昔話の裏側。
愕然となりつつも、おれはあることに気がついて、はっ!
ちょっと待てよ。ということは、もしかしてこの大桃の中身は……。
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