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其の五 付喪神の兄弟 前編
しおりを挟むとある名工により世に産み落とされた兄弟刀。
刀の兄を伽耶一郎(かやいちろう)。
脇差しの弟を伽耶次郎(かやじろう)といった。
兄弟はたいそう仲睦まじく、つねにいっしょ。
代々の持ち主に恵まれて、大小が離ればなれになることもなく、そろって付喪神となれた。
そんな兄弟に転機がおとずれる。
現在の持ち主である山本宗吾(やまもとそうご)が、主君より直々に密命を受けてさる人物を捜すことになった。
人物の名は春日部高綱(かすかべたかつな)。
この男、小野派一刀流免許皆伝にて、剣の腕は優れていたが性格に難あり。己の腕を鼻にかけての言動が目に余る。見かねた上役が叱責するも、態度をあらためることはなかった。それどころかますます酷くなり、ついにはつまらぬ諍いから同僚相手に刃傷沙汰を起こし、不行跡にてお役御免となる。
するとこれを逆恨み。あろうことか主家の屋敷の宝物庫から、金子と刀をひと振り盗んで出奔してしまった。
とんだ痴れ者。お家の恥である。
しかしこれだけであれば、わりと世間には似たような話が転がっている。
問題は春日部高綱が持ち出した品にこそあった。
いわくつきの妖刀。桐の箱に納めて厳重に封をしてあったのが、痴れ者の曇り眼には、かえって貴重品に映ってしまったのだろう。
盗まれた妖刀、銘を「血潮」という。
歴代の持ち主たちはみな気狂いとなり、血生臭い事件を起こしては悲惨な末路を遂げている。
たまさか奇縁を辿って当家へと流れてきた品。ゆくゆくは寺に持っていき手厚く供養するつもりであったのだが……。
「どうにも胸騒ぎがする。何かよからぬことが起きてからでは遅い。早急に、春日部の身柄を抑えて盗まれた刀を取り戻せ」
主君の命を受けて、すぐさま家臣らは江戸市中へと散った。
そのかいもあり、首尾よく春日部高綱を発見。郊外のあばら家に追い詰めたものの、いざ囲んでの捕縛の段になって、春日部高綱がついに妖刀を抜いてしまう。
もとより優れた遣い手であった春日部高綱。それが妖刀を手にしたことで剣鬼に化けた。
妖刀が閃き血風が舞う。絶叫が闇を裂く。
瞬く間に五人もの武士を斬り伏せた春日部高綱は、勢いのままに包囲を破って遁走。
させじと追いかけた剛の者らもいたが、そのことごとくが斬り伏せられ、道端に骸をさらすことになる。
かくして無残な結果となり、この夜に失われし命は十三にもおよんだ。
◇
よかれとおもっての行動が裏目にでる。
危惧していたことが現実となってしまった。
こうなればさらなる人数でもって、いっきに片をつけたいところ。だがしかし、江戸市中では無闇に徒党を組むことが禁じられている。もしも公儀に見咎められれば、きっとただではすむまい。
数は頼みにできない。
なにより並みの遣い手では返り討ちにされてしまう。
そこで悩んだ末に、主君が白羽の矢を立てたのが山本宗吾。
彼は珍しい剣の遣い手。おさめた流派は二天一流なるもの。かの剣豪宮本武蔵を祖とし、大小の二刀を太鼓の枹(ばち)のように振るって戦う。他の流派とは一線を画した独特の構えゆえに、いささか奇異に映るものの、その守りは堅牢にて実力は家中でも指折りの猛者。山本宗吾の二刀をかいくぐって一本入れるのは至難と、もっぱらの評判の人物であった。
だからこそ後事を託したのだが、そんな実力者の山本宗吾をもってしても春日部高綱を仕留めることはかなわなかった。
いざ、刃を交えたとき。
剣の腕だけならばたしかに山本宗吾の方が勝っていた。
けれどもふたりが対峙した時点で、人を斬った数には相当の差があった。妖刀血潮は存分に生き血を啜り、魂を喰らい、封じられていた間に衰えた力を回復しつつあったのだ。
剣客同士の戦いではない。
剣客と妖刀に憑かれた人斬りとの戦い。
そのことにまで考えが及ばなかったのが敗因のひとつ。
そしていまひとつは……。
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