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074 一触即発?
しおりを挟む枝垂が地球とギガラニカを取り巻く状況や、世界の謎や神秘の一端に触れ、けっして明るくない未来を想像し暗鬱としていた頃――
早くもオウラン山の頂上へと到着していたのは、捜索隊である。
先を急ぐ強行軍につき、途中三分の一ほど脱落したが、それらはみな調査団側からの参加者であった。
だが、いざここまでやってきたものの、寒空の下にあるのは七つの石柱のみ。
「ここはあいからず殺風景な場所だな。ガキの頃に訪れて以来だが、ちっとも変わっておらん。腕輪の反応が消えたのは、たしかのここなのかエレン」
「はい、ラジール兄さま。間違いありません」
枝垂が身につけている金の腕輪には、高性能な発信機が内蔵されている。
その反応が忽然と消えた。とりあえず最後の反応が確認できた地点まで、急ぎ駆けつけたものの、ここは見晴らしが良く身を隠すような場所もない。
ジャニスの指揮の下、捜索隊は手分けをして山頂周辺を探してみるも、枝垂がいたという痕跡すら見つけられなかった。
早くも捜索は手詰まりになるかと思われた矢先のこと。
「エレン姫、ちょっとこちらへ来てくださいませんか。気になることが……」
声をあげたのは石柱のひとつを調べていたアリエノールであった。
規則性や理由は不明だが、明らかに意図して配置されたとおぼしき七つの石柱たち。この存在を訝しみ、端から順に見て回っていたアリエノールが、期せずして足を止めたのは巨門(こもん)の位置にあった石柱である。
右回りにぐるりと柱を一周してから、逆回りしたのはたまさか。
だがそのおかげで、柱越しにわずかながらも空間の歪みがあることに気がつけた。
☆
発見された怪しい箇所を凝視するジャニス、エレン姫、ラジール王子、アリエノールら。
「この向こう側がわずかにぐにゃりとした感じ……。闇魔法の亜空間収納の出し入れをした直後に似ているな。ということは、この向こうに何かがあるということか。どれ」
言うなり無造作に腕をのばすラジール王子、でもその手をパシンとエレン姫に叩かれて、すぐに引っ込めることになった。
「ラジール兄さまはバカなのですか? こんな得体の知れないものにうかつに触れたら、腕が消し飛びかねませんよ。少しはアリエノールさまの慎重さを見習ってください。
にしても、なんなんですかコレ……。たしかに一見するとマヌカの闇魔法に似ていますけど、まるで別物です。いえ、別次元と言うべきなのかしらん。恐ろしいほどに高密度の魔素と複雑な術式で組まれています。
信じられない。これに比べたら、うちの城の防御結界なんて紙以下ですよ。ちょっかいを出したらどうなることやら」
エレン姫の言葉に一同、ギョッ!
おもわず数歩後退りする。
せっかく見つけた手がかり、だがこれではどうしようもない。
一同はどうしたものやらと、頭を悩ませる。
するとここでジャニスが「もしかしたら」と口にしたのは、この山にまつわる伝承であった。
この山には神獣オウランが住んでいると、古くから云われている。
だがその御姿を拝見したという話はとんと聞かない。もしも本当であれば、それこそ神殿や祠でも建てて祀ろうというもの。なのに、お供え物のひとつもそなえない。
だから、てっきり眉唾ものの昔話にて、島民らも本気で信じてはいなかったのだけれども。
「この空間の歪みなんですけど、オウランならば可能なのでは?」
ジャニスの意見に伝承のことを知る兄妹はそろって「うーん」と腕組み、知らないアリエノールにはジャニスがかいつまんで説明をする。
「黄金級の禍獣ですか。その手の伝承は大陸各地に点在していますけど、中央でもここ数百年は目撃情報があがっていませんね。最後にあったのは、たしかデュルレ火山帯だったはず。
一説では彼らは強いだけでなく知能も高いがゆえに、うまく化けてわりと身近に潜んでいるのではとも云われていますが、本当のところはわかりません。
しかし相手が黄金級だとすれば、どのみち手は出せませんね。
それよりも私が気になっているのは、そんな超常の存在が、どうしてわざわざ『星クズの勇者』をさらったのかということなんですが……」
わざわざ「星クズの勇者」の部分を強調した、アリエノールの青い瞳がキラリと光る。
連合軍監査部に所属するキャリアウーマンより、じっと見つめられたジャニスは、あえて視線をはずさず。これを真正面から受け止め「さぁ」ととぼけてみせた。
無言のままにて、しばしにらみ合う両者。
先に視線をはずしたのはアリエノールであった。
「まぁ、今はそういうことにしておきましょうか」
出来る女同士がバチバチとぶつかり、見えない火花を散らす。
一触即発? そんな緊迫の場面を、こっそり物陰から見ていたのは当の枝垂たちであった。
じつはオウランが捜索隊の到着に気づいたもので、こうして出迎えにやってきたものの、とんだ修羅場に遭遇してしまい、出るに出られなくなってしまったという次第。
「いま出て行ったら、もの凄く気まずいよね。どんな顔をしたらいいのかわからない」
「そうさのぅ。もう少し待ってから、素知らぬフリをして出ていくのがよかろう」
オウランの言葉に飛梅さんもコクコクうなづいたもので、枝垂たちはしばらく時間を置くことにした。
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