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073 幻の種族
しおりを挟むかつてギガラニカには獣人、類人、蟲人たち以外にもふたつの種族が存在していた。
地上の楽園と謳われたパピロスペタァルは、樹人と鉱人らの国であったのだ。
樹人は植物系のヒトであるが、その在り方は実に多彩である。
木偶人形のような容姿もいれば、樹木そのままの姿もあり、上半身が類人で下半身が大きな花であったり、見目麗しい花の精霊のようであったり……
ベースが植物であるがゆえに火属性の魔法を扱える者がいない代わりに、植物魔法なる種族固有の魔法を遣える者がいたが、種族の消滅によりその魔法も絶えてひさしい。
鉱人は鉱物系のヒトにて、地魔法と錬金術により造り出されるゴーレムに近しい容姿をしている。こちらは見た目通り、種族全体が地魔法に特化しており、その精度や規模は他種族の地魔法とは一線を画す。
彼らは核となる部位があって、それさえ無事であればカラダをいくらでも再生できる特性を持ち、もっとも不死不滅に近い種族とも呼ばれていた。
植物を司る樹人と大地を司る鉱人との相性は極めてよく、逆にその個性的な在り方ゆえに、他の三種族とは微妙な距離があったことは否めない。それでも互いに歩み寄り、理解しようと努力することにより、仲良く暮らしていた。
……はずであった。
けれどもそう考えていたのは樹人と鉱人側のみにて、他は違っていたらしい。
原始の星骸である星骸一号からギガラニカ世界を守った、ふたつの種族は姿を消し、国は滅びた。
それから幾多の争乱を経て、荒野を中心にして五つの大国が台頭するまでには、約千年近くの時を要する。
現在の形に収まるまでにはさらなる時間を必要とし、その過程において多くの伝承や文献は失われ、パピロスペタァルのことや、樹人や鉱人のことを知る者もほとんどいなくなってしまった。
☆
「これは……わずかに残っていた残骸を調べて判明したそうじゃが、星骸一号……あれは、枝垂の世界で開発された水爆とか原爆とかいうヤツから、産まれたものじゃ。
しかし儂は理解に苦しむのう。わざわざあんなモノをこさえるとは、あっちの世界の者たちは、いったい何を考えておるのやら」
最後にとんでもないオチという爆弾を落とし、オウランの語りは終わった。
飛梅さんのルーツはどうやら樹人らしい。
原始の星骸との戦いの直後、空にあらわれたという大穴に飲み込まれて、ギガラニカ世界から地球へと運ばれた生き残り。
だとすれば同じパターンで、鉱人もあちらで生き残っている可能性が高いかも。
なにせもっとも不死不滅に近い存在というぐらいなのだから
それにしても星骸一号の正体を知った衝撃がけっこうデカい。
えっ、ということは、つまり星骸ってばアレと同じということになるのか。
特撮映画の金字塔、核の落とし子である大怪獣……
1945年から約半世紀の間に行われた核実験は、優に二千三百回を越える。大気圏の内外や地下や水中などで繰り返された実験は、その都度、核出力をあげていく。
いっときは核兵器を減らす軍縮の動きがあったものの、いまだ満足に果たされてはおらず。むしろ時代に逆行している感すらある。
脱原子力社会はまだまだ遠く、着々と量産される高レベルの放射性廃棄物は、処理方法がわからないから地中深くに穴を掘って厳重に保管するしか、やりようがないという体たらくだ。
そりゃあ、地球さんも外に吐き出さなければ、とてもではないがやってられないだろう。
もしも自分が地球だったら、きっと同じことをしている。
だけれども……あれ? ちょっと待てよ。
枝垂は一連のオウランの説明に引っかかりを覚えた。
それは事が起きている時系列である。年代が合わない。流れの前後がえらく逆転しているような……
「そのことならば枝垂たちも身を持って体験しておるじゃろう」
「?」
「星の勇者召喚の儀じゃよ」
「あっ!」
枝垂と同期の三十九人は、性別も世代も時代も国籍も職業も立場も、てんでばらばら。
それはてっきり神様の都合なのだとばかり思っていたのだが、それだけではなかったのだ。地球とギガラニカ、二つの平行世界を渡る際に時間のズレが生じている。
いや、もはや歪みと言うべきか。とにかく途中の空間がぐにゃぐにゃになっており、順序や秩序なんてものは存在していない。
それでも過去と現在と未来は数珠繋ぎにて、それらがこんがらがってひと塊となっては、ギガラニカの世界へと排出されている。
問題は、そのうちの未来だ。
もしも今以上に強力な兵器を地球人類が開発したら、それに比例して星骸もより強力になるということ。
そんなことはありえない。
人類はそこまで愚かではない。
とは、とても言い切れるほど地球人類を信じられない枝垂は、全身の肌が粟立つのを抑えられなかった。
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