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075 芽吹く

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「これは……まさに花の楽園だわ」
「艶やかなものです」
「はぁー、これほどの庭園は中央でもお目にかかったことがないぞ」
「この高魔素下で一部とはいえ再生させるとは……。そのチカラがあれば、もしかしたら荒野を蘇らせることができるかも」

 百花繚乱の常世の春、神獣の庭にて、エレン姫たちは周囲の景色に見惚れて感嘆しきり。
 あれからひと悶着あったが、どうにか枝垂と合流した捜索隊の面々。
 ただし、ちょっとヒヤヒヤものであった。

 なにせ、焦れたラジール王子が「ええい、埒があかん。直接触れるのがダメならば、間接的に調べるのならば問題なかろう」と言うなり、エレン姫たちが止める間もなく、その辺に落ちていた石を拾っては「えいや」と問題の箇所にぶん投げたのだ。
 間の悪いことに、それが亜空間の中からひょっこり顔をだしたオウランの鼻先に、よもやのクリーンヒット!
 とはいえ伝説の神獣と呼ばれる黄金級の禍獣にとって、そんな石くれなんぞは屁でもない。毛筋ひとつも傷つかぬし、痛みなんて感じない。

 しかしいきなりの無礼でもあったので、オウランは「やれやれ、まさかこの歳になって、若造から石をぶつけられようとはなぁ」とにやり。その表情の怖いことといったらなかった。
 もちろん冗談である。べつにこの程度のことで目くじらを立てるほど、オウランの度量は狭くない。やんちゃな小僧をちょいと揶揄っただけのこと。
 だけれども神獣ジョークは高度過ぎて一般受けしなかった。
 捜索隊の一同が揃って土下座にて、そんな場面を目撃することになった枝垂はとてもいたたまれなかった。
 すぐに間に枝垂が入ることで誤解は解けたものの、異世界にも土下座なる習慣があることに枝垂は驚きを禁じ得ない。

 捜索隊の者たちが思いおもいに庭園を楽しんでいる。
 そんな中にあってオウランがアリエノールに近づき、さりげなく釘を刺す。

「……かもしれん。だが、枝垂を中央で囲うのはやめたほうがいいだろう」
「なぜでしょうかオウランさま? べつにコウケイ国を蔑ろにするつもりはありませんが、星の勇者の育成に関しては辺境より経験豊富ですし、施設や制度も整っており、専用の学園もあります。先輩勇者らもいますから、中央の方が何かと便宜をはかれると思うのですが」
「たしかにのぅ、だが枝垂の場合は逆効果になりかねんぞ」
「どういう意味でしょうか?」
「枝垂の能力じゃよ。梅に限定されておるが、あれは明らかに樹人らが得意としていた植物魔法に由来するチカラ。だとすれば中央とは、ちと因縁があるからして」

 いかにやむを得なかったとはいえ、結果として中央の者らはパピロスペタァルと樹人や鉱人たちを見捨てたことには違いない。
 すでに遠い過去の話だ。だがそれはあくまでギガラニカ側の理屈にて、地球に飛ばされた者たちがどう考えているのかは、また別のこと。
 時を経て薄れる想いもあれば、より強まる想いもある。
 樹人と鉱人がいまだに遺恨を抱いていてもおかしくはない。

 どのような仕儀にてこうなったのかは不明ながら、それでも樹人は枝垂という存在を通じて、この地への帰還を果たした。
 それがこの先、どのように発露し、いかなる芽を吹くのかは誰にもわからない。
 たんに祖先たちが居た元の世界に戻りたかっただけなのか。あるいは他にも思惑があってのことか……

「これもまた宿世の縁(えにし)、枝垂が召喚されるなり中央からはじかれコウケイ国へとやってきたのは、星の巡り合わせなのであろう。いまのところは上手くまわっておるようじゃし、少なくとも枝垂のチカラが落ち着くまでは、下手に介入せずに静観するのがよかろう」

 そのようにオウランから諭されて、アリエノールは二の句が継げなかった。

  ☆

 枝垂と飛梅さん、捜索隊と共に王城へ帰還す。
 その朗報にロバイス王をはじめとする城の者たちは、みなほっと胸を撫で下ろした。
 しかし枝垂から「はい、これお土産です」と差し出された品を目にするなり、ロバイス王とディラ王妃は揃って卒倒した。
 伝説の神獣が島内に実在し、星クズの勇者と知己を得ただけでも心臓が飛び出しそうなほどの驚きであったのに、そんな相手からよりにもよって輝石と尻尾を貰ってきた!
 獣人にとってオウランは特別、王夫妻が受けた衝撃は心の許容範囲を越えてしまったようである。
 おかげで、その場はてんやわんや。
 しょうがないのでお土産はいったん枝垂の亜空間収納「梅蔵」に放り込んでおくことになったのだけれども、よもやそれがあのような事態を引き起こそうとは……


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