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14 市松人形の苦悩
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異世界移住生活、三週間目に突入しました。
あと一週間もすれば、王都より勇者組は軍と共に出立するそうです。各国から派遣された軍勢らと合流して、人類一丸となって魔族とことを構えるとのこと。大変ですね。
なにを他人事みたいにって、実際に他人事ですから。
戦う力のない私がついて行ったところで、お荷物にしかなりませんから。しかも維持費がかかる無駄飯喰らいです。普通は連れて行こうだなんて考えないでしょう。だから精一杯の愛想笑いで、クラスメイトたちを見送ろうと思います。頑張って手は全力で振りますよ。
暇だったので、みなの訓練風景をぼんやりと眺めています。
つい数週間前まではど素人だったのが、剣や槍を手にしてそれなりに様になっていました。やはり女神さまに貰った、能力やスキルなどが作用しているのでしょう。各々が身体能力も向上しているらしく、成長もそれなりに早いみたいです。
魔法をバンバン放っている女子もいました。そこそこの威力らしく、離れた的までビューンと火の玉が飛んで行っては、派手な音を立てています。
不意にこちらに流れ玉? の氷の礫が飛んできました。きっと誰かの嫌がらせなのでしょう、可愛いものです。私はひょいと首を傾げて躱します。
流れ玉は後方の壁にぶつかって弾けました。
しかしこれに慌てたのは、その場を仕切っていた騎士団長さん。王族どもとは違って、とっても誠実そうな渋い男性で、そんな彼がこっちに駆けよってきました。
「大丈夫か? どこにも怪我はないか?」
それはもう幼子を持つ父親のごとき心配のしよう。どうやら彼の目にも、小柄で非力で女神さまにも見放されたと思しき異世界の少女は、守るべき対象として映っているようです。もしかしたら委員長たちも彼に感化されたのかもしれません。
「大丈夫です。心配かけてすみません。どうやら逸れたみたいで助かりました」
そう答えると心底、ほっとしたような表情を彼は見せました。普段のキリリとした顔も素敵ですが、この不意に見せる優しさは、もはや犯罪でしょう。これまでどれほどの女性を無自覚に堕としてきたことやら。ほら、そんな彼の背後にはこっちを見て、悔しそうに歯ぎしりをしている女子数名の姿が……。
どうやら彼女たちの目には、私が委員長に続いて渋専好みの団長まで篭絡しているように見えているようです。
おかげで私にまた敵が増えました。
あぁ、悲しいことに、人はこうやって誤解に誤解を重ねて、互いの溝を深めていくのですね。しかし私は誤解を解こうだなんて思いませんし、頑張りません。だって面倒なんですもの。
そんな風に横着を決め込んでいたから、罰が当たったのでしょうか。
玉座の間にて集められた勇者組に、今後の説明がされていた時のことです。
委員長がやってくれました。
「当然、沢良宜さんも連れて行く! 一人だけ残して置くなんて出来るものか! だって彼女もオレたちの仲間なんだから!」
どうやら彼は普通じゃなかったみたいです。私の予想の斜め上を行く人物でした。
どうにも腹黒臭がする姫様がこれに異を唱えます。「か弱い女性を戦場に連れて行くなんて」と、もっともらしい言葉を口にしていますが、その本音は「いざという時のために人質として確保しておきたい」というものでしょう。
常識人である団長さまは、非戦闘員である女性を連れて行くことに難色を示します。
クラスメイトらの反応はまちまちでした。お荷物はゴメンだと露骨に嫌がるもの、委員長に賛同するもの、どっちでもいいよーというもの、私という異物のせいでクラスの結束にヒビが入ってしまいました。おかげでガヤガヤと揉めて会合が一向に進展しません。
もうすぐ夕飯の時間だというのに……、だから殊勝にも「私のことは大丈夫だから、みんなで頑張ってきて」と言ったら、よけいに揉め始めてしまいました。
すると面倒臭くなったのか、太った王様が「連れて行けばよかろう。その娘一人ぐらい問題ない」と言ったことにより、問題が決してしまった。
こうして私は強制的に行軍に参加することになりました。
どうして誰も彼も、私の意見を無視するのでしょうか? 歩く市松人形は、ただ静かに怠惰に暮らしたいだけだというのに……。
あと一週間もすれば、王都より勇者組は軍と共に出立するそうです。各国から派遣された軍勢らと合流して、人類一丸となって魔族とことを構えるとのこと。大変ですね。
なにを他人事みたいにって、実際に他人事ですから。
戦う力のない私がついて行ったところで、お荷物にしかなりませんから。しかも維持費がかかる無駄飯喰らいです。普通は連れて行こうだなんて考えないでしょう。だから精一杯の愛想笑いで、クラスメイトたちを見送ろうと思います。頑張って手は全力で振りますよ。
暇だったので、みなの訓練風景をぼんやりと眺めています。
つい数週間前まではど素人だったのが、剣や槍を手にしてそれなりに様になっていました。やはり女神さまに貰った、能力やスキルなどが作用しているのでしょう。各々が身体能力も向上しているらしく、成長もそれなりに早いみたいです。
魔法をバンバン放っている女子もいました。そこそこの威力らしく、離れた的までビューンと火の玉が飛んで行っては、派手な音を立てています。
不意にこちらに流れ玉? の氷の礫が飛んできました。きっと誰かの嫌がらせなのでしょう、可愛いものです。私はひょいと首を傾げて躱します。
流れ玉は後方の壁にぶつかって弾けました。
しかしこれに慌てたのは、その場を仕切っていた騎士団長さん。王族どもとは違って、とっても誠実そうな渋い男性で、そんな彼がこっちに駆けよってきました。
「大丈夫か? どこにも怪我はないか?」
それはもう幼子を持つ父親のごとき心配のしよう。どうやら彼の目にも、小柄で非力で女神さまにも見放されたと思しき異世界の少女は、守るべき対象として映っているようです。もしかしたら委員長たちも彼に感化されたのかもしれません。
「大丈夫です。心配かけてすみません。どうやら逸れたみたいで助かりました」
そう答えると心底、ほっとしたような表情を彼は見せました。普段のキリリとした顔も素敵ですが、この不意に見せる優しさは、もはや犯罪でしょう。これまでどれほどの女性を無自覚に堕としてきたことやら。ほら、そんな彼の背後にはこっちを見て、悔しそうに歯ぎしりをしている女子数名の姿が……。
どうやら彼女たちの目には、私が委員長に続いて渋専好みの団長まで篭絡しているように見えているようです。
おかげで私にまた敵が増えました。
あぁ、悲しいことに、人はこうやって誤解に誤解を重ねて、互いの溝を深めていくのですね。しかし私は誤解を解こうだなんて思いませんし、頑張りません。だって面倒なんですもの。
そんな風に横着を決め込んでいたから、罰が当たったのでしょうか。
玉座の間にて集められた勇者組に、今後の説明がされていた時のことです。
委員長がやってくれました。
「当然、沢良宜さんも連れて行く! 一人だけ残して置くなんて出来るものか! だって彼女もオレたちの仲間なんだから!」
どうやら彼は普通じゃなかったみたいです。私の予想の斜め上を行く人物でした。
どうにも腹黒臭がする姫様がこれに異を唱えます。「か弱い女性を戦場に連れて行くなんて」と、もっともらしい言葉を口にしていますが、その本音は「いざという時のために人質として確保しておきたい」というものでしょう。
常識人である団長さまは、非戦闘員である女性を連れて行くことに難色を示します。
クラスメイトらの反応はまちまちでした。お荷物はゴメンだと露骨に嫌がるもの、委員長に賛同するもの、どっちでもいいよーというもの、私という異物のせいでクラスの結束にヒビが入ってしまいました。おかげでガヤガヤと揉めて会合が一向に進展しません。
もうすぐ夕飯の時間だというのに……、だから殊勝にも「私のことは大丈夫だから、みんなで頑張ってきて」と言ったら、よけいに揉め始めてしまいました。
すると面倒臭くなったのか、太った王様が「連れて行けばよかろう。その娘一人ぐらい問題ない」と言ったことにより、問題が決してしまった。
こうして私は強制的に行軍に参加することになりました。
どうして誰も彼も、私の意見を無視するのでしょうか? 歩く市松人形は、ただ静かに怠惰に暮らしたいだけだというのに……。
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