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56 戦端
しおりを挟む花蓮の専用武器の開発から始まった銃器類が、人間領にほど近い砦に配置されてすぐのこと。人類連合の中の一派が、ちっとも動こうとしない上層部に焦れて、勝手な侵攻を開始する。この動きには各国の若手が中心に呼応し、結果として一万ほどの軍勢が砦へと殺到する。
その中には異世界からやって来た勇者らの姿も数人だが含まれていた。彼らは委員長と袂を分かった者たちである。立派なお題目を口にするばかりの彼に、嫌気がさしてしまったのだ。そんなところに他国からの好待遇による引き抜き話がきて、ホイホイと誘いにのる。せっかく女神さまより力を授かったのに、その恩恵を少しばかり受けたところで罰は当たるまいと、彼らは安易に考えてしまった。自分たちを取り巻く環境も、周囲の思惑にも気づくことなく。挙句にこうして巻き込まれるような形にて、戦場を走ることになってしまう。
覚悟もなく信念もない者が戦場に立つ。そのことがどれほど危険なことであるかは、じきに己が身をもって思い知ることになる。
寄せ集めの軍勢は各々に突出していく。
統制の取れていない集団は、それでも魔族の砦という目標が定まっているので、その一点に向かって群がることにより、奇跡的に行軍活動を実現していた。だが彼らの幸運はそこでパタリと止まる。
タタタタタ……、乾いた炸裂音が戦場に響いたと思ったら、バタバタと倒れていく人類側の兵士たち。
「な、なんだ? どうしたっていうんだ」
参加していた勇者の一人が狼狽して周囲を見回す。そこかしこに倒れている味方たち。先ほどまでは勢いのあった軍勢の出足が、明らかに鈍っている。「がっ!」すぐ側に立っていたクラスメイトが呻き声を上げて倒れ込む。その太腿にはぽっかりと穴が開いており、血がドクドクと流れている。その傷を見て、ようやく彼は先ほどから戦場に鳴り響いている、音の正体に思い至った。
「まさか! なんで魔族が銃なんて持ってるんだよ! そんな話、聞いてねぇぞ!」
思わず叫ぶ勇者、だが彼の叫びは更なる大きな音にかき消されてしまった。砦方向より飛来した玉が地面に着弾したと同時に爆発したのである。咄嗟に魔法障壁を展開して攻撃を防げた者はほとんどいなかった。閃光が視界に満ちて、多くの兵らの目が一時的に潰された。
混乱に陥ったところに、今度は魔族たちが襲い掛かり、瞬く間に無力化されていく。
どちらかというと正面からの肉弾戦が多かった、これまでの魔族とは明らかに違う闘い方に、成す術もなく翻弄される人類。こうして勝敗はほんの一時間ほどで決してしまった。
そして戦場後には、装備類を没収されパンツ一丁に剥かれた兵たちが転がることになる。
これは魔族からのお仕置き、発起人は花蓮であった。
彼女曰く「授業料」とのこと。集められた装備類は鋳潰されて、ちゃんと資源として再利用されることになっている。
ちなみに女性の場合に限っては、お仕置きは免除されている。魔族は外見に似合わず紳士なのだ。
この敗北は人類連合に激震を走らせることになる。
いかに一部の者らによる暴走とはいえ、完膚なきまでに叩きのめされ、怪我人こそは多数いるが死者はゼロ、そのくせ装備だけを分捕られ身ぐるみを剥がれるという屈辱、未知の兵器の登場、新たな戦略、加えて敵兵力はまだまだ健在どころか主力すらも姿を現していない有様。この事態を受けて、なんのかんのと理由をつけて戦線を離脱しようとする国も現れはじめた。
この日を境にして、人類連合は瓦解していく。
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