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56 ジルス教国編 飛空艇での戦い
しおりを挟む打ち下ろすかのように振るわれたレムリンの腕。拳撃が轟っと風を鳴らし唸る。
これを迎え撃つべく黒猫の拳が放たれる。
互いの拳が真正面からぶつかる。
鈍い音が響いた次の瞬間には、粉砕され千切れ飛んでしまっている怪人の腕。あまりの衝撃にて、肘から先が消滅してしまったことに愕然とするレムリン。
「なっ、なんなのだ。キサマは」
「私? 私はただのギルドの居候だよ」
「ふざけるなーっ!」叫んだと同時に怪人の首がぐりんとまわり、前後が入れ替わる。後頭部にあった大口が、牙を突き立てんと黒猫の首筋に迫る。
そんな怪人の横っ面に右の猫パンチが炸裂。
この一撃にて相手の命を狩りとり、その身を看板に叩きつけ、更には突き抜けて階下にまで吹き飛ばす。怪人の肉塊はそれでも止まらずに、更に階層を下の方にまで落ちていく。
その衝撃にて飛空艇全体に生じていた爆発が一層、苛烈となる。
「あっ、これは本格的にヤバイかも」
絶対に墜ちると確信した私は、慌ててアミット姫のもとへ駆け寄ると、彼女の身柄をぺいっと大空に放出。「きゃあー」という乙女の可愛い悲鳴を聞きつつ、フクロウフォームへと変身して、目を回しているお姫さまを空中にて無事にキャッチ。そのまま都の方へと飛んでいく。
直後に後方にてひと際大きな爆発音が起こり、ついに飛空艇が地面へと船頭から落下していき墜落。
大爆発を起こし、すべてが紅蓮の炎に包まれた。
都の方での騒動はまだ収まっていないのか、あちこちで戦闘の気配が漂っているものの、かなり鎮圧に成功した模様。
それを尻目に城の中庭に着地すると、すぐにイクロス王子が騎士たちを引き連れて駆け寄ってきた。
「ヨーコ、アミットは無事なのか」
「はい、大丈夫ですよ。ちょっと刺激が強すぎたせいか、目をまわして……」
「えっ! アナタはヨーコなのですか?」
いつの間にか気がついていたお姫さまに、王子とのやりとりをバッチリ聞かれてしまった。
じーっとこちらを上目使いで見つめてくるアミット姫。
お兄様とおなじキレイな碧眼。そこに込められた無言の圧力。普段はのほほんとした雰囲気のお姫さまなのだが、そこはやはり王族。有無を言わせぬ迫力のあるところなんて兄上そっくり。これはとても誤魔化せそうにもない。
私は、観念して彼女の目の前で変身を解く。
アミット姫さまは、ずっと私のフクロウフォームの男性像を追い求めていた。
それを知っていながら黙っていたんだから、きっと怒られるか、泣かれちゃうかな、と覚悟していたんだけど……。
「素敵……、小さくて可愛いのに。あんなに強いだなんて。ポッ」
つぶやいたお姫さまの瞳にはハートマークがありありと浮かんでいた。
惚れっぽいのは知っていたけど、いくらなんでも対象範囲が広すぎる。
なんとなく嫌な予感がしたので、イクロス王子の方を見たのだが、彼は黙って首を横に振るだけであった。
うにゃーん。
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