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78 ラングドア国編 更なる高みを目指して
しおりを挟む目覚めたとき、頭がぼんやりとして意識がはっきりしなかった。
視界の片隅に鉄格子らしきものが目に入る。
どうやら気を失っていたところを、捕縛されて人魚族の牢屋に放り込まれたみたい。
なにせ海皇玉とかいう宝物を祀っていた広間にて、ぶっ倒れていたんだから、それもしようがないか。ギルドの身分証やラングドアで発行された依頼書などもあるし、身元照会をされたら、すぐに誤解が解けて釈放されるだろう。
などと考えているうちに再び深い眠りへと落ちていく。
思った以上に敗北のダメージが効いているようだ。
次に目が覚めたら景色が一変していた。
不愛想な牢屋の天井とは違って、落ち着いた色味で統一された暖かい室内に私はいた。
側らには見覚えのある顔。崩れた建物に尾びれを挟まれていたところを助けたお婆ちゃん人魚であった。
「ああ、よかった。アンタは丸二日も寝たきりだったんだよ」
お婆ちゃん人魚によると、だいたいが予想通りであったらしい。
でも兵士らの中に、私が巨大モンスターと戦ったり、人助けをしていたのを見ていた者が大勢いたらしくって、幸いにもすぐに誤解は解けたそうな。
この度の一件にて、人魚族の都は大打撃を受けた。
守りの要である海皇玉を失い、都は半壊、犠牲者も多数出たという。
海皇玉と都は、時間と手間を惜しまなければ再建できるが、失われた命はもう戻らない。
これまでは心のどこかに「自分がその気になれば、なんとかなる」みたいな奢りがあった。それを今回の敗北にて粉々に砕かれた。いくら徹夜明けの連戦続きとはいえ、必殺技を容易く破られ、たったの一撃にて行動不能に追いやられたという事実に打ちのめされる。
重い足取りのまま私は人魚族の都を後にして、帰国の途につく。
当初の目的通り海賊団は蹴散らすも、釈然としない結果に終わった任務。その報告をイクロス王子にする。
彼は「よくやってくれた」と労いの言葉をかけてくれたが、またもや登場したギガヘイルという組織の名に愁眉を寄せていた。ここのところの騒動の影には、必ずといっていいほど、この名前がちらついていたからである。
連中の目的は不明だが、何かを目論んでの行動であることだけは、間違いないであろう。
ギルドにて私から説明を受けたハウンドさんは、漆黒の昆虫人の話を耳にした途端に、凄まじい殺気を放つ。目の前に立っていた私は、心臓をわし掴みにされたような感覚に襲われる。
彼がここまで感情をむき出しにするのは初めてのこと。すぐに気がつき殺気を抑えてくれたが、それでもギルド内にいた多くの者たちの肌を、粟立たせてしまったことであろう。
どうやら蒼い目をした漆黒の昆虫人と師匠は古い知己であるらしい。
この様子では因縁浅からぬ間柄のようだ。かなり気になるところではあるが、いまはちょっと触れないほうがいいだろう。
なによりも、まず私にはするべきことがある。
それは特訓だ!
いつまでも敗北に打ちひしがれているのは性に合わない。
やられたら、やり返す。
必殺技は、いつかは破られるモノ。そして新たな必殺技を開発するのが、変身ヒーローのお約束なのだ。
悔しいが、今の私では、少なくともあの紅い甲冑男と漆黒の昆虫人には勝てない。
だから特訓だ!
落ち着きを取り戻した師匠に頭を下げて、「鍛え直してくれ」と願い出る。
そして私の過酷な日々が始まった。
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