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86 コウト国編 王都へ
しおりを挟む赤いフェンリルの燃え尽きた後には、紅の綺麗な魔石が落ちていたので、もらっておく。
白いフェンリルの体を砕いてみると、蒼い綺麗な魔石が出てきたので、こっちももらっておく。王子の新機体に使えそうなら回すし、駄目ならアミット姫へのお土産にしよう。
街の方を見ると、しっかり侵入されちゃったみたいで、あちらこちらから煙があがっているのが見えた。
やっぱり駄目だったか、チョビ髭マスター。
こりゃあ、責任とってクビだね。
外回りはボスがいなくなったせいか、わりと敵影が散ったみたいだし、今度は街の方の掃除を手伝うとするか。
そう考えて街へと戻っていたら、途中で森の奥に人影が見えたような気がした。
思わず立ち止まって確認するも誰もいない。
うーん、マンティの連れの執事さんっぽく見えたんだけど、気のせいだったみたい。
正門前は悲惨だった。そこいらに敵味方の死体や部位が転がる。一番の激戦区だから仕方がないのかもしれないが、やはり戦力を分断したのが痛手となっている。
街中で主に奮闘していたのは、外様組の冒険者たち。
あちこちで活動しているだけあって、地元で燻っている連中とは能力そのものが違うようだ。街並みの被害のわりに、犠牲者がほとんど出ていない。たいしたものである。
袋小路などの地形を活かして無理なく狩っているし、盾役や囮役などの分担がきちんとなされているので、万事においてそつがない。安心して見ていられる。モンスターらのチカラには、知恵と工夫で立ち向かうのなんて、冒険者の面目躍如であろう。
この分ならばじきに落ちつくかと思われた矢先、ギルド経由にてとんでもない情報が舞い込む。
なんと! スタンピートはここだけじゃなくて、コウト国全土にて同時多発しているとのこと。しかも王都にも巨大モンスターが出現していて、どこもかしこも大わらわ。
私はしばし逡巡した後に街を飛び出す。
「変身! 第三フォーム」
走りながら叫ぶ。
足下より影が伸びて全身を包む球体となる。内部にて無数の黒い糸が織りなし肉体を構成し、球体がパチンと弾けてフクロウフォームとなった瞬間に、勢いよく空へと飛翔する。
目指すはコウト国の王都だ。
全力飛翔につき、じきに前方に都っぽいのが見えてきた。
和風と中華風が混ざり合ったような建築物が目立つ。古い歴史を誇るだけあって都全体に風格が漂っている。
そんな場所にて蠢いていたのは巨大なヤドカリみたいなモンスター、それが三体も。
アレには見覚えがあるぞ。
でもサイズが違う。私が知るアレは小型種だったはずだ。だがいま王都で暴れているのは、山と見まがうような超巨大種……。
ヤバイぞ。もしもアレが小型と同じ性質だったら、あっ!
目の前に太陽が落ちたかのような閃光が起こった。
続いて爆風が吹き荒れて弾き飛ばされた。衝撃によって翻弄され抗うことは適わない。きりもみしつつ砲弾のごとき速さにて、木々を薙ぎ倒した後に地面へと激突する。それでも体は止まらずに、かなりの距離の溝を掘って、どうにか止まった。
くそっ、ダメージを喰らい過ぎて体が言うことをきかない。
世界が白い。キーンとしてよく聞こえない。
目だけでなく耳もやられた。
だが視力はいち早く回復してきたようだ。
真っ白だった視界がぼんやりとだが、見えるようになってくる。
最初に目に映ったのは、まるでドミノ倒しのようになって薙ぎ倒されている森。
次に空高くへとのびる不気味なキノコ雲であった。
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