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113 永遠の国編 白骨の誘い
しおりを挟む騒ぎが起きている場所へと駆けつける。
現場は街中の広場。修復作業中の時計台であった。
組まれた足場のすぐ側にて、男性が血を流して倒れている。頭部が無残に割れて中身が飛び出していた。高所より足を滑らせ落ちて亡くなったようだ。
野次馬たちで、すぐに人だかりとなる。
みなが見守る中で、倒れた仲間に近寄ろとした作業員が「あっ」と声を上げた。
頭が割れていた男の体がムクリと起き上がったからだ。
その拍子にズルリと頭の中身が地面に零れ落ちて、びちゃりと嫌な音を立てる。
あまりにも凄惨な光景に誰も声が出ない。
ボコボコと波打つ死者の肉体。急激に膨張したと思ったら衣服が破れて、中から緑色の異形が姿を現す。怪人だ。
怪人の出現に、しばしみなの思考が停止するも、ソイツが奇声を発したのを合図に広場は混乱の坩堝と化す。
我先にと逃げ出そうする人たち。
その波に呑まれないようにかわしながら、私は時計台の方へと近づいてゆく。
ここは他国の都だし、自分の任務を考えれば無視するのが正しいのだろうけど、それだときっとヒトが死ぬ。足場の上には逃げ遅れた作業員らの姿もある。ここで怪人がちょっと暴れるだけで、彼らは高所より地面へと叩き落とされることであろう。それを見過ごしてヘラヘラしていられるほど、私は大人じゃない。
「変身!」
潮が引くかのごとく、さっと広場から野次馬どもの姿が消えたところで、黒猫の着ぐるみ姿が現れる。
腰を抜かしている作業員のおっさんへと怪人が襲いかかろうとしていたので、その背中に飛び蹴りをかます。
衝撃にて巨体が吹っ飛び、積んであった資材へと派手に突っ込む。
「はやく! いまのうちに」
逃げ遅れていた作業員に声をかけてから、私は怪人と向き合う。
かなり手加減をしたので、あの程度では死んでいないはず。
あわよくば生け捕りにして差し出せば、ここの頭の固い連中も少しはこちらの話に、真剣に耳を傾けてくれるかもとの思惑である。
だというのに……。
資材を吹き飛ばして勢いよく飛び出してきた怪人。
向かってくるのかと身構えていたら、不意に苦しみだして、風船みたいに膨らんだと思ったら、ぱん! と体が破裂して果ててしまった。
「へ?」
あまりのことに思わず間抜けな声をあげてしまう。
予想外の展開に立ち尽くしていると、頭上より何者かの声が聞こえてきた。
「ふむ。やはり耐えられなかったか。それにしても」
そんな言葉とともに、ふわりと音もなく広場に舞い降りたのは、見覚えのある白衣のガイコツ姿。アナちゃんを連れ去ったドレイクとかいう奴だ。ずっと近くの建物の屋根から騒ぎの様子を見ていたらしい。
尻尾を逆立て警戒心も露わにする黒猫の着ぐるみ。
興味深げにこちらを見つめてくるドレイク。ぽっかりと開いた暗い二つの眼孔。その奥に妖しい蒼の光が燈る。
「まさかあの時の少女が、我らの仲間を屠ってきた者であったとはなぁ。アナを介した遭遇といい、なにやら因縁めいたものを感じる」
「アナちゃんは無事なの」
「ああ、元気だよ。アナはさっきの出来損ないとは違って強いからね。それよりも……」
瞬時に間合いをつめて、ズイと顔を突き出してくるドレイク。
「まさか私以外にも、これほどの改造を施せる人物がいたことが驚きだよ。いったいどこの誰に、キミはその体をもらったのだね。ぜひとも教えてくれたまえ」
白衣のガイコツからは、いかなる害意も感じられない。あるのは純粋な好奇心のみ。
それゆえに、これまで相手をしてきた連中とは勝手が違って、私はどうにも調子が狂う。
しかし黒猫の着ぐるみと白衣のガイコツの対峙という、奇妙な構図も長くは続かない。
騒ぎを聞きつけた警邏隊が広場へと駆けつけてきたからだ。
「どうやら邪魔が入ったようだな。よし、ならばこうしよう。あちらに高い山が見えるだろう。その麓に私の研究所があるので、ぜひ遊びにきてくれたまえ。アナも喜ぶであろうから、楽しみに待っているよ」
それだけ言うと、霞みがかかったかのようになってドレイクの姿が掻き消えてしまった。
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