121 / 153
121 教えて、ラマンダ先生。その5
しおりを挟む「ラマンダ先生、ここって信仰とか宗教はどうなってるの? 都とかで専用の建物とか見たことないし」
ハムートの都に住むようになって久しいが、私は教会に類する施設を知らない。
フクロウ宅急便にて各地を飛び回っている際にも、それっぽいモノを見かけたことがない。たまに地方にて謎の石像とか、小さな祠みたいなのはあるけれども、それだけだ。
死者を埋葬し弔う文化がある以上は、宗教もありそうなものなのに……。
だからこそ、忘れられし女神を信奉しているジルス教国の異様さが際立っていた。それにドレイク博士も神の存在を肯定していた。
なのに信仰だけが世界からすっぽり抜け落ちている。
これってちょっとヘンだよね。
そこで本日のラマンダ先生の特別授業にて、その辺の事情ついて質問してみた。
彼女は豊かな胸を抱えるかのように腕を組み、しばし思案の後に話し始める。
「そうですね……。まず現在では種族や国ごとに異なっていますが、たいていが過去の英雄や偉人なんかを神格化して、祀っているのがほとんどです。ちなみにハムートでは建国の祖が信仰の対象となっていますが、それとて上層部が儀礼的に扱っている程度ですね」
「ご先祖さまに感謝する、みたいな?」
「そんな感じです。ずっと以前には神々を信仰していた時代もあるらしいのですが、どうにもはっきりしていないのです。およそ三千年ほど前を境として、記録の途切れている期間があって、これを我々は『空白の時代』と呼んでいます」
古代遺跡なんかには、神々を祀っていたとおぼしき痕跡が残っているという。だが空白の時代を期に、それがピタっと無くなっているんだとか。
原因は不明だが、それ以降、神という存在を信仰の対象にしなくなったのは間違いないとのこと。
この壮大な謎を追及するために動いている冒険者もいるんだとか。
空白の時代に神とヒトとの間に、なにかがあった? うーん、古代のロマンだねえ。
「そうそう、神々といえば……。私たちの祖先は彼らの手によって、違う世界からこの場所に連れて来られたとかいう、説もありましたね」
ポンと手を打ち、このような話を口にするラマンダ先生。
発掘された遺跡のレリーフとかに、それっぽい絵が彫られてあったらしい。確証がないので、学会では与太話扱いされているそうだけど。
でもこの話を聞いて、私はなるほどと思った。
種族にしろモンスターにしろ、環境に左右されるとかいうご都合進化論で片づけるには、ここの生態系は乱雑すぎる。どこかから適当に寄せ集めてきたと云われたほうが、よっぽどしっくりくる。
「そういえば、ここって他種族同士が結婚した場合、どちらかの種族の子が生まれるんでしょ。どっちの確率が高いとかあるの?」
「それについては現在も世界の謎とされています。統計をまとめたこともあるそうですが、結果がバラバラすぎて研究者もお手上げだったとか。一説にはモンスターの発生条件と同じで、種族間のバランスをとるように産まれてくるとも云われていますが、根拠はありません」
「ふむふむ。ちなみに師匠とラマンダさんなら、どうかな」
「男の子ならやっぱり昆虫人がいいかしら。女の子なら……って、何を言わせるのよ! もう、知りません。本日の授業はここまで」
顔を真っ赤にしたラマンダ先生が、そそくさと教室を出て行ったので、第五回目の特別授業はこれにて終了。
昆虫人と魔法使いの組み合わせだと、どうなるのかという知的好奇心から出た質問だったんだけれどねえ。
さすがは元トップランカー、どうやら彼女は魔力だけでなく、妄想力も逞しいようだ。
これでハウンドさんが違う女に走ったら、マジで都が火の海になりそうで、ちょっと怖い。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
356
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる