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136 忘れられし女神編 世界大戦
しおりを挟む怪人、モンスター、魔甲騎兵、ゴーレム、それらで混成されたギガヘイル軍と大連合の各陣営は、しばし睨み合った後に同時に動きだす。
ついに戦いの火蓋が切って落とされる。
両軍の進軍によってカトブレパス平原が揺れた。舞い上がった砂ぼこりが空の陽射しをも遮り、戦場に薄闇を落とす。
個々の能力で勝るギガヘイル軍。それゆえに進軍速度にバラつきがみられるものの、全体に勢いがある。
数で勝る大連合軍。だがそれゆえに進軍速度が遅くなり、寄せ集めであるがゆえに連携もいまいち。せっかくの数を活かした包囲陣がなかなか完成しない。
そんな味方の様子を受けてイクロス王子が率いるハムート軍が先行する。敵勢の先鋒へとひと当てし、その勢いを削ぐのが狙いである。
青い魔甲騎兵メテオールを先頭に、ジンが乗る黒銀とレプラの赤い機体が続く。その後ろに旗下の機体らが矢じりの陣形にて隊列を組み、一糸乱れずにつき従う。
さながら一匹の青い獣のごとく戦場を駆けるハムート軍。その顎が突出していた敵軍の喉元に喰らいつく。暴れっぷりは凄まじく、次々と蹴散らされるギガヘイルの先鋒たち。慌ててゴーレムを並べて壁とし、これを防ごうとするも、わずかに遅い。
メテオールの突進力が勝り、防御陣が整う前に楔を打つ。
そこが起点となってドンドンと穴が拡がり、ついには貫かれてしまう。
足並みが乱れたところに殺到するハムート軍の魔甲騎兵団。
彼らの働きもあって東の戦場の初手は、まずまずの戦果で終わる。
だがカトブレパス平原の戦場全体でみれば、必ずしも連合軍の優勢とは言えない状況であった。
ハムート及び近隣諸国の集団は、常日頃より連携する機会が多い。対ギガヘイルだけでなく巨大モンスターなどを相手にする際にも、協力して対処している。中小国家はそうしないと生きていけないから。だからこそまとまりがあるのだが、問題は大国が絡んでいる陣営の周辺。
その国力ゆえに自己完結している彼らは、他国と足並みを揃えての行動に不慣れ。自負と驕りもあった。それゆえにどうしても自国本位の考えや動きになりがち。だがそれだとせっかくの数の優位性が保てない。なまじ巨大なだけに動きが緩慢。いたるところから喰い破られる。さながら陸に上がった大魚のように、満足に動けずに一方的に被害を蓄積させていく。
もっとも悲惨であったのは、これまで一度もギガヘイルの脅威に晒されたことのなかった国の軍勢である。事前に冒険者ギルドから詳細な資料を配布されていたのだが、あまりにも現実味がない内容であったので、どこか絵空事のように捉えていた。
怪人の中には単体にて魔甲騎兵を倒す強い個体もいる。それらに自陣を散々にかき回された挙句に、ゴーレムや敵の機体の突撃を受けて蹂躙されてしまい、甚大な被害を出す結果となった。
東西南北の四つの戦場にて似たような展開が随所に見られ、戦局は余談を許さない。
まるでそのタイミングを狙っていたかのように悪夢が出現する。
四体の白銀の巨人と、大型のモンスターが五体も現れた。
魔甲騎兵よりも遥かに背が高い巨人。歩くだけで陣形が蹴破られ、腕が振り下ろされるだけで瓦解し、多くの味方が吹き飛ばされていく。
「あれは……、以前にヒト喰いの地で現れた奴だな。やはりまだ居たか」
「でも大きさがかなり違いますね。半分、いや三分の一ぐらいでしょうか」
「それでも十分に脅威ですよ。まるで動く城塞だ」
新たに登場した敵兵力を遠目に眺めつつイクロス王子が漏らした言葉に、通信機越しにレプラとジンが応える。
彼らの言った通り、かつてリヴァイヴが操っていた個体と比べると、かなり小さい。あれはちょっと動くだけで震災が起こるほどであった。
もしもあのとき倒せていなかったらと想像して王子はゾッとする。
五体の巨大モンスターはすべて尻が大きなクモ型。地面をすり足で動くかのようにして移動しており、まるで小山が動いているよう。
ノロノロとしており、いい的だとばかりに集中して魔法攻撃を受けていたのだが、その体表には傷ひとつついていない。
「あれだけの攻撃を受けて平気なのか……、あっ! バカが、迂闊に近づくんじゃない」
思わず声を荒げたイクロス王子。視界の先ではどこかの国の魔甲騎兵の集団が、巨大クモに向かって突撃をかけているところであった。
モンスターの六つの瞳が妖しく輝き、六本の光の線が走る。激しい熱量を秘めたそれが魔甲騎兵を容易く切り刻み、爆発を引き起こす。
一瞬にしてクモの周囲が真っ赤な炎に包まれてしまった。
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